稀代のピアニスト角野隼斗さんが、まだ底知れない進化の途中にあるという衝撃を感じた、ジョン・アダムス「Must The Devil Have All The Good Tunes?」大阪(2023.6.10)&東京(同6.11)公演。

いくら角野隼斗さんが好きすぎるとはいえ、「Must The Devil Have All The Good Tunes?」日本初演公演を大阪、東京の2会場も見に行くのは、常軌を逸した行為だと、まあ大半の大人は思うと思うのですが。

自分も、それなりに相当にしっかり年齢は大人なので、心の1/4くらいは「やめとけ」とたしなめる内なる声もあったのですが、それ以上に大きかったのは「いや、角野さんが日本にいるうちの公演に行かなきゃ、今後簡単には行けなくなるんだよ! 行けるときに行かなきゃ!」と純粋な瞳で主張する、でかい声の少女の私で。
私はこの自分の中のわがままな少女の声を、割と信用しているので、後で後悔するくらいならもう大阪も行っとこう!という事にしました。
その理由は主に二つ。

一つは、日本初演が厳密には6月10日(土)、大阪の公演になるからという事。別に初演日という歴史的に瞬間に立ち会いたい!とかいう記念日が好きな訳じゃなくて、この曲のロサンゼルス・フィルでユジャワンが演奏した音源を聴いて、かなりその攻めた曲調にしびれまして、難解なリズムでありながらオケとピアノがバチっとハマらないと、このドクドクドキドキしびれる感じは出せないなとも思って、これはもし生で見られたらゾクゾクするなぁと結構期待が大きくなって。
これを初めて日本で、私の世界一大好きなピアニストである角野隼斗さんが日本のオケとやるのであれば、その誰も踏み入れてない新雪にどんな足跡をつけるんだろう、という好奇心とワクワク感で一杯になって、ならばどうせならどうしても初日を体験したかった。

二つめは、単純で、ザ・シンフォニーホールに行って、響きを聴いてみたかったから。
大阪のザ・シンフォニーホールといえば、昨年ポーランド国立放送交響楽団、マリン・オルソップ指揮で、角野隼斗さんの「ショパンピアノ協奏曲第一番」がライヴ録音され音源化された場所として、個人的にはとても、もうめちゃくちゃその後も夢に見るくらいに、一度訪れてみたいなぁと思っていたホールでした。しかも、Reimagineツアーでもザ・シンフォニーホールの名前があり、私の思いはより一層募っていきました。
サイトを見ると、「残響2秒」にこだわった設計、カラヤンをして「世界一の響き」と言わしめた、というのもそそります。もちろん1982年に出来たホールなので音響的にもっと進化したホールが今は数々あると思いますが、数々の名演が生まれたホール、という歴史の重みも心をくすぐります。
今回、日帰りで頑張れば全然行けるんじゃない?という事も背中を押し、ついに行く事に決めました。
何といっても、最初入ってからの左右に分かれる階段がどうにもこうにも、良いですよね。由緒、歴史ある感じの調度品の配置というか設計というか。
そしてホールの天井オタクとして見逃せないホール天井ですが、吊ってあるものが普通湾曲した四角い板が数枚、多くても十数枚という感じだと思うのですが、そのさらに上に、綺麗な三角形のハンモックのような青い光を放つ(青はいつもなのか不明)物体も吊られていて、何だろう、何かの音響的な意味があるのだろうか….…と否が応でもワクワクします。
とまあ、いろんな理由を付けて、とにかく行きたかったのです!私は、笑。

公演の感想ですが、「Must The Devil Have All The Good Tunes?」への角野隼斗さんの解釈および表現は本当に凄まじかったです。一楽章、二楽章、三楽章と、ジョン・アダムズさんの題?によって、ご丁寧にこんな感じでというのがこの曲は書いてあるのですよね。
それをもちろん完全に実現しながらも、さらに角野さんでないと出せない表現力、音色、完璧なリズム感でそれぞれの楽章の曲調を表現していくのが、凄まじい神業だなと思いました。
だってこの、何とも言えんレベルの超展開満載で難解な曲なので、弾くのだって精一杯になってしまうのが普通であろうに、これを自分なりの音の表現として演奏するというのは並大抵の事ではないことです。
神業と言ってしまえば軽くなるくらい。
そこには、手を抜かないで楽曲と向き合い、分析して自分のものにしようとするとてつもない量の勉強や努力があり、かつ、ただでさえ難解なレベルのその音符をどんなふうに自分なら表現するか、というひとつひとつに妥協しない挑戦をしているからこその、結果のこの表現であることが角野さんをきちんと見て、角野さんの音楽を聴いていれば一目瞭然で分かります。

