🇨🇳#40 中国一周して人生何が変わったか（最終回）

2024年7月5日 23:00

なくした自信を取り戻す旅

大切な人たちとの離別が続き、また、いろいろなことにチャレンジしてみるも、高過ぎる目標設定から夢叶わぬうちにすっかり自信をなくし、何事にも無気力になってしまった四十代の始まり。
不意に娘・ベビ子がくれたひとこと「母さん、一度、確実に達成できる目標を立てなよ」によって、わたしはこれまで漠然とした憧れであった「中国一周の旅」に出ることにしたのだった。

心震える美しい景色との出会い

中国は広い。
大陸を旅行するのは一度や二度ではないのでわかっていたことだが、改めてそう思った。
省を跨いだだけで、人、言葉、気候、景色がガラッと変わってしまう。

トルファンの赤く燃えるが如く聳える火焔山、敦煌の黄金色に輝く砂漠、貴州省の人を寄せ付けない険しさの梵浄山、麗江の目が覚めるような青い空と白い雲…中国の各地で、これまで見たこともないような壮大な景色に出会う度、わたしはわたしを失う感覚に襲われた。
大自然を前に、自分の存在をちっぽけに感じるという「Awe（オウ）体験」を超えて、もう、自らの存在すら忘れてしまった感じである。

そういう、魂を抜かれるような、圧倒的な体験をした日は、「我、ここにあり」の意識を取り戻すためにか、わたしはあれこれ夜遅くまで思考した。
日清カップヌードルのシーフード味が食べたいとか、キンキンに冷えたシャブリが飲みたいとか、足裏マッサージうけてーとか雑念もあったが、おおよそは、自分の存在や残りの人生について、ど真面目に考えたのである。

いつか、等しく、誰しもに訪れる「サラバ！」を考える

中国の超・大自然に出会って「没我」を経験したわたしは、今から二十年前、2004年の9月、まだ生後１か月半だったふにゃふにゃのベビ子を抱えて乗った東京成田発上海浦東行きの飛行機で、ふいに考えたことを思い出していた。

「わたしはこの金属の塊である飛行機が飛ぶ仕組みを知らない。だけど、当たり前にこの飛行機に乗って、日本から遠く離れた国へと向かっている。
この飛行機を最初に発明した人たちはもう死んでしまって、この世にはいない。それでも、彼らが生み出したモノは、こうして今ー未来の世界に繋がっている。
過去、それぞれの個人が懸命な生命の営みの中で生み出したモノやコトは、時間を超えて世界の中に組み込まれている。それらを当たり前に今、未来の人が享受しているという点で、彼らのたましいはこの時代と未来においても生きているし、私たちは一つである」

20才宗教家・白丸みそ子の悟り

と、二十歳にしては新興宗教の教祖様になれそうな哲学的気づきである。
あの頃のわたしは、今よりずっと純粋で、高尚な人間だったのかもしれない。

まあ、とにかく、何が言いたいのかというと、私たちは「自分、自分」に意識がむいて視野が狭くなりがちだけど、そんな「自分」はいつか必ず生命としては終わりを迎えるわけで。
一方で、個々人の活動によって生み出されたモノやコトは、その人亡き後も世界の中に組み込まれている。
そう思えば、いつか等しく誰しもに訪れる「サラバ！」も、少しは寂しくなくなるのかもしれない。
ということで、自分の一生が世界(大きなかたまり)の一部であることを意識して、その上で、自分が耕せる場所をせっせと耕して、微力ながらも、この大きなかたまりの今、未来を作っていこう…。
（白丸教代表・白丸みそ子氏の有難いお言葉）

と、わたしは、かたくて身動きの取れない狭い寝台列車のベッドの上で、畑の肥やしにもならない哲学をしながら、自分で生み出した謎の造語「大きなかたまり」のワードに引っ張られて、「大きなたまねぎの下で（爆風スランプ）」を聴いて眠りについたのである。

ハルビンでつきものが取れる

気持ちが軽くなったことに気づいたのは、北半分の省を回り終えた、黒竜江省ハルビンだった。
前半戦は寝台列車を使ったり、都市間の移動距離が長くて肉体的には相当疲れていたが、小雨の中、10元（200円）で買った壊れかけのビニール傘を片手にソフィア大聖堂を見上げた時に、「ああ、ここまで来れて本当によかった」と、思った。　
つきものか何かが取れたかのように、心がポジティブに傾いたのを感じた。

