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それでも…私は…東京が好き

山に囲まれ
川のせせらぎがそこに…
少し歩けば


沿道には
緑の街路樹が眩しい

目を細めながら
見上げると
そこには青い空
飛行機雲が糸を引く

空気は
深として
すべてを包む

夜になり
夜空には
瞬く星…星…星

私の生まれ育った故郷(ふるさと)

春…
桜の名所百選に
選ばれた公園の
桜は
これでもかというくらいに
咲き渡る
人は
1年に一度と言う事実にこそ
まさに酔いしれる
でも神社の片隅の
名物の餡餅を売る小店には
行列
冬でも売っているというのに
そして
一晩の
春の嵐の強風と雨に
桜満開の光景は儚く散る
その潔さは
いつもみごとだ


海はきらめく
深いところは
まさに光る深緑
どうして
波は行っては帰るのだろう
さっき寄せた波は
どこから来て
どこへ去るのだろう
波は
サワサワと揺らぐ
ドドーンと
暗く強く不気味に押し寄せたりはしない
砂浜は
どこまでも遠浅で
やさしい
誰にでも寄り添う海だ


イチョウの木は
はにかむように
黄色に色づく
風水の先生でもに聞いたの?
黄色になったら
人が
羨むように見上げることを
その願いを
聞き届けてくれるのですか?
イチョウの葉を
手にすると
つい
秋の陽射しに
かざして
片目で太陽を
見てしまうのはどうしてかな?


雪が積もることが
一年に一度位だから
ニュース速報になる
私も
誰も
タイヤチェーンをつけたこともなければ
スタッドレスタイヤに
換えたこともない
だから
あちこちで
立ち往生…スリップ事故…
それが
またニュースになる
そんな騒ぎをよそに
私は
首を思い切り上に反らして
雪空のてっぺんをジッと見る
すると
雪は私を同化する
私は雪景色に溶け込む
その感覚を味わうことだけで
私は雪が好き

ここは
私の故郷(ふるさと)
生まれ育った場所

私は
あるとき
その故郷(ふるさと)から…旅立った

東京…
朝の通勤ラッシュ
時刻表を見なくても
駅に行けば電車が
次から次に来る
乗り遅れても
3分後には次の電車が来るのに
人はなぜ急ぐのか
でも
少しずつ
その速さと波にのまれていく
自分さえ
いつのまにか
いつも
階段を駆け下りている

ここは地下と言われても
わからないほどの明るさと華やかな街
出口を目指しエスカレーターに乗れば
見上げるほど先に
ゴールがある
ビルの何階相当?
片側に順に止まっている人たち
その横を急ぎ足で急ぐ人たち
このルールは
誰が決めたのだろう
いわゆる
暗黙の了解…というもの
どこへ行くんだったっけ?
ここは御茶ノ水

初めての待ち合わせは
銀座…
…というより
ここは有楽町?

この飾り時計はまだあるのかな?

東京で
初めて知った「甘味処」
故郷(ふるさと)には…なぜなかったのか? 

喫茶店はあったけれど…
「甘味処」?はなかった…よね

そうか…
ぜんざいやあべかわ餅や
ところてんは
お店ではなく
家で
母が作ってくれるモノだった

だからこそ
「甘味処」は
その名の通り
甘い誘惑になった 

ある夜更け
築地本願寺のそばを歩いていると
スポットライトのような
一筋の光が
本堂を照らしている
遠くから覗いてみると
お芝居のリハーサルが
行われているようだ
主役の役者はよくしている人だ
「ギリシャ悲劇」だったかな?

東京には
日常に「文化」がある
わざわざ…観に行くのでも
わざわざ…聴きに行くのでも
わざわざ…触れに行くのでも…ない
それらは
いつも定席にいる
その場を感じたい気持ちが
沸き起こりさえすれば
後は
「何を」を
選択するだけだ
せわしなく
スクランブル交差点を
急いで渡る見知らぬ人たちは
そのことが
どんなに贅沢なことかを
わかっているかな?


現在(いま)
私は
故郷(ふるさと)で
過ごしている
水と空と緑と大地が
豊かに
あふれてる場所(ところ)にいる
日々は落ちついて嫋やかだ

でも…
それでも…私は…東京が好き

高層ビルの
無機質さが
私は
好きだった
何かを言おうとしているようで
無言で
私に向かってくる威圧感も
それこそを
体で受け止め…満ち足りた

今でも好きだ…と
振られた相手を
いつまでも忘れられないような
そんな未練がましさと
よく似ているかもしれない

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