『82年生まれ、キム・ジヨン』#5:解説
語注
얼어붙다 凍りつく
뻘뻘 (汗が)だらだら
바들바들 ぶるぶる
난감하다 [難堪-] (どうにもこうにもできず)困った
접다 ここでは「(考えなどを)引っ込める、諦める」という意味。생각을 접다, 꿈을 접다 などと使う。
解説
下線部1は単純に「だから」と訳してしまわなかったでしょうか?辞書を引きましょう。小学館の『韓日辞典』にはちゃんと「つまり」という訳語が与えられています。ちょうど同じような例があったので引用しておきましょう。
例)그 사람을 만난 것은 작년 여름이었어. 그러니까 팔월 말께였지.
「彼に会ったのは去年の夏だった。つまり8月の末ごろだったよ。」
(p. 230)
この下線部1のところはちょっと「つまり」だと収まりが悪いかもしれませんので訳は工夫する必要がありますが、この意味はしっかり確認しておいてください。
下線部2の意味はわかると思います。ですが、日本語で「真夏の真昼だったし、日差しがとても熱くかったし、…」とするとくどいことこのうえないです。「真夏の真昼で…」としても同様です。ここはいくつかの状況が列挙されているだけなので、文を切ってしまえばいいんです。「真夏の真昼(のこと)だった。日差しがとても熱く…」のような感じです。あくまで日本語訳の問題ですが、時にこのような工夫が必要です。
極めて言語学的でないことを言うと、韓国語の -고 という接続語尾は自由自在にある事態AとBをつなげられるといった印象があります。前回#4で "연락하고 만났다" という文が出てきましたが、これなんかも日本語で「連絡し(て)、会った」というとなにか物足りない印象がありますが、韓国語はこれでいいんですね。좋고 나쁘고를 떠나서(良い悪いを別にして)のように名詞的に使えたりするところも日本語の発想からはなかなか出てこないんじゃないかと思います。
下線部3は普通分かち書きされずに -만하다 の形で使い「〜くらいだ、〜ほどだ」という意味を表します。買い物をしているときに「これくらいのありますか?」と聞きたいときはジェスチャーをしながら "요만한 거 있어요?" とか言えばいいわけです。
下線部4の -자 は「〜すると(…した)」という意味を表します。#2 で出てきた -자마자(〜するやいなや)にも似ていますが、どちらかというと書きことば的な接続語尾で、-자 は -자마자 ほど「すぐに」という意味を含みません。また書きことば的な性質とあいまって、文末に命令形などを使えません。例えば -자마자 では下の例のように言うことができますが、これを -자 で言い換えることはできません。
例)출구를 나오자마자 바로 오른쪽으로 가세요.
「出口から出て、すぐに右側に行ってください。」
また、-자마자 はあまり否定と一緒に使われませんが、-자 は例のように否定とも使われます。
例)비가 그치지 않자 취소를 결정했다.
「雨がやまないずにいると/やまなかったので、中止を決定した。」
-자 は「〜すると」でだいたい訳せますが、うまくいかない場合もあります。また出てきたときにでも解説することにしましょう。
課題文2, 3行目に 한여름, 한낮, 한가운데 が出てきます。ここで 한- は「ちょうど;真…」という意味です。よく使う三つがここに出てきているので、知らなかったら覚えておきましょう。
日本語訳
(以下はオリジナル訳です。多少ぎこちないところもありますが、原文を活かした訳文にしています。ぜひ翻訳版とも比較してみてください。)
チョン・デヒョンさんは一瞬凍りついた。あれはつまり20年近く前のことだ。真夏の真昼間だった。日差しがとても熱く、手のひらほどの陰もないグラウンドの真ん中での出来事だ。どうしてそこに行ったのか思い出せないが、とにかくばったり会ったチャ・スンヨンさんが急に「好きだ」と言った。好きなんだと、汗だくになりながら、唇を震わせながら、言葉に詰まりながら。チョン・デヒョンさんが困った顔をすると、チャ・スンヨンさんはすぐに気持ちを切り替えた。
◎ 課題文3行目の 운동장 ですが、これはよくある「韓国語は漢字語、日本語は外来語」パターンです。この場合、日本語は「運動場」でもよいですが、大学の話なので「グラウンド」がいいですかね。「プレゼント:선물 [膳物] 」とか、このたぐいはたくさんありますね。その都度韓国語と日本語の違いを意識するようにしましょう。