姑獲鳥が弟を攫いに来るかもしれないから

 あまり遅くまで起きていないほうがいいかもしれない。

 時計は九時を過ぎたところだった。長女には寝る前に絵本を読み聞かせている。近頃は民話の読み聞かせ、ーーたとえば三かける三かける三という具合のそこそこ長いメルヘンにも耳を貸すようになった。オバケの話をする延長でゲゲゲの鬼太郎のテーマソングを教えてやった。
「朝は寝床でぐうぐうぐう、夜は墓場で運動会」
「はかば?」
「死んだ人の骨を置いておくところだよ、すみれ組のとき、ざりがに見に行った川のそばにお墓があったけど」
 それで鬼太郎の名前を覚えた。寝室の本棚に1冊だけゲゲゲの鬼太郎のコミックスが置いてあって、与えると熱心に読み始めた。今は図書館で借りてきたかばんうりのガラゴの隣に並べてある。
「これ読んで、ひでり神(がみ)」
「いいよ、ーー最近はまんがでみることが多く、ーー」
 漫画は緻密に書き込んでありコマが多く文字も多い。一話読むにも結構な時間がかかる。読み終わるとすっかり寝る時間を過ぎている。五歳児は膝の上に座ったまま静かだった。
 僕は何となしに他のページをぱらぱらめくった。左上にサブタイトルが打ってある。見覚えのある妖怪の名前があった。乳幼児を攫っていく羽の生えた女。姑獲鳥。
「うぶめ?」
「このまん丸の目玉の妖怪、鳥みたいだね」
 水木御大の細かな筆致が実におどろおどろしい。
「こわいね」
「姑獲鳥は赤ん坊を攫っていくらしいね」
「えっ○○ちゃんが?」
 自分の心配をする五歳児。
「いや○○ちゃん大丈夫、赤ん坊じゃないでしょ。まだおっぱい飲んでるようなちびを連れていくの、ほら、弟連れて行かれちゃうかもしれない」
「こわいよう」
「大丈夫だよ、でも遅くまで起きてると赤ん坊探しに来た妖怪とばったり出くわしちゃうかもね、さあ寝よう寝よう」
「もう今日はオバケの話しないでね」
「わかったわかった」


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