東京鬼リピ店vol.3 昭和の哀愁漂う老舗洋食屋「キッチンスズキ」
第三回目にしてネタ切れ感否めず、いきなり23区外、しかも四捨五入したら埼玉のような街を紹介することになった。
「なんだ…多摩エリアか」と読むのをやめようとしている都民または関東近郊の皆さま、クレイジーケンバンドの名曲の歌詞「俺の話を聞け」とは言わないので、犬養毅の「話せば分かる」で、しばしお付き合いをお願いしたい。
わたしが通うおすすめの店3店舗目は、昭和36年創業の老舗洋食屋「キッチンスズキ」だ。
多摩、しかも埼玉県民乗車率80%ではないかと思う私鉄の、急行がとまらない駅が最寄りだからと侮るなかれ、ランチは行列になるほどの人気店なのである。
西武池袋線の清瀬駅南口を出て、やや緊張感に欠けるネーミングの商店街「ふれあいど〜り」をひたすら進む。
この「ふれあいど〜り」、奥へ行くほどにひとけがなくなり、スピーカーから流れる昭和歌謡も相まって、だんだんうら悲しい気持ちになってくる。
ノスタルジーに浸り涙をこらえて進むこと約7分、八百屋を右折して出た通りに「キッチンスズキ」はある。
孤⚪︎のグルメ風男性たちの聖地
メニューがボリューム満点なせいか、客の大半は中高年の男性だ。
みな一様に「孤⚪︎のグルメ」にインスパイアされたかのような雰囲気を醸し出しているが、あちらもわたしを「ソロ⚪︎女子のススメ」の真似事だと思っているのかもしれない。
「違う、わたしはただ腹が空いていて、うまいものを食べたいのだ」と、被害妄想に襲われながら注文する。
「洋風ハンバーグエビフライセット」、キミに決めた。
頼んだら「え〜子どもみたいで可愛い〜」と言われる年齢はとっくのとうに過ぎたが、かわりに身に付けた「食べたいものを食べる図々しさ」で、やっぱり「洋風ハンバーグエビフライセット」を頼んだ。
さらにニッカハイボールを追加注文したところ、後ろの方から松⚪︎豊の信者かもしれない男性客が間髪入れずに「ウイスキーダブルのロック」と声を張り上げた。
ここで挑発、もしくはインダイレクトのナンパに乗ってはいけない。
ひとりでめしを食べてる女がみな「あちら様からです」のカクテルを求めているとは思わないでほしい。
わたしはただ、ハンバーグが好きで、ハイボールが好きなのだ。
今は令和、安いお酒をこちらが頼んでもいないのに送りつけて気を引こうなんて、「不適切にもほどがある」。
……
そして今、ちょっと明かすのをためらったが、このおじさんのナンパというのは、全くもってわたしの被害妄想であった(数分後におじさんの友達現る)。
サクサクの衣に包まれたプリップリのエビ。
タルタルソースとの相性が抜群である。
キッチンスズキで一番おいしいのは、このエビフライだと思う。
ハンバーグは、なんというか、外食しているというより、うちの亡きおばあちゃんが作ったかのような、手作りの味なのだ。
キャベツもみずみずしく、切り立て感がある。
家庭の味というのは、わたしは欧米人ではないが、和食だけじゃなくて洋食にもいえるんだなと、ここに来て改めて思った。
人の家でお腹いっぱい食べたおもてなし料理の味
家ではわたしが母にごはんを作っているので、外食をのぞいては、「誰かが作ってくれたごはん」を食べる機会がほとんどない。
なのでこの店に来ると、おばあちゃんだったり、友達の家のお母さんだったりがおもてなしの夕飯を振る舞ってくれた時のような気持ちになる。
そして、もうお腹はいっぱいなのに、彼女たちに喜んでほしくて、感謝の気持ちを伝えたくて、限界までおかわりしたことを思い出す。
と、今日はなんかいい気分なので、箸は使わず、テーブルマナーはイギリス式で、フォークの背にナイフでライスをのせていただく。
味もボリュームも昭和感も満点、実に満足である。
そして満足過ぎて翌日は腹が一向にすかず、朝も昼もスキップしたわたしであった。
大食漢なひと、節約を兼ねて食い溜めしたいひと、昭和浪漫の商店街を歩きたいひと、そして何より懐かしの洋食屋さんの味を求める方はぜひ、西武池袋線・清瀬駅に降り立って「キッチンスズキ」を訪れてほしい。
つづく…