#68 G、ドバイへ行く
元同僚のGと半年ぶりに会った。
G「実はわたくし、先月ドバイに行ってきまして」
Gは新橋の安い居酒屋で席につくなりそう言った。
薄給の専門誌編集者であり、貧乏清貧な暮らしが個性の一つでもあるGが、
金満リゾート(イメージ)のドバイへ行ってきただと?
わたし「えっと…かの大戦でロシア人が満州に南下してきて言ったセリフ?」
G「それは、ダバイ(よこせ)ですね」
わたし「ほうれん草が大好きな」
G「それはポパイ」
わたし「つまり?」
G「わたくし、アラブ首長国連邦のドバイ首長国へ出張で行って来ました」
わたし「え………なら写真みせてよ」
Gは嘘をつくような人間ではないが、住民の平均年収が2600万以上であるという富豪の街・ドバイへGが行ったというのは、どうしても想像がつかなかった。
というか、かつて自分がGの指導係を務め、先輩ヅラをしてちょくちょく安い中華へ連れて行っていたというのに、今やGはわたしが一生訪れないであろうドバイへ仕事で行くようになったという事実を、嫉妬から素直に受け入れられなかったのだ。
G「こちらがドバイの写真です」
わたし「いや、普通、もっとドバイが伝わる写真を見せるだろ…」
G「確かに…失礼しました。こちらがブルジュ・ハリファです」
わたし「ほんとだ…世界一高いタワーじゃん…。G、登ったの?」
G「いえ、登るには二万円したので、よくよく考えてから断念しました」
この様子からして、どうやらGは本当にドバイへ行ったらしい。
あまりに動揺して、苦手な豆苗をGが注文するのを阻止できなかった。
G「ドバイへは、見本市の取材で行って来たんです」
…
ということで、出世した(?)Gに、二次会で高級コーヒーを奢ってもらった。
いつもならコーヒー代は何となく雰囲気偉そうにしているわたし持ちだが、仕事でドバイへ行くまでになったGに、コーヒーの一杯を奢ってもらうことに、もはや抵抗はなかった。
ついに、先輩ヅラを辞めるときがきたのだ。
しかもGは、今度、わたしに外注でお願いしたい仕事があるという。
わたし「えっと、できればドバイとかの仕事でお願いします…」
指導係のプライドは一瞬でたち消え、Gにヘコヘコするわたしであったとさ。
おわり