8050問題

8050問題や9060問題という言葉をご存知でしょうか。

“80代の親が50代の子どもの生活を支えるために、経済的にも精神的にも強い負担を請け負う“という社会問題となっている言葉ですが、現在ではこの問題が高齢化して、90代の親が60代の子どもの生活を支えるという問題に発展しています。

当クリニックにも、そのような状況(予備軍と思われる状況)にあるご家族からのご相談をお受けします。

ご相談に見えた女性(仮にHさんとします)は、息子さんのことで悩まれていました。息子さんは大学を卒業して社会に出る段階でのつまづきから、その後は、社会との接点を絶ち、現在では未来に絶望しているとのことでした。「もういつ人生を終えてもいい」と言ったり、時にはイライラする気持ちを抑えられずにHさんの胸ぐらを掴んで殴りかかろうとしたりすることもあるので、精神的に参ってしまったということで来院されました。

Hさん自身の体調不良の根底には息子さんに対する心配があり、親としてなんとかしたいと思っているようでした。息子さんのことを外部に色々と相談しようとしたようですが、ご本人の拒否反応が強く、どこにも相談ができないともおっしゃっていました。

実は、以前、私の不動産屋としての仕事の中でも、同様のご相談を受けたことがあります。

その時はまさに社会問題となっているような80歳のご両親と50代の息子さんでした。ずっと引きこもり状態にあった息子さんでしたが、ご両親は何十年も外部に相談することもなく、なんとかご自身の収入で息子さんの生活を支えていました。しかし、ご両親も年金生活になり、経済的にも体力的にも息子さんを支えることがきつくなってきたのを実感したことで、息子さんを一人で生活させることができないかと私に相談することにしたそうです。
私はその時、まずご両親の話から息子さんが信用しているのは誰なのかを探ることにしました。すると、どうやらお姉さんのことはとても好きで、お姉さんのいうことなら耳を傾けてくれることがわかりました。社会と接点を絶って生活されている方は、基本的に人に対する拒否感や不信感が強いように思われます。そのような状況でいくら色々とアドバイスをしたとしても、その方の心には届きません。だから、誰がその方にとって信頼できる人なのかを探ることで、次はご本人が信頼している方に協力を願えないかというアプローチをして、その方を巻き込んで支援する流れを作っていきます。このケースの場合は、お姉様でしたので、お姉様にご連絡をして、その後ご本人と会う段取りになった時には同席していただくことになりました。その後もことあるたびにお姉さんを交えて話し合いを重ねていきました。

その後、色々とあったものの、なんとか無事にお部屋を借りることができましたが、実はこの方は50代になるまで、銀行口座も持ったことがないくらいの状況でしたので、この後生活をどう組み立てていこうかと悩みました。基本的な考え方として、私はたくさんの人が少しずつ関わる支援が良いと思っているので、この方の場合は、まず生活保護につなげて、自立に向かって進めていくことになりました。家族でもなく、全くプライベートで関わることのない方とやり取りをしていくのは、ご本人にとって社会との接点を持つためのいいきっかけにもなりますし、生活保護のケースワーカーを通して、次のサポートにもつながることが可能となります。

この方は、一人暮らしを始めてから3年が経過します。最初はほとんど人とのやり取りもできない状況でしたが、現在は週4回仕事をするまでの生活になりました。ただ、今はご両親とは全く連絡を取っていません。私は更新時などにご本人とお話する機会などもありますので、ご両親には私からご本人の様子をお伝えしています。

家族だから、親だから、ということで、ご両親が心配になるのはもちろんなのですが、家族が入らないことでご本人の自立が促されるというケースは実は意外に多いのです。家族だからこそうまくいかないということは十分あり得るのです。

話を戻しますが、今回クリニックにご相談にいらしたHさんのケースも、もしかしたら家族が入らない方がいいのではないかと思いましたので、息子さんに一人暮らしを促してみるか、もしくはHさんご自身が息子さんと離れるなど、息子さん自身が分かるような形で、環境を変える必要があるとお伝えしました。

ただ、これは中途半端な気持ちでは対応はできません。環境を変えても、その道半ばでご両親が手を差し伸べてしまうことで、振り出しに戻ってしまうこともあります。このような方法を取るのなら、本気で立ち向かわなければいけないと私は思っています。
なので、私は「今後どうしたいのか」「どれくらいそうしたいのか」を何度もお伺いして、現状を本当になんとかしたいという気持ちが固まったら次の段階に進むようにしています。

このような問題には、私たち専門職とご家族が同じ方向を向いて進むことで、少しずつではありますが変わってくるのではないかと思っています。

弊院では、ご家族の問題やお悩みに関しては、自費診療となります(30分5,000円)が、お受けしています。ご関心のある方は、一度ご連絡ください。

お一人で悩まず、周りをうまく頼ってみてください。

しろくま・メンタルクリニック
045−489−3615

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