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【ショートショート】見てらんないよ、この空。
子どもの頃、私はいつも空を眺めていた。
体育の授業中、ぼうっと空を眺めていて「どこ見てるの!?」と注意されたこともあるくらい。
はじめは流れゆく雲を見ているのが好きだった。
常に動き続け、毎日変わる空模様。
飽きることがなかった。
そんな空の中で、一際早く動く光る物を見つけた。
飛行機だった。
山奥の田舎に住む私は飛行機を間近で見たことがない。
さぞかし大きいらしいが、どんな物なのだろう。
それから飛行機は私の憧れだった。
あれに乗れば山奥の小さな集落から抜け出して、都会や海外に行けるんだって。
私にとってこの集落が世界の全て。
朝学校に行って勉強して、放課後に友達と日が暮れるまで外で遊んで、
時々母に付き添って商店で買い物をして、夕飯を食べてお風呂に入って、
床に就く。
それだけの毎日だった。
全てがこの集落で完結する。
ある日、家族ぐるみで仲良くしている近所のお姉ちゃんが大学進学のために東京へ行くと知った。
お姉ちゃんは大学で英語を勉強して、CAになるのが目標だと。
CAとは飛行機の乗務員のことらしい。
あの飛行機に乗って仕事が出来るのか…
いいな。
それから数年後、お姉ちゃんは夢を叶えて大手航空会社に入社。晴れてCAとなった。
私は同じ目標を持って上京してきた。
それなのに
お姉ちゃんと東京で久しぶりに会うことになった。
「どう?就活。力になれることがあれば手伝うよ。CA目指してるんでしょ?」
「うん…そのつもりだったんだけど…なんか段々向いてないかもなって」
「どうして?」
「飛行機に乗ることが夢だったから、自分が色んな所に行きたいっていうのが夢だったから。CAの仕事知れば知るほど、お客様のためにとか、安全のためにとか、そんなの私にできるかなって…」
本音だった。
東京に出てきて、現実を見た。
ここは現実の街だった。
あの頃見ていた遠く小く光っていた夢が目の前に現れたとき、何を思ったか。
「夢を見ていたときの方が幸せだった」
大学を卒業した私は、夢だった航空会社を1社も受けず、英語科教員として地元に帰ってきた。
授業中、ぼうっと窓から空を見上げている生徒。
「はい、授業集中して。」
そんなこと言いながら、私だって空を見上げたくなるようなすっきりした秋晴れだ。
休み時間、同じ窓から空を見た。
あれ、こんなに空って眩しかったっけ。
あの頃いつまでも眺めていられた空はやけに眩しく、3秒見つめるのが精一杯だった。