詩誌「光」末松 努
「呼吸」
手を伸ばし
澄んだ空気をつかまえ
息を吹き返す体と引き換えに
くすんだ空気を手放す
日々の呼吸、
透き通らぬ心身を案じながら
世の中は汚れているが
わたしは美しいと信じ
うまくいかない日常を
美しくない
仕方ない
わたしは悪くないと悲嘆しては進みゆく
吸って、吸って、吸って、
吐ききれない思いに過呼吸を起こしながら
美しいものだけで
美しい思いだけで
美しいことだけで
生きてなどいけない
そんな世界はないと信じ
美しい世界であれと念じ
捻れた世界に毎夜寝違え
回らぬ首をもてあまし
起床しては辛さに戸惑う
吐いて、吐いて、吐いて、
鬱憤を、愚痴を、未消化の夢を
汚し続ける人間どもが
美しくあろうともがき
清らかになるわけがないと蠢く
他人の汚れと他所の闇には敏感になり
自分の汚れと此所の闇には目を瞑る
果たして世界は美しくなるでしょうか
丹田を意識し
ゆっくりと吐き、少し吸う
腹の座った呼吸もせずに
なにを美しくありたいとほざいている
きれいなだけの世界しか知らないやつだ
きれいなだけの世界に住んでいるから甘くなると決めつけ
比較の名の下
さきほどまで美しいと信じた自分を捨て
あいつは美しいがわたしは美しくないとひがむ
その程度の呼吸で
悲運の自分を膨らませても
美しくなどならない
肺に宿る曇った精神を
太陽の色をした空気と入れ替えよ
自分を美しくしろ
差を測るだけに終わらせるな
汚れを知っているからこそ
誰よりも誰よりも自分を美しくしろ
汚れて美しくなれないというその精神を美しくしろ
汚れを纏ってなお無条件に美しいと呼ばれるほど
美しくなれ
そのための
呼吸だ
末松 努
1973年 福岡県生まれ。
既刊詩集
「淡く青い、水のほとり」(コールサック社)
「エール 〜あなたを応援する詩〜」(しろねこ社)
YouTube自作朗読も公開中。
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