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時々、帰る場所
白い帽子
雪の粉がその姿を消して行きそうと
遠くから目を細めるように眺め
山頂の雪の中に潜って行った
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鼠の母さん
小鼠の手は引いていったか
狐は赤い果実をその中に隠して
どこに行ってしまったのかと探したまま眠りについてはいないか
かつては小さな赤ん坊たちが育った巣や萱も今ではどこにあるだろうか
小さく白い骨のかけらは帰る場所を探してはいないか
すやすやと眠る声が聞こえている
聞こえずとも感じているから
忘れてなんていないからと遠くの峰に向かって呟いた
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空さえも白い日
仲間に入れて欲しくて、雪の下へ籠り思う
私も仲間に入れてと
山頂まで足を運び、山じまい最後の日を楽しんだのはついこの間のよう
今年の最後にと山頂を訪れ
見た景色はまるでプレゼントをもらったかの様に素晴らしかった
また来年の春に、そう心で呟いて
山頂を後にしてあれから数ヶ月
私は山の麓から、見上げてあの場所を思うのでした
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この間、ネットニュースで目にした記事に
日本一雪深い場所に、旅行に行き鍵を落として来た言う話を目にして
大切なものが雪の中にこもってしまい
春までは姿を現さない..
そんな記事を見た私はこの深い雪の中にはどれほどの大切なことが忘れられていっているのだろうとそう思ったのです
例えば、それは春になれば会えるのかもしれない
実はそれは春になっても会えることすらないのかもしれない
誰も知らないところで息をそっと潜めて眠っているだけなのかもしれない
山に行けば、猪の前歯を見つけ
山の麓の川に行けば、鹿の骨を見つける様に
誰も知らない所でいつでも物語りは紡がれている
猪の前歯を見た我が子は怖いと言うけれど
動物にはお墓がなければ、お葬式もないのね
なんて話しをして
だから、全ては自然に帰るべき場所へ帰って行くのと言い聞かせた
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そんな話しをした母である私は
そんなとても素朴で、自然な事が羨ましくて
だから、時々そんな命の連鎖と言う鎖の中に入りたくなるから
山頂を見上げてこんな事を考えたりするのです
私も仲間に入れて
あなたたちの事は忘れてないからと
遠くから話しかける様に
そうしたら少しの間
生命体になって
動物になって
獣になって
命がこの胸で動き続けている事を思い出せそうで、遠くの山頂の雪の下の世界に想いを馳せるのです
▼ akaiki×shiroimi 作画など
Kotoba to shiroimi