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未来予測【マンションの未来】

 本記事では、住宅業界の中でもマンションの未来予測について個人的見解を綴ります。あくまで個人の意見ですので、所属する組織等は全く無関係でございます。

 また本記事は個人的趣味でマンションの未来がどうなるかを考察してみたいなという動機で書いているのですが、現在マンションの購入を検討している方やデベロッパー関連を志望している就活生の方などが直ぐには役に立たないけど、知っていると業界の事を少し分かった気がして面白くなる事も副次的効果として狙って書いてみようと思います。


街中全てのマンションの築年数が見えてしまう病

 私はこの5年間で約30PJ、総計2,000戸程度のマンション事業用地の仕入れを行ってきました。そのほか仕入れ以外で関わったPJも含めると3,000戸以上のマンションを世の中に供給して参りました。土地の仕入れの世界はほとんど表に出ることが無い為、”仕入れる”という仕事がどんな仕事なのかの解像度が高い方はそこまで多くないはずです。一つの土地を買うためのマーケット調査で大体10件程度のマンションを調査します。また土地の仕入れの最終的な成約率(成約数/検討数)は10%程度(肌感覚)、つまり1つの土地を買う前後で10件の検討をしており、そのために100件程度のマンションを調査することになります。よって過去30PJの仕入れを行っている為、単純計算でも3,000件のマンションを調査してきたことになります。加えて同僚が買った土地についても土地購入会議で聞く事が多く、触れてきたマンション数はもはや数えられません。
 その結果、街中のマンション築年数がデスノートの死神の目(寿命が見える)のように見える能力を手に入れました。散歩をしていると『あのマンションは築15年』『このマンションは築50年』と勝手に見えてきます。その見えてくる裏側の思考をあえて分析すると、全体的なデザインに加えて、壁面タイル種類や貼り方や汚れ、エントランスの作り方、館銘板のデザイン、エリアの特性などを読み取っているのだと思います。ほぼ無意識なので実際はよくわかりません。もしかしたらワインを飲んでその産地や年数が分かる、というのに近い感覚のかもしれません。
 そんな私が、マンションの未来について考察してみようと思います。

この20年間
不動産業界は著しい価格上昇が起きている。

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工業市場研究所発表データより筆者グラフ作成

 上記グラフは2001年から2020年にかけて販売されたマンションの価格を年ごとの平均で示したグラフです。実にその上昇率は146%。日本は物価が上がらない、賃金が上がらないと言われていますが、不動産価格だけはこんなにも上昇しているのです。もちろん低金利の影響等も多分にある為、実際の支払い金額(月々のローン)がここまで上昇しているわけではございません。とはいえ大幅な上昇であることは間違いないです。さらにその金額の上昇をもう少し精緻に見る為に下記グラフをご覧ください。

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工業市場研究所発表データより筆者グラフ作成

このグラフは1坪当たりの価格の年平均を示した図です。1坪は約2畳の広さです。不動産業界ではよく坪単価という言葉を使います。

『このマンションの坪単価はいくら?』
『400万くらいだよ』
『え、めちゃくちゃ高いね!』

こんな会話をよくします。この坪単価ベースで価格上昇率を見ると、なんと20年間で181%も上昇しています。またこの坪単価、都心だと平気で1,000万近い物件が供給されます。3LDK(70㎡≒21坪)を買おうとしたら2億円越えです。もはやサラリーマンは買えません。

マンションの面積がどんどん小さくなっていく。

もとい、先程の販売価格ベースだと146%なので、随分差があるように感じます。すでにお気づきの方もいると思いますが、その原因はマンションの平均専有面積がこの20年間で減少している為です。つまりマンションがどんどん狭くなっているわけです。

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工業市場研究所発表データより筆者グラフ作成

 実に20年間で20%の減少です。平均面積の減少には様々な要因があるのですが、実際の販売価格を少しでも抑えようと事業者(デベロッパー)が面積を圧縮して、見かけ上、”買いやすい”マンションを供給していることが大きな要因の一つになります。ひと昔前は、3LDKといえば70㎡以上が当たり前とされていたのに、現在では60㎡台の3LDKが当たり前に供給されるようになったという事です。60㎡台の3LDKでも成立しているのは、それぞれの洋室を絶妙に小さくしながら、生活快適度を損なわないように家具配置をから逆算し間取りを制作している為です。実際この狭小3LDKという間取りは”よく売れます”。このあたりの間取りに関する話は、これまたディープな話になるので、別途記事にしたいと思います。
 70㎡でも60㎡でも同じような生活ができると納得した場合、この2つには10㎡の差、つまり約3坪の差がある為、販売価格にすると約1,000万円(2020年平均坪単価311万円と仮定)の差が出ます。住宅購入においてこの1,000万円の差は無視できるものではございません。

それでもバカ売れする首都圏の新築マンション

マンション購入を検討しているの方の中には、感じている方も多いかもしれませんが、今、首都圏のマンションはとてもよく売れています。高い、けど売れている。それは一体なぜなのか。史上最低金利、夫婦ペアローンの増加など売れる要因を一概に突き止めることはできませんが、一つ大きな要素をあげるとすれば、『需給バランス』だといえそうです。下のグラフを見てください。

