見出し画像

【おてて絵本】冷蔵庫大好き

冷蔵庫。家に帰って一番に僕が行くところだ。

「ただいまぁ。」

玄関のドアを開けると一直線に冷蔵庫に向かう。冷蔵庫の扉を開けてのぞきこむときがたまらない。

ドアポケットにある冷えた牛乳をコップになみなみと注ぎ、チルドルームに入っている3本セットの魚肉ソーセージを1本抜いてむしゃむしゃ食べる。

「ほら、また開けっ放し!はやく閉めなさいっ。」

いつもこうやって怒られちゃうけど、どうしてだか止められないんだよな。

あるときいつものように、ドアを開けてじいっと見ていたら、冷蔵庫の中からも何か視線みたいなものを感じた。

思わずぱちぱちまばたきすると、目の端で何かがふわっと動いた気がする。

急に目の前がぼんやりとして、はっと気づくと薄暗くだだっ広い場所にぽつねんと立っていた。

あれえ、おかしいわね。さっきまでここにいたと思ったのに。もう、遊びに行ったのかしら…母の声が遠ざかり、聞こえるのは微かなモーターばかり。

と、どこからともなくざわめきが聞こえ、同時に、眩しい光が僕を照らした。

急に照らされたせいで、僕は思わず目を閉じた。

やがて、光に慣れてきた目をうっすらと開け、あたりを伺ってみると、何やら大小さまざまないくつもの影が見える。さらに目が慣れてくると、それはどうやらケチャップだったり、卵だったり、トマトだったりするように見えた。

「さて、この者で間違いないかな?」

目の前の卵が口を開く。

「はい、間違いございません。」

今、しゃべったのは卵?牛乳?

「確かにこいつだ!こいつが、僕らの兄ちゃんを!!」

泣き叫んでいる?のは、魚肉ソーセージ!?

「よし。」

一人ひとりの言葉に、重々しく頷いた卵は(うなずいて見えたんだ!)僕の方を向き直って(だから、向き直って見えたんだ!)言った。

「証言に間違いはないな。…よし、死刑!」

死刑!?

僕は、何が何だかさっぱりわからなかった。

「ま、待ってよ!僕が何したっていうの?なんで死刑になるの?」

その言葉を聞いた周りから一斉に怒号が飛び交う。

なんだって!?

まさか、この後に及んで言い逃れをする気か!

しらを切るつもりだわ!

マヨネーズやトマト、チーズが口々に叫んでいる。

「静粛に!」

卵の凛とした声が高らかに響くと、周りはシンと静まりかえった。

「よかろう、それでは、もう一度罪状を申し渡すとしよう。おぬしは、そこにおられるミルク殿の蓄えた財産を強奪した。ミルク殿、間違いはないな?」

「ええ、確かですわ。見てください、あんなになみなみとあった私の中身。今はもう、チャポチャポとしか音もしないようになってしまっています。」

なんと!

ひどい!

周囲からどよめきが聞こえる。

「ええ、だって僕、喉が渇いたから牛乳を飲んだだけなのに!」

「そうか、やっと認める気になったか。では、これはどうだ。おぬしはここにおる、ソー殿とセージ殿の兄を拉致した上に殺害した…。そうだな。」

「ええ!お腹すいて一本ソーセージを食べたけれど、それがまさか…」

ああ…!

何と悪辣な…!

先ほどにもまして喚声が聞こえてくる。

「…静粛に!!」

一斉に声が静まる中、卵の厳かな声が響き渡る。

「当方の調べでは、この2件のみならず、これまでに起きた数々の『神隠し事件』にも関与しているとの目撃情報が多数挙げられておる。余罪は今後追及するにしても、おぬしの罪は明らかであるな。」

そうだ!

そうだ!

一斉に怨嗟の声があがる。

「よって…死刑!」

当然の判決だ!

いいぞ、エッグマール裁判長!

周囲が歓声に包まれる中、僕はジタバタと泣き喚いた。

「そんなー!やだよー!いやだいやだ!死刑なんて嫌だ!」

何を言うか!

死刑だ!

死刑だ!

死刑だ!

泣きじゃくる僕を取り押さえようと、ケチャップとマヨネーズが駆け寄ってきたその時だった。

轟音が鳴り響き、天が裂けるほどの衝撃が一帯を襲った刹那、空から大きな手があらわれ、無造作にたまごをつかんで消え去っていくのを、遠のく意識の片隅で、僕は見たような気がした。

※※※

「あら、こんなところで寝てたのね。風邪ひくわよ」

その声に目を開けると、そこは居間のテーブルだった。

目の前には、飲み終えた牛乳のコップと、魚肉ソーセージの食べ跡がころがっていた。

「ああ、夢だったのか。」

起き上がった僕の身体は、汗でぐっしょりと濡れていた。

「汗びっしょりね。ほら、ご飯の前にお風呂に入りなさい。今日は、あなたの好きなオムレツよ。」

「…え?」

驚いて振り向いた僕の目に、母の手の中にあった卵の恨めしそうな顔が見えた気がした。


***

このおてて絵本は、三人の共同企画参加記事です。

合わせて、もうすでに終了している「おてて絵本」への勝手に参加記事でもあるよ。

いやあ、やっと冷蔵庫三部作終わり。共同企画で、楽しい企画をしてくれた、フリーザちゃん、千都ちゃん、凛ちゃんに感謝!ではでは。







お読みくださりありがとうございます。拙いながら一生懸命書きます! サポートの輪がつながっていくように、私も誰かのサポートのために使わせていただきます!