透明な薄い膜・喪失1

いつもより騒々しい朝。
いつもの国道のT字の交差点で
何かが起こっていた。


春の終わりと初夏の間の、生ぬるい風に吹かれ、自転車を走らせる高校一年の僕は
少しずつスピードを緩め、停まった。
集まった数台の救急車やパトカー、交通整理する制服の男達、大きなトラックの事故車両、布の様なものがかけられた捻じ曲がった自転車が1台、中央分離帯の辺りに投げ出されている様子を目にして、感じたことのない焦り、嫌な想像が頭に浮かんだ。


そんなはずはない。

でも登校時ここを通るのは、この地区ではそんなに沢山の人はいない、おそらくうちの高校の生徒、あるいは...


いや、何も考えまい、考えたくない。
僕は気を取り直し、緩やかな登り坂で力一杯ペダルを踏み、イメージを振り切るように現場を後にした。

ざわついている教室。まだそんなに仲良くはない、うっすらと緊張感の漂うクラスは、不穏な空気に包まれていた。

「朝誰か車に轢かれたってよ」
「誰?うちの生徒?何年生?」

僕は、そんな下世話な推測はしたくなかった。誰であったとしても、あの様子で無事であるはずがない。
考えるのも恐ろしい。
とにかく自分とは関係がないと、強く心を閉じた。

そして、4時間目の英語の授業中、
ふてぶてしい男性教師はこう言い放った。

「今朝の事故だけど、あれはバカだよ。信号変わるギリギリで、左折するトラックに突っ込んで、巻き込まれてやられたんだよ、◯◯(ライバルの進学校)のやつだってね。うちの生徒じゃないから動揺しないように。」

◯◯は、僕の親友と呼べる人が2人、通っている高校の名前だった。すぐに顔が浮かんだ。でもまさか。いや、考え過ぎだろ。

16歳になる直前の、僕の心の中はもうぐちゃぐちゃで、何も考えられなかった。

そして昼休み、担任の女性教師が、神妙な面持ちで、僕を個別に渡り廊下に呼び出した。

「落ち着いて、聞いて欲しいんだ...。」

僕の薄っぺらな胸の中の心臓が、変な音を立てて身体中に鳴り響いた。

教師の言い淀む表情は、その内容の深刻さを物語っていた。

今から僕は世界で1番恐ろしい言葉を聞くことになるんだ。


誰か助けて。
たすけて。


続く


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