一楽章のファンキーながらも低音でずんずん来る音や、強めの音で咆哮みたいに鳴る所もあったり、色んな展開をしていってジャズ風だけどでもリズムが相当に正確で、そのリズムの縛りの中で、周りの楽器が何とも不穏に絡みついてくる感じとか、とっても良かった。
二楽章の音は、角野さんのピアノの音が物凄く美しくて、美しいからこそ妖しくて、優美だからこそ不気味さも醸し出されて、浮遊感の中でどこへ向かうのか曖昧で不穏で良かった。一と三があるからこそ、この幻想的な二楽章の世界観が特別な意味を持つ感じがして、私は結構好きだ。
三楽章は、高揚感と緊迫がどんどん増していってもう止められらない。悪魔が誘う饗宴へ誘い込まれるピアノの強い音、引きずり込まれそうになって、戻る度にますますボルテージが上がるピアノの演奏。狂気へと誘われていく最後にかけて盛り上がるピアノが素晴らしかった。凄かったな。

この曲、オケの皆さんも絶対に絶対に難しかったと思うのに、初日よりも二日目の今日はとくにピアノとのリズム的なタイミング、絡みが合っていたように思うし、初日のドキドキ感も少し落ち着いて堂々と鳴らしていた気がしてそれが良かったです。いや素人意見なので違っていたらすみません…。
(個人的な趣味で言うと、もっとオケの皆さんぐいぐい来てくださっても全然自分の好み的にはウェルカムです。悪魔的狂気とかが盛り上がっていく三楽章では、普通のクラシックでは聴いたこともないような鋭さの音が、要所でガッと出てきたらもっともっと超絶カッコいいだろうなと思ったりしました。素人考えですみません…)
次回がもしあれば、ぐいぐい悪魔の狂乱していく音楽をまた聴きたいなと思います。でも昨日、今日ととても満足です。ありがとうございました。

アルプス交響曲もあの長大さでありながら、間延びせず、ずっとストーリー展開に則った緊張感や優美な美しさや、壮麗なアルプスを思わせるのびやさがあったりし、もちろん一番楽しい(ていうと語弊がありますが)嵐の部分! あのウィンドマシーンと雷音器は、本当になかなか見られないので「おお!!」ってワクワクして聴いていました。それに単純に見ていて楽しすぎる。(大阪公演の時、風音器が鳴るたび、隣の隣の女の子がぐるぐる腕を回していました。気持ちわかるよ!笑)
音楽的にも最高に素晴らしかったのですが、あのコンマスの方のヴァイオリンは素晴らしく美しくのびやかに響いて、心を持っていかれました。なんて美しく響くんだろうと思いました。

時系列的におかしいですが、私が何より書きたいのは!!
角野隼斗さんが初日、二日目で弾いたアンコール曲について!!!です。
初日は大阪でカプースチン「8つの演奏会用エチュード Op.7より間奏曲」
今日は東京でフリードリヒ・グルダ「前奏曲とフーガ」
をやったのですが、それぞれ胸に突き刺さって抜けない大感激ポイントがありまして、これを、個人的な勘違いでも何でもいいので書かせてください!

まず、カプースチンの「間奏曲」。
これはもう好きすぎる曲なので、角野隼斗さんが弾かれる7番は何回も聴いてきたぜ!と自負していたのですけど…。
ところがどっこい。進化しているんですよ!
角野さんは止まってないんです。つねに前に前進している!!!(重複)
個人的熱狂ポイントは、細かすぎて伝わらないものまねくらい細かすぎて、たぶんほとんどの人に共感を得られないと思うのですが……。

例えば何度も出てくる(ちょっと耳で聴いてるので音ずれてたらすみません)冒頭の「ラファレシシ ラファソシレド ファーレー」の所で。
ラファソシレドの持っていき方! その絶妙な音と音の間、タメ、グルーヴ、間隔、伸ばし方、裏拍への意識、なんというのかわからないけど、その弾き方が、本当に今まで聴いた中で最高に心奪われて、もうこれ以上の絶妙な最高の弾き方はこの世にないよね!って感激するほど素晴らしかった。
絶妙にこれしかない!、このタメしか最高の正解はありえない!、ってくらい、ぐっと実際に心臓掴まれて痛いくらいに凄くかっこよかった。。。

