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『82年生まれ、キム・ジヨン』#3:解説
語注
당부 [當付] 口頭でしっかり頼むこと
찡그리다 (顔、眉などを)しかめる、ゆがめる、ひそめる
서방 [書房] 「婿や義理の弟の姓+서방」で呼称として使う
뚝뚝 水滴などが落ちる音や様子:ぽろぽろ
곧잘 かなり上手に、なかなか
대수롭지 않다 (否定とともに)大したことない
解説
下線部1は -ㄹ 때(〜するとき)に -면(〜たら、〜れば)が付いていますが、この二つが組み合わされると「〜するときはいつも」というニュアンスが出ます。なので -ㄹ 때면 の後に 꼭(必ず)、늘(いつも)、언제나(いつでも)のような副詞や、下線部3で取り上げる、習慣を表す -곤 하다 が使われることもよくあります。ここの文ではそのような「いつも」を表す要素はありませんが、このニュアンスをくみ取れるとよいですね。
下線部2は解釈の問題というより、韓国語と日本語の違いについてです。韓国語と日本語の大きな違いとしてよく言われるのが、日本語は名詞をよく使い韓国語は動詞をよく使う傾向があるということです。例えば、「眼鏡の子」という場合、韓国語は 안경의 애 では不自然で、안경을 낀 애(眼鏡をかけた子)のように 끼다(かける)という動詞を使った方が自然になります。「厚着」は 두껍게 입다 と言うとか、とにかくこのような例は枚挙に暇がありません。しかし、ここでは 웃음이 많다(笑いが多い)でどちらかというと名詞的な表現になっています。これを日本語で表現するなら「よく笑う」のように動詞を使うしかないでしょう。類似の表現としては 잠이 많다(眠りが多い=よく寝る)があります。ちょっと違いますが 겁이 많다(臆病だ)なんかも形としては似ていますね。
下線部3は下線部1のところで少し言及した -곤 하다 が使われています。これは習慣を表す表現で「よく〜する」という意味です。日本語では特に訳出しなくてもいい場合も多いですが、過去の場合だったら「〜したものだった」とするとニュアンスが出ますね。-곤 하다 で使われることが多いですが、-고는 하다 の場合もあります。
下線部4については意味をとれないということはないと思います。안다 は「抱く」ですが、ここは「ハグをする」ぐらいの意味で「ハグをしてあげて出勤した」ということはわかると思うんです。ポイントは -아/어 주다 が入っているところです。ここを単に 안고 출근했다 にすると、妻を「抱っこして」出勤したかのように解釈されかねません。-고 の形ではなく 안았다 であれば「ハグした」とも「抱っこした」とも解釈できます。ただ、-고 の場合は「抱っこして」という様子を表すことが多いです。-고 の意味にはいろいろありますが、自分に身につけるような他動詞(-를/을 を取る動詞とお考えください)、例えば 메다(かつぐ)とか 쓰다(かぶる、つける)とか、あるいは 들다(持つ)とかは「そのような様子で」という意味の場合 -고 になります。次のような例があります。
例)가방을 메고 나갔다.「カバンを背負って出た。」
안다 も「抱っこ」解釈の場合は要は「持っている」のと似たようなものだと考えられるので、안고 だけでは「抱っこした様子で」と解釈されてしまう可能性が大きいです。ここでは 한 번(一度)とあるし、赤ちゃんじゃなくて妻だし「抱っこした様子で」の意味で解釈することはなくても、やはりちょっと 안고 は不自然なようです。なのでここは -아/어 주다 を付けているんだと考えられます。なお -아/어 주다 を付けた場合も、対象が赤ちゃんなら「抱っこした様子で」という解釈も可能ではあります。
-고 や -(아/어)서 の意味については機会があればまたどこかで詳しく説明することにしましょう。
課題文4行目の 정신을 놓다 は直訳すると「精神を置く、放す」ですが、これで「魂が抜ける、ぼけっとする」という意味です。この 정신 [精神] を使った 정신(이) 없다(わたわたする、落ち着かない)などの「精神シリーズ」はよく使う表現ばかりなので、知らなければ一度辞書で確認しておくことをおすすめします。この表現は俗に 정신줄을 놓다 とも言い、その逆は 잡다(つかむ)です。
日本語訳
(以下はオリジナル訳です。多少ぎこちないところもありますが、原文を活かした訳文にしています。ぜひ翻訳版とも比較してみてください。)
そのときもチョン・デヒョンさんは妻がふざけているのだと思った。お願いや頼みごとをするときは決まって少し右目をしかめるのも、自分を呼ぶときに「チョンさーん」と「さ」を長く伸ばすのも本当にそっくりだった。最近育児疲れからか宙を見つめぼーっとしたり、音楽を聴きながらぽろぽろと涙をこぼすこともあったが、キム・ジヨンさんはもともと明るく、よく笑い、TVのお笑い番組を見ると上手に真似して、よくチョン・デヒョンさんを笑わせていた。チョン・デヒョンさんは大して気にせず、妻を一回ハグすると出勤した。
◎ 課題文3行目 정 서바앙 のところは前の文脈がないと少しわかりにくかったかも知れません。翻訳には工夫が必要ですが、翻訳版では「デーヒョンさん」としていました。
◎ 課題文4行目 육아로 지쳤는지 を翻訳版は「育児疲れのせいか」としていたのでそれに倣いました。ここは韓国語の 지치다 に対し日本語は「疲れ」という名詞を使っています。まさに下線部2のところで解説したとおりですね。
◎ 実は今回読んだところの日本語翻訳版(2019年1月 初版4刷を確認)では、誤訳というより編集のミスとしか考えられないような訳になっています(事情をご存知の方は教えてください)。翻訳版を見られる方はぜひ原文と比較してみてください。