それは、美しい景色を見て、美味しいものを食べての「よかった」だけではなく、きちんと計画して、その通りに行動し、予定通りにいかなくなったら立ち止まってまた作戦を練る、その積み重ねで半分の目的地に辿り着けたことへの安堵の「よかった」だった。

そして、実は、旅だけでなく、四十年間の人生というのも、こうやってコツコツと歩んできたのだと、今さらながら気付いたのだ。
いや、もちろん、こんなに美しい、ソフィア大聖堂のような中間ゴールには辿り着けていないんだけれども、少なくとも、こうして息をして、デブ汗をかいて生きているのだから、それはつまり、それなりに選択、決断をしてきた結果なのだと。

それなのに、最近のわたしと言えば、自分の人生を「ク⚪︎ですな」とか簡単に切り捨てて、ずいぶん粗末に扱ってしまったなと。
これでは、悩んで苦しんで、なんとかギリギリで一歩を踏み出した過去の、子どもだったわたし、十代、二十代、三十代のわたしに対してあまりに失礼ではないだろうか。
と、いつも反省が足りないわたしは、珍しく自省するに至ったのである。

あの日、あの時、確かに輝かしい瞬間があったことを思い出す

そして、この旅で中国各地の美しい景色を目にしたわたしはひとつ、大事なことを思い出したのだ。

やたら冴えないと感じていたわたしの人生にも、途中途中で、輝かしい瞬間がたくさんあったなということを。

・小学生、小林一茶俳句コンクールで、自分の過去作をパクって賞をとった日。
・中学生、マラソン大会。表彰台に登れる10位入賞を目指して夜な夜なトレーニングをした結果、11位だった日。
・高校生、バイトをしまくって金を貯め、学校を二週間インフルエンザのフリをしてサボって一人でロンドンへ行った日。
・大学生、麻雀サークルで国士をつもった日。翌週、四暗刻をつもった日。
・難産の末、チアノーゼで産まれた紫色の顔をした娘・ベビ子と手術台で目が合った日。
・肺梗塞で生存確率5%未満と言われた姉が、ICUで２か月ぶりに意識を取り戻した日。
・自分の広告会社で企画したイベントで設計から担当した5mのLEDのクリスマスツリーにあかりが灯った日。
・借金スタート、給料支払うのもギリギリのレストランがヒットして、スタッフたちを連れて社員旅行へ行けた日。
・ベビ子が大学に受かった日。

今は、ずいぶん冴えないモンペみたいなズボンを履いて貧乏旅行をしているけど、
普段は埼玉の、茶畑しかない街でアホみたいな顔して冴えない暮らしをしているけど、

この四十年、目を瞑ってしっかり思い返してみれば、

仲間と飛び跳ねて喜んだこともあるし、
一人嗚咽をあげて泣いた夜もあるし、
人を愛したこともあるし、
人に愛されたこともあるし、

胸が震える、あの日、あの時の経験を知っているのは、このわたしだ。

ということで、しょーもない人生にもそれなりの価値を見出せたのが、この中国一周の旅でした🐼
旅日記はこれにてシューリョーですが、これからもしょーもないことを思いつきで綴っていきますので、どうぞよろしくお願いします🙇‍♀️

おわり

旅を支えてくれた宇多田ヒカルの「道」🛣️🐼🎶

総移動距離　約33230km
33地域クリア率　　33分の33
降り立った都市　39
(1)上海(2)新疆ウイグル自治区（カシュガル/ウルムチ/トルファン）(3)甘粛（敦煌/蘭州）(4)青海（西寧/海南チベット族自治州）(5)寧夏回族自治区（銀川）(6)陕西（西安）(7)山西（平遙）(8)河北（石家庄）(9)内モンゴル自治区（フフホト/ウランチャブ）(10)北京(11)天津(12)遼寧（瀋陽）(13)吉林（長春）(14)黒竜江（ハルビン）(15)山東(青島)(16)河南（永城）(17)安徽（馬鞍山市）(18)江西（九江市）(19)湖北（武漢/赤壁）(20)湖南（長沙）(21)貴州（銅仁市）（22）重慶（23）四川（成都）（24）雲南（麗江）（25）広西チワン族自治区（南寧）（26）海南（海口）（27）広東（深圳）（28）香港（29）マカオ(30)福建(福州）（31）江蘇（蘇州）（32）浙江（紹興）（33)チベット自治区（ラサ）
飛行機　　13回
新幹線　　19回（乗り換え含む）
寝台列車　4回
越境バス　2回