行方不明展へ行ってきた感想
⚠あくまで個人の感想であることを留意の上で閲覧をお願いします。
日本では年間約八万人の人が行方不明になるそうだ。事件・事故・失踪・〇〇、……行方不明となる理由や経緯は様々ではあるものの「行方不明」は実際に自分達の身近に存在している事柄であり、日常生活に潜んでいる陰なるテーマでもある。今展示はフィクションではあるが、リアリティがかなり追求されており、展示物のひとつひとつが現実物と錯覚するほどのクオリティとなっている。
SNSを中心にTVや配信サービスなどでも積極的なアプローチで、不気味ながらも斬新で他とないミステリアスなテーマ性から話題性もあり、展示は若者を中心に大盛況していた。
・展示の良かった点
私が伺ったのは15日の17時からの回だ。この日はお盆休み真っ只中ということで、日時指定券のみでの入場規制が成されていた。
実際に会場は大盛況を博しており、行方不明という日常に存在する非日常、異世界に惹かれる人は多いのだろう。
展示内容はまるで謎解きゲームの中で物語を紐解いていくキャラクターになったような没入感に浸れる。殆どの展示物は、実際に日常生活の上でよく見かけるなんてことのないものたちばかり。例えば、探し人についての貼り紙。例えば、煙草の吸殻や、今はほとんど見かけることの無いガラパゴスケータイ。古いデザインの携帯電話は、しかし、つい十五年前ほどには当たり前に普及しており、皆が使っていたものだ。まるで過去で時が止まってしまったような薄汚れた展示物たち。それら全てが不穏な雰囲気を放ちながら会場で観客たちの視線を惹き付けている。
このアイテム(展示物)をひとつひとつ解読していけば、きっとこの先にある”真相”に辿り着けるのではないか、という気持ちにさせてくれる展示物の数々。
殆どの作品には説明文となるキャプションが付与されており、そのひとつひとつに物語性がある。ミステリー小説において重要な手掛かりとなるキーアイテムのような存在感があり、見る者を不思議な好奇心に狩り立たせてくれる。
この展示はフィクションではあるが、ここにいる自分自身も、そのフィクションのストーリーの中で誰かを、若しくは何かを捜している何者かになれる。
どんなエンディングを迎えるかは展示を観た人によって異なるのだろう。
そういった愉しさは他の展示ではなかなか経験できないものなので、「行方不明展」ならではのひと夏の思い出となった。
・展示のよくなかった点
リアリティとホラー・ミステリアス性に富み、他と無い唯一無二の体験ができる今展示であるが、残念な点も少なからずあった。
会場は日本橋三越前の道路を挟んですぐ向かいにあるビルの中。一階と地下一階に分かれて展示室が設けられていたが、一階の展示室から地下一階の展示室へ行くには、一度建物の外へ出て、階段を降りて地下一階の部屋へと入る仕様となっている。そのため、地下一階の展示室に入るにも、一階へ再入場するにもチケットの提示が求められる。何度も行き来して展示をあちこち見て回りたい人にとっては少し煩わしい会場のつくりとなっている。
また、観客の多さの割に通路の狭い展示室などもある。音声作品などもあるのだが、狭い小部屋でたった二個しかないヘッドホンを付けて、三分間の内容を聴くというもので、これに四十分待ちの長蛇の列が出来ていた。この日は日時指定チケットにより入場規制が行われていた日であり、観客は一時間半しか滞在出来ないよう時間指定が成されていた。一時間半の滞在時間のうち、ひとつの作品に四十分も並ぶなんて客にとってはあまりに非効率的であり、もっとやりようがあったのではないかと思う。
(尚、あまりに混んできたため、「3分の内容だが1分聴いたら次の人に譲ってください」という案内が途中から入ったが、四十分も待ったのだから全部聴いてやらなきゃ気が済まない…というのが人の欲であり、私と連れ以外にその制約を守っている人はいなかった。)
また、先述したように殆どの展示品にはキャプションが設けられているのだが、これがとても文字が小さい。
ひとつひとつに物語性やメッセージ性があるのだが、ミステリー要素の強い展示というだけあって、パッと見では意味がわからない展示物が多いのも今展示の難点である。
例えば、普通の美術品展示であれば、タイトルや使用画材が書き連ねられたキャプションなど見なくても作品鑑賞だけである程度は十分楽しめるものだが、この展示はそうはいかない。
ひとつひとつの作品の存在感は抜群にあるが、ではこれは一体なんなのか…ということを知るためにこの小さな文字(それもちょっぴり長文)に近寄って読まないと、本当に意味がわからない。
極端に悪い言い方をすると、この展示は”文主体”の構成とも言える。視覚的情報だけでその不気味さ、楽しさを十分に味わうことが出来ない。これは”展示”という催しにおいては大きな欠陥であると感じた。
遠目からぼうっと見るだけで楽しむことが出来ないというのは、人の多い展示では結構なストレス値となるのも問題だ。
以上の点から、斬新な切り口のテーマ性且つ話題性の割にそれを十分に活かしきれていない残念な設営の仕方であったというのが率直の感想であった。
以上が忖度無しの「行方不明展」の感想である。(恐らく)新しい試みの展示であるぶん、デメリットも多いが、この展示でしか味わえない筆舌に尽くし難いぞくぞくとした感覚が楽しめるだけでも行く価値が十分にある展示会であると思った。
ふらっと異世界を覗きに行きたい気分になったら、是非行方不明展へ足を運んでみてほしい。