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#49 私なんかじゃなくて、絶対、他にもっといい人がいるから
「私なんかじゃなくて、絶対、他にもっといい人がいるから」
カフェでわたしの隣に座る女の子は、そう言って異性からのアプローチを断ったらしい。
ちなみに現在、月曜日の13:00。
週始まりでぼちぼち仕事をしているフリをしてnoteを書いているので、盗み聞きをするつもりはないのだが、どうしたって会話が耳に入ってきてしまう。
都会のカフェは席と席が近いのだ。
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今日は池袋東口だからまだマシだが、新宿二〜三丁目あたりのカフェの夕暮れ時なんかだと、五十〜六十の男女が訳アリな匂いを漂わせてうっとり見つめ合ったりしているので、気になって気になって仕事に集中できやしない。
「今日、実家帰るって言ってきた」とか、艶っぽいお姉様が湿った声で言うと、他人のわたしが勝手にぞわぞわしちゃって、「おっきくなっちゃった」のジョークマジックで売れたピン芸人じゃないけど、耳が急にダンボになってしまう。
という訳で、今日もゴシップネタに興味津々のわたしがチラリと「私なんかじゃなくて…」の声の主の方に目をやってみると、なんとか坂にいそうな可愛らしい顔立ちの女の子がそこに座っていた。
拳くらいの小さな顔に、猫みたいな目と忘れな鼻と薄い口。
メイクも髪型も抜かりなくて、どっちの女の子かは分からないけど、ホワイトリリーのいい香りだってする。
そりゃ、こんな子が近くにいたら、恋に恋焦がれる青年は告りたくもなるさ。
汗と獣(犬)のにおいしかしない中年であるわたしの真逆にある、この清らかさ、可憐さよ。
しかし、ここで捻くれ者人格の黒丸Bが登場し、疑義を唱える。
その言葉は、果たして彼女の本心なのかと。
なぜなら、わたし(黒丸B)がもしそのセリフを自分に好意を抱いてくれている男性に言うことがあるとしたら、それは、
「私なんかじゃなくて、他にもっといい人がいるから」≒
「あなたが世間一般的にモテるのは知っているけど、その魅力、わたしには刺さらないんだな」
か、
「私なんかじゃなくて、他にもっといい人がいるから」≒
「あなたとこの先、末長く平和に年老いていく自信がわたしにはない。お互いの時間を無駄にしないためにも、他に素敵な人を見つけてね」
が本心だと思うから。
あくまで…わたしの場合。
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まあ、これほどまでに意味深長ではないとしても、同様のセリフを他の人が言う場合もやっぱり、言葉通りの意味で伝えられる方が稀なんじゃないだろうか。
謙虚で思いやりがあるようにも聞こえるけど、実際には、出来るだけ穏便に、相手への自分のNGを伝える意図で使われるのがほとんどなのではないかと思う。
しかも、場合によっては、
砂漠でようやく見つけた売店で「水ください」と頼む瀕死の人に、「うちなんかじゃなく、あっちの売店ではいいもの取り扱ってるから」と、50km先の蜃気楼を指差すくらいの冷徹さを秘めていることだってあると思うのだ。
いや、いかんな。
こういう勝手な妄想、深読みはヨクナイ。
この子は本当に、自分に自信がなくて、彼に見合わないと思い、身を引いたのかもしれないのに。
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女の子の友達「それ、わざわざ言う必要なくない?」
女の子「いや、もうほんと無理なの。LINEウザいし、顔がキ⚪︎い、鏡見てみろよって話」
わたし「……ʕʘ‿ʘʔ⁉️」
まさかのわたしの想像の上をいく、
「私なんかじゃなくて、絶対、他にもっといい人がいるから」≒
「あなたのことキライなの。あなたはわたしに相応しくない」だった。
ま、まてよ…(黒丸混乱)。
そんなに相手を見下しているなら、なぜ「私なんかじゃなくて」を使ったんだ。
「私なんかじゃなくて」には、例え自分には相手の良さが刺さらなくても、少なくともどこかでは相手を評価し、立てようとする気持ちが含まれているのだと思っていた。
つまり、彼女は「私なんかじゃなくて」や「他にもっといい人がいる」の表現を単に「あなたは私には相応しくない」の皮肉で使っていたのか。
…
うぇ〜い、昼の池袋に、天使の顔したプチアクマちゃん現る。😇
ということで。
「ぶぶ漬けでもどうどす文化」の京都人を、「何考えてるかわからなくて怖い」という関東人が結構いるけど、実は自分たちだって、本来の意味を隠した言語でコミュニケーションを取ることがあるようだ。
「私なんかじゃなくて、絶対、他にもっといい人いるから」みたいな言葉の真意をもっと掘り下げて、たまには自らの言葉遣い(本音と建前)を省みるといいかもしれない。
※もちろん、言葉そのままの意味で使ってる人もいるだろうが。
ちなみに個人的な希望としては、(いらんこと言って人を傷つける必要はないけど)口から出すことと腹の中は、できるだけ一致させたいなあとは思う。
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今日の学び:言葉は魔法。言葉は刃物。
おわり