そこだけじゃなく、全体的に後半でも個々の音の置き方(ダンスでもよく音のどこをタイミング取るのかとか言われるんだけど(頭かお尻かど真ん中か))だけでなく、それより遥かに進んで、ある小さな一つの旋律の塊の中で、一個一個の音がそれぞれどのタイミングや間で弾いてあげたら、全体として鳴ったとき最高にバチっと気持ち良いのか、その絶妙な加減が最高で、びびっと感覚の精度が合っている感じがしました。
特にジャジーに弾くカプースチンなので、勝手に裏拍意識(ダンスのオンカウントでなくエンカウント)かつ、2拍4拍めが割と大事なヒップホップと似た感覚あるのかなと思ってたのですが、本当に昨日の演奏はその私の好みにぴたりと合いすぎていて、超カッコ良く、ひとり悶絶しました…。
あぁもうこんなに絶妙にこれしかない感じで弾かれたら、他の人の演奏とか絶対聴けないよ。どうしてくれよう笑。かくなる上は音源化希望ですね笑。
もしかしたらNYで吸収された刺激や、NAMMのホセ・ジェイムズさんとのセッションで影響されたりしたものがあるのかもしれないのですが、いやもう本当に良かった……。

そして今日(あー!日付は昨日になってしまった)のアンコール、フリードリヒ・グルダ「前奏曲とフーガ」。
これはツアーで沢山聴いてきた曲です。一番個人的にはグルーヴィーでノリノリに乗れて踊りやすいなと思う曲なのですが。
今晩の隼斗はひと味違った。

前半はグルダを踏襲、そのままのグルーヴ感を生かしつつ、弾いていたと思ったら、フーガの途中で音がだんだん詰まってくるところがあって、その後の左右の音のユニゾン部あたりから全然急激に様相が変わって。
またどっかーん!超新星爆発みたいな見たことも聴いたこともない、隼斗ワールドが爆誕しまして。
疾風怒涛のインプロがあれよあれよと繰り出されて(あれよなんて生温いもんじゃない)実際そんとき私は振り落とされないように、思わず体で16ビートを刻む体感で聴いてたほどでした。
音がめっちゃ詰まっていて角野さんから次々に奔流みたいにあふれ出して、さっき閉じ込めた悪魔出てきちゃったよ!って位、怒涛の即興の音の奔流がぐわああああっっっと押し寄せましてきまして、それの何が凄いって、適当なの弾いてるんじゃなくてめちゃくちゃこのプログラムにもこの曲にも合った絶妙のインプロで、しかもカッコいいんです!!!!
最後演奏が終わりになる瞬間まで、その手は一時も休まらずに、観客に息もつかせない程の勢いで、とんでもない即興を弾ききったのです。

もう、ブラボー!!!!って全力で立ち上がりましたね。
椅子立ち上がり最短記録の世界選手権があったら、相当上位狙える勢いで(0.07秒とか)、思わず立ち上がって全力で手を叩いてました。笑
ちょっとこの時本当に演奏がカッコ良すぎて、脳内も処理できないほど参っていて、心臓はぐさっとやられてるし、”いやもうカッコ良すぎる!!!”って顔も半泣きで頭クラクラしていたのですが、とにかくこのとんでもない奇跡を生み出した角野隼斗氏を、いまは全力で全身全霊で讃えねばと、心からの拍手を贈りました。何度も鳴りやまない拍手の中で、さすがにご本人、まだ拍手してるかな?もういいよ?って感じになってたけど、感動で拍手止まらなかった。
ほんとうに素晴らしかったです。

だんだん何かいているか分からなくなってきましたが。
とにかくうちの隼斗は凄かった!(オカンか笑!断じてお前のじゃない)
我々の敬愛する角野隼斗さんは、今回も難題を完璧に成し遂げました。
しかも、100m先にあるフェンスを越えれば十分ホームランなのに、あの細腕で、飛距離1kmは軽々飛ばすほどの長距離砲をぶっ放して、自分を含め聴衆をアッと言わせてくださいました。凄すぎるよ、隼斗さん。

改めて、角野隼斗さんには、いまだに底知れない進化の可能性が秘められていて、まだその御身には沢山の可能性の原石が眠っている(すでに発掘され開花した才能だけで天才すぎるというのに、さらにまだ伸びしろの原石がごろごろあるという衝撃の事実。。。)という事を思い知らされた、そんな2公演でした。

つねに挑戦する姿勢と、見たこともない感じた事もないほどの大感動を、いつもありがとうございます。
その姿にいつもめちゃくちゃに元気をもらっています。
アメリカに戻るまでに、まだ角野隼斗さん関連のかなりの公演に伺う予定なので、この二か月はめっちゃ楽しみです。
角野隼斗さんにとっても、実り多い二か月になりますように。

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