🇨🇳#24 故郷に帰ったシャンシャンのその後を現地からレポートする〜四川省・成都〜
お金を人から借りた記憶はないが、これまでに不本意ながら借りパクしてしまったものはいくつかある。
だいたいは姉の持ち物で、独身時代の姉の家に行くと、彼女の使っているデパコスと自分のドラコスをすり替えるなどして、借り(?)パクしていた。
そのせいか、彼女が結婚後、今から5年前に建てた新居には、一度も「お呼ばれ」されていない。
(仲は悪くないので、外では会っている)
しかし、日本が中国から借りたら、絶対に返さなければならないのが「パンダ」である。
一頭くらいはどうにかならないものかと無責任に思ったりもするが、どんなに日本国民がこの貴重で愛くるしい珍獣・パンダに熱狂していても、約束の時が来たら返すしかない。
考えてみれば、子どもが友達からゲームを借りる場合も、「何日間」とか、「お菓子と引き換えに」とか、条件を提示するのはおよそ貸す側だ。
(借りる方が貸す方より拳が強い場合を除く)
だから、やっぱり日本は中国から「もう返して」と言われた時に、パンダを返すしかない。
さて、そうなると、わたしは日本でパンダを見ても、「いつか返すんだもんな…」と思い、落ち着いた心で彼・彼女を見れないのである。
もしこのパンダにハマってしまったら、いつか、気軽には会えないとこに行ってしまい、悲しくなると考えるからかもしれない。
いや、それよりももっと、このパンダを動物園で大切に育てた人たちのお別れ時の気持ちを想像するのが辛いのだろう。
なので、日本中の人々を夢中にしたパンダ「シャンシャン」を、わたしは見たことがないのである。
でも、わたしは今、彼女がいる四川省にいて、おそらく彼女はここで生涯を終えるわけだから、今は余計なことを考えずに彼女に会いに行ける。
成都のパンダ基地にシャンシャンはいない
で重慶から新幹線で1時間、やって来たのが、成都パンダ繁殖飼育研究基地。
…すみません。
シャンシャン、ここにはいませんでした。
彼女がいるのは「中国パンダ保護研究センター雅安碧峰基地」らしい。
あまりに遠すぎて今からは会いに行けそうにないので、お詫びに中国のローカルニュースで見聞きしたシャンシャンの近況をお伝えしておく。
シャンシャンは昨年2月に帰国。
海外から来たパンダは検疫を受ける必要があり、7か月強、同センターで隔離されていたそうだ。
その後、昨年10月から一般公開され、同センターの「豹子山」という場所で、ガラス越しに会えるらしい。
気は弱いが、笹や筍をバリバリ食べて元気にやっているという。
そして、日本の皆さまには残念な報告になるが、シャンシャンの中国での注目度はそんなに高くない。
なぜなら、他に、圧倒的なナンバーワンアイドル「花花(ホワホワー)」がいるからだ。
タクシーに乗った時も、運転手さんから「花花を見に行くんだろ?」といわれ、
道を歩いていたら「花花グッズあるよ」と声をかけられ、
誰それ?と思っていたが、基地に入ってその凄まじい人気ぶりを知った。
とにかくもう、「花花以外はパンダじゃない」くらいの扱われようなのである。
他のパンダは並ばず見放題なのに、「花花」がいるエリアだけ2時間待ち。
しかも、「2時間待っても必ず見られるわけではありません」と、警備員が繰り返し叫んでいる。
何も考えずに流れに乗って並んでしまったが、昨日、「天空の城」を見損ねたわたしは、運気の流れがよくないような気がして、すぐに列を離脱した。
2時間待って見られなかったら、絶望しかない。
それに、わたしは花花推しではない。
今さっきその存在を知ったのだ。
すると警備員は「花花見ないで帰るの?」と、まるでわたしが人間ではないような顔で驚く(被害妄想)。
また、わたしの「やーめた」につられて離脱する者は一人もいない。
この基地は、花花帝国と化しているようだ。
でも…2時間ですよ。
パンダはほかにも、ここにも、あそこにも、たくさんいるのに!
で、花花を諦めたわたしは、赤ちゃんパンダをあやすお母さんパンダや、笹を食べ続けるオスパンダや、パンダのお尻を満喫して基地を出た。
確かに花花は可愛いけどさ。
パンダはみんなパンダだし。
いくらなんでも贔屓しすぎ。
そんな気持ちがあったからいけなかったのかもしれない。
その時、事件は起こった
noteの写真映えのためだけに買った500円の「花花アイス」をかじった瞬間、何かが砕けた音がした。
地面に落ちた白いそれを拾い上げると、見覚えのある…自分の…前歯ではないか。
わたしは中学生の時にトイレでこけて顔面を打ってから、前歯が一本差し歯なのである。
で、去年、上海で素晴らしいセラミックスを入れたのに。
入れたのに…。
しばらく地べたにすわりこんで脳内会議をした。
歯なしで深圳の会議には行けないし、今から上海に帰ったら、後の予定の飛行機をたくさんキャンセルすることになって大損をする。
もうゴールは近いのに、ここで諦めて試合終了?
どうする? 歯なしの自分?
わたしは手のひらの上の前歯を右手でおもむろにつまみ上げ、スースーする口の空間にそっとはめてみた。
ハマった!
と思った瞬間、またポロリ。
むりぽ…。
結局、近くのローカル歯医者に駆け込み、謎の接着剤で応急処置をしてもらった。
歯医者さん「噛まないでください。取れるから」
よって、今日からの食レポは丸呑みとなる。
歯は取れても、旅はつづく…
※歯の治療費を回収するため、創作大賞に応募することにしました…。良い出会いがありますように……。