工業市場研究所発表データより筆者グラフ作成

この20年間で首都圏のマンション供給戸数は70%も減っているのです。2001年10万戸近くあった供給戸数は2020年3万戸を切りました。(2020年はコロナの影響もあった為、2021年は3万戸を越す供給となる見込みです。それでも少ない)一方、マンションの購入を検討している方のボリュームは大きくは減っていない、かつコロナ禍で在宅時間が増えた影響で、”住まい”のあり方を見直す方も増えて、マンションの購入検討を新たにし始めたという人が増えているというデータも出ています。
 つまり、供給は減っているのに需要が増えているという状況です。となれば、当然値段は高くなり、それでも売れるという状況が生み出されます。

未来のマンションはどうなるのか

 前置きが長くなりましたが、以上のような状況を踏まえ、マンションの未来を考察してみます。
 まず今後の傾向(概ね10年程度の展望)として、供給戸数が大幅に増える(10万戸の水準)ことはおそらくないでしょう。その要因は、土地の仕入れ難や事業者の寡占化などがあげられます。そしてマンションの購入検討者数は同程度(東京都の人口は2025年まで増える、その後は減少傾向)なのではないかと予測します。その上で、マンションの価格については多少減少に転じる可能性はあるもののバブル崩壊のような大幅な価格減少は起きないのではないかと考えております。この価格変動については非常にセンシティブなので参考程度に読んでいただければと思いますが、前回の大幅な価格下落前(リーマンショック手前)と現在では市場環境が大きく異なる為、そう考察しました。何が違うのか。大きくは先ほど述べた供給戸数の観点と供給している事業者の質という観点が異なります。
 供給戸数は前述のとおりで、リーマンショック前(2006年〜2008年)は8万戸前後の供給がありましたが、現在は3万戸前後です。その為需給バランスが価格を底支えします。
 次に事業者の質という観点では、リーマンショック前のマンション供給時はいわゆる”横文字系”のデベロッパーによるマンション供給もかなり多くありました。財務的に不安定(自転車操業にならざるを得ない)な新興デベロッパーが相場上昇に伴い利益を上げ続けていたという時代です。しかし現在はいわゆる財閥系が供給の多くを占めます。財閥系のデベロッパーの多くは”総合デベロッパー”として事業の多角化を図っており、信用と財務体質がよい傾向にあります。要するに現在のデベロッパーはマンションを売らないと次のビジネスができない、という状況には無く、粘り強く強気の販売価格を維持する事ができます。事実リーマンショック時に価格が大幅に下がった大きな要因は、上記の横文字系デベロッパーの資金繰りが行き詰まり、販売中マンションを叩き売りして資金回収を行おうとしたという説が根強くあります。その叩き売りに引っ張られて、当時の財閥系デベロッパーが販売するマンション価格も下がっていき、相場が崩壊した、という流れです。つまりマンション価格を無理やり下げる必要がない事業者による供給が大半を占めている以上、この先急激な価格減少は起きにくい、と言えるのではないでしょうか。

と、ここまで書いたのは、
これまでの事実とそこから予測される、現状の内側の未来です。

 私が描く”現状の外側の未来”はどうなっているのか、を簡単に記したいと思います。私のwant toは『解放』『創造』『実践』『普及』を循環させる事です。そしてなおかつ不動産(マンション)に偏愛を持っています。だからこそ現在の『持ち家VS賃貸』のようにすぐ二言論で語られてしまう”住まいに関する暮らしの選択肢”が少なすぎる事に課題を持っており、その選択肢の少なさから解放したいと考えております。その解放は物理的な解放、つまり制度や新しい暮らし方の仕組みを創る事、と精神的な解放、つまりその暮らし方をしても良いんだという価値観の醸成をしていきます。
要するに『誰もが何にも縛られず、好きなように暮らせる』世界を創ります。そうすれば、本当にマンションに住みたい人は、マンションに住むし、定住したくない人は、移動する暮らし方をしたりと何でもありの状態を生み出せると思います。
 なので将来のマンションは、マンションが好きな人が選ぶものになっていくと考えます。それは各事業者のブランド(世界観)に魅せられたから、そのマンションを選ぶという事です。これまでは『立地』と『価格』がマンション購入における大事な基準でした。もちろん資産性という観点が大きな比重を占める不動産においては何よりもその基準は大事です。しかし『誰もが好きなような暮らし』ができるようになっている世界では、おそらく不動産の資産価値というものは下がっていると考えております。技術発展と価値観の多様化によって、多くの事象(役に立つ事)が民衆化、低価格化、非物質化していく流れに、遅かれ早かれ『不動産』もなっていくと考えます。そうなった時、意味のある事、つまり世界観を持ったマンションが選ばれるようになると考えております。

未来、誰もが好きな暮らしを実現するために、私は”移動する暮らし”の実現をまず目指しております。その記事もございますので、新しい暮らし方に少しでも興味がある方は、ぜひ読んでみてください。




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