【WACK】猫ドゥギーちゃんとお話しよう
本日のクエスト
「やあ、一杯やりながらもう少し話していかないか?」
マフィンに今にもかぶりつこうとしている黒猫に声をかける。
ビクッと身を震わせた黒猫はこちらへと視線を移し、誰にともなく言い訳を始める。
「ドゥギーは俺で、俺はドゥギーにゃ!だからドゥギーのマフィンは俺のマフィンでもあるにゃ…」
コトリ。視線を誘導するように、お皿に盛りつけたビスコッティをカウンターから黒猫の方に差し出す。
「デザートにいかがかな?」
続けて飲み物も添える。
「もちろん猫属性に有害なものは取り除いてあるので安心して召し上がれ。」
訝しげな表情の黒猫が、仄かに漂うマタタビの香りに気づき、口もとを緩ませる。カウンターに座り、舌鼓をうち始める頃合いでもう一度話しかけた。
「ドゥギー殿。ユーキ殿とシグニャル殿に、よい話を伺ったみたいだね。」
「にゃ?どうして俺をドゥギーと?」
「先ほどドゥギーは俺で、俺はドゥギーだと言っていたからね。ドゥギーといえば、ドゥギーハウザーという天才のドラマがあったなあ」
「ドゥギー・ハウザーを知っているのかにゃ!そうにゃ!俺の名前はドゥギー・ハウザーから来てるにゃ」
黒猫ドゥギーは、名前の由来を教えてくれた。
「ほほう、水曜どうでしょうにまで結びついているとは、深いなあドゥギーちゃん。」
「そうにゃ!まさかタイではドジーになるなんて!にゃははは!」
「ははは、まったく思いもよらないドジだったねぇ。ああ、飲み物おかわりはどうだい?」
ヤギミルクにマタタビのエッセンスをあしらった猫属性向けの飲み物をもう一杯すすめる。
「やあ、こいつは美味いにゃあ。こっちのビスコッティもチョコリエールの、クッキーのところに似て…俺は猫にゃから、チョコは食べられにゃいのだが、ずっと食べたかったにゃ…。」
ブツブツと独り言を言いながら、すっかりドゥギーちゃん(猫)も上機嫌である。
「ひとつもらっていいかい。チョコリエールおいしいよな。」
同じ皿からひとつつまむ。
「おお、お前もチョコリエールが好きにゃのか。なかなか話のわかるやつにゃ。」
そういってはしゃぐドゥギー(猫)ちゃんは、ふと視線を落とし、俯きがちにグラスに目をやりながら、ぽつりぽつりと語り始めた。
「いやあ、ほんとは俺もそろそろ…とは思っているにゃ。」
「おお、そうか、そろそろとなあ」
同じような声のトーンであいづちをうつ。
「でも、いざやろうと机を片付けはじめたら、そのまま掃除したくなったりするにゃ。」
「うんうん、掃除したくなったりするよな」
「それで、やっとかたづいたら、始める前にちょっとおやつでも準備しておこうと思うよにゃ。」
「ああ、おやつを準備したくなるねえ。」
「そうしたらいつのまにか料理を始めてたりするにゃ。」
「ああ、おやつ準備するつもりで、つい作っちゃって。」
「そうそう、そうなるにゃ」
「そうなるよねえ」
「いつもその調子で、結局やらないまま時間が過ぎていくにゃ。どうすればいいのかにゃあ。」
「取り掛かろうと思うのに取り掛からないまま時間が過ぎてしまうんだね。」
「そんな感じにゃ」
「それは悩むねえ。…それでさっき、ユーキちゃんたちと話していたんだね。」
「そうなのにゃ。もう1人のドゥギーが俺の討伐をクエスト発注したにゃ。」
「ええ!?君の討伐をかい?」
「そうにゃ。といっても、もともと俺は過去のドゥギーから生まれたからドゥギーに戻るだけなんだがにゃ。」
「そうか、でも、君と会えなくなるんじゃないのかい?それだと寂しいなあ。もともと、君も戻るつもりだったのかい?」
「さっきまではもうちょっと遊ぶつもりだったが、もうMPが切れちゃったから捕まるしかにゃいな。」
「ああ、それなら安心しなよ。もう使えるはずだ。」
驚いた顔でドゥギー(猫)ちゃんがこっちを見る。
「ほら、今食べているそれと、その飲み物。MPだけじゃなく元気にもなってないかい?」
「ホントにゃ!そう言われると元気になってる気がするにゃ!」
「それは良かった。」
「お前、いや、えーと…」
「白だよ。」
「白さんはどうして俺を元気にしてくれるにゃ?俺が逃げてもいいのにゃ?」
「ああ構わないよ。君が元気でいてくれる方が嬉しいからね。それに、いざやるぞって気持ちになったとき、元気がないと困るんじゃないのかい?」
「確かにそうにゃけど…」
「君はわしが無理に連れて行かなくたって、いずれドゥギーちゃんのところに戻るし、実験だってやるだろう。だって、これまでいろんな人たちのアドバイスに耳を傾けてきているじゃないか。」
ドゥギー(猫)ちゃんは黙って何かを思い返しているようだ。
「そうにゃ…そういえば、たくさんアドバイスしてもらったにゃ。」
「うん。そのアドバイスを聞くってことは、もうやる気は出ているってこと。それならわしのやることはひとつ。応援するだけだ。」
何か不思議なものを見るような目つきでドゥギー(猫)ちゃんがこっちを見ている。
「さあ、手が止まっているよ。」
食事を続けるよう促すと、ドゥギー(猫)ちゃんが口を開いた。
「…にゃあ、もう1人のドゥギーに、これをお土産にもって帰りたいにゃ。」
少し恥ずかしそうな様子で呟く。
「ああ、もちろんだとも。さっきのマフィンも冷えてしまっただろうからもう一つ準備しておいた。」
そういってカウンター越しに土産を差し出すと、目を丸くしたドゥギー(猫)ちゃんは笑いながらそれを受け取った。
「白さんには何でもお見通しだにゃ!さて、すっかり元気になったにゃ!そろそろいくにゃ。ごちそうさまにゃ!」
「やあ、いろいろ話を聞かせてくれてありがとう。楽しかったよ。」
「俺もにゃ!」
手を振りながら喫茶店をあとにするドゥギー(猫)ちゃんを姿が見えなくなるまで見送っていると、書院の方から呼び声がする。
「もう、なかなか戻ってこないと思ったら、やっぱり如水喫茶店で話してたのね!今日は書籍の受け入れがあるって言っといたじゃない。」
「やあ、きいすちゃん、ごめんごめん。今行くよ。」
今日も如水喫茶店では静かに時が流れてゆく。
おまけ
会話には随所に心理学が盛り込まれているよ。その辺はワディちゃんに解説丸投げ笑