🇨🇳#13 内モンゴルのウランハダ火山で孤独を噛みしめる
中学まで、わたしは優等生だった。
成績は学年トップ、品行方正、生徒会副会長を務め、作文でも絵でも提出すれば賞をとった。
しかし、それは埼玉の田舎の中学における栄光であり、わたしは井の中の蛙に過ぎなかったようである。
進学校の女子高に入ると、入学するなり数学のテストで29点をとって呼び出された。
成績は3年間通して400人中380番目。
鼻炎薬を薬局で万引きして捕まるようなしょうもない大学生の初彼ができ、バイトに明け暮れ、学業とはほど遠い高校生活を過ごした。
その結果が、現在の、職業不詳、住所不定の旅する四十女である。
しかし、この身のどこかには優等生としての矜持が残っているようだ。
ツアー前日、ガイドさんに昼ごはんを持ってくるよう言われたわたしは、6時前に起床し、シャワーを浴びてサンドイッチと梨を手配した。
7:20の集合だったので、念のため7:10には集合場所に到着。
点呼の際には、
ガイドさん「白丸味噌子」
わたし「到!(います)」
と元気いっぱいに返事をした。
昼時、案の定現地で買えるだろうとたかを括って昼ご飯を持参してこなかった者が続出し、バスは道端の売店に緊急停車することになった。しかし、手に入るのは真空パックのウインナーや小さな菓子パンで、皆ひもじそうである。
内モンゴル自治区の都市部は発展しているが、草原地帯は、生活環境としては全国的に見てもかなり厳しそうに見えた。
草原で飲酒乗馬
輝謄錫勒草原の騎馬場に到着すると、バスを降りるなり、美女にお酒を勧められた。
飲んでみたら白酒(50度)だった。
これから馬に乗るのに、酒を飲んでいいのだろうか。
日本は、自転車に乗るのだって飲酒してはいけなかった気がする。
本日、優等生キャラ設定中のわたしは煩悶した。
例の如く、乗馬に関する詳しい説明は何もなく、馬に乗るなり出発するという、実践型指導だ。
数日前、敦煌でキャラバンリーダーを務めたわたしは、今回はお尻のポジションを間違えることもなく、比較的順調に乗馬することができた。
しかし、同じチームの男子がなかなか馬に乗れないでいる。
怖がっているうちに馬になめられてしまい、乗せてもらえなくなってしまったのだ。
気の短い調教師のおじさんは、男子に「何やってんだよ」と喝を入れ、ついでに馬を力いっぱい蹴り飛ばす。
馬より人間の方がずっと怖い。
ウランハダ火山ジオパークに到着
ここで突然、運転手さんから「不眠症」の告白がされる。
昨日、ほとんど眠っていないらしい。
そのため、2時間寝かせて欲しいという。
ガイドさんもこれに同意し、バスは乗客の下車後、1時間半扉を閉められることになった。
え…ここ、火山以外なんもないけど…。
おまけに、風は強く、日差しは強いのに肌寒い劣悪なコンディションだ。
みんながどうやって過ごすのか観察していると、宇宙服をレンタルして自撮りをしたり、子ヤギを借りて散歩したりしている。
何が楽しいのか全くわからないわたしは、時代の流れにもうついていけなくなっているようだ。
とりあえず時間潰しに火山の周りを一周してみることにした。
宇宙服を着ている若者たちは、身動きが取りにくいらしく、こちらにはやって来ない。
わーい。
火山も草原も独り占めだ。
と思ったが、風速体感20mの向かい風、空には「ヒュー」とか不気味な声で鳴く猛禽類がこちらの様子を伺っている。
孤独…。
優等生にはありがちなことではある。
しかし、ここには孤独を打ち消すための勉強道具も机も椅子もない。
それに、1時間半はいくらなんでも長すぎる。
無邪気な子どもであっても、遊具のない公園で遊ぶには、せめて、「トモダチ」が必要なはずだ。
缶蹴りしたり、色おにしたり…。
ああ、トモダチっていいな…。
結局、売店でお茶を一本買い、モンゴル族のおじさんに頼んで生活スペースの椅子に座らせてもらい、風を凌いで時間を潰した。
ありがとう、おじさん…。
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