『82年生まれ、キム・ジヨン』#11:解説
語注
큰집:本家(分かち書きしない点に注意)
친정[親庭]:(結婚した女性の)実家
토란[土卵]:里芋
解説
下線部1の -느라 は -느라고 の短い形です。この -느라(고) は主に①原因と②目的を表すと言われます。
① 原因
먼 길 오시느라 고생 많으셨습니다.
「遠いところよくいらっしゃいました。(lit. 遠い道いらっしゃって、お疲れ様でした。)」
② 目的
돈을 버느라 열심히 일했다.
「お金をかせぐために一生懸命働いた。」
さて、そのような -느라(고) なのですが、原因なのか目的なのか判然としない場合もよく観察されます。ちょうど今回の下線部1の場合がそうです。ここでは二つの事柄 손을 치르다(お客をもてなす)と 스트레스가 많다(ストレスが多い)が同時に起こると解釈されるために、そのようなことが起こっていると考えられます。通常、原因であれば「A → B」という時間的な順序で、目的であれば「B → A」(上の例で言うと「働いて、お金がかせげる」)という順序だからです。
「原因」と「目的」を表すという点では、日本語の「ために」に近いところがあります(雨が降ったために中止になった、留学するためにアルバイトをした)。今回のところも「お客さんをもてなすために」としておけば、どちらのニュアンスも出るような訳になるのではないでしょうか。
下線部2の -어 놓다 は#4で詳しく解説しています。고아 놓은 の動詞の基本形は 고다(煮込む)ですね。-어 놓다 は結果に焦点がある補助動詞なので、ここは、あらかじめ煮込んでおいた、というよりは「煮込んであった」と解釈するのがよいかと思います。
4行目の 새 밥 について補足しておきましょう。日本語の「新しい○○」を韓国語で言う場合の選択肢は二つあります。ここの連体詞 새 か形容詞 새롭다 の連体形 새로운 です。それぞれの辞書的な意味を「標準国語大辞典」から挙げておきます。
새
[1] 이미 있던 것이 아니라 처음 마련하거나 다시 생겨난.(すでにあったものではなく、初めて用意したり、再度生み出された〜)
[2] 사용하거나 구입한 지 얼마 되지 아니한.(使用したり、購入してからいくらも経っていない〜)
새롭다
[1] 지금까지 있은 적이 없다.(今までになかった)
[2] 전과 달리 생생하고 산뜻하게 느껴지는 맛이 있다.(前とは違い生き生きとし、すがすがしい感じがする)
よく出されるわかりやすい違いとしては、새 담배「新しい煙草」といったときは、まだ吸ってない煙草を意味し、새로운 담대「新しい煙草」であれば、新製品の煙草を意味するという例があります。
ここの 새 밥 は [1] の意味に該当するでしょうか。
わたしは依然「アンパンマン、新しい顔よ!」の「新しい」は韓国語で 새 か새로운 か、ということを考えたのですが、結論としてはどちらでも表現可能なようです。このようにどちらも使える場合もあったりして、なかなか両者の使い分けは奥深いところがあります。
日本語訳
(以下はオリジナル訳です。多少ぎこちないところもありますが、原文を活かした訳文にしています。ぜひ翻訳版とも比較してみてください。)
夫の実家が本家なので、祝祭日のたびに祭祀の食べ物を準備し、お客さんたちをもてなすために、ストレスは大変なものがある。チョン・スヒョンさんは実家に来るなり倒れ込んでしまった。キム・ジヨンさんとチョン・デヒョンさんのお母さんはじっくりと煮込んでおいた牛骨スープで里芋汁をつくり、新たにご飯を炊き、お魚を焼き、ナムルを和えて、昼食の支度をととのえた。
◎ 日本語の翻訳版では誤訳がありました。뻗어 버렸고 のところが「足を伸ばしてくつろぎ」となっています。たしかに 뻗다 には「伸ばす」という意味がありますが、ここでは日本語の「のびる」のように「ぐったりする」「くたばる」という意味です。英語版では passed out としていました。