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泊食分離(泊まる事と食べる事を分ける)

「泊食分離について取材させてください」という連絡が入った。
え!何をいまさら・・・と思ったが、改めて今、そうなのだと思い。過去を振り返ってみる事にした。

阪神淡路大震災 1995年

振り返ってみれば阪神淡路大震災は、色々なターニングポイントだった。
団体旅行から個人旅行へ変わり始めた。
高級旅館VSアジアンリゾート、押し付けられたサービスより、好きなだけ寝て、好きな時に食事をとりたい。
そして不明瞭な旅館の宿泊代金、ホテルの様に部屋代と食事代を分けて考えるべきだと、震災後の復興に悩む僕に専門家がアドバイスをくれた。

2000年 ホテル花小宿誕生!

当時雑誌ブルータスに「マニュアルでしか動けない仲居はいらない!」「朝、布団を引っ剥がして朝食を出す。」と書かれていたので、
客室のサービスはなし!
寝具は布団でなくベット!
食事はオープンキッチンのレストランで・・・

というホテル花小宿をオープンした。

そして泊食分離の料金体制を考えた。
その時に新神戸オリエンタルホテル(現在のクラウンプラザ)の部屋代を参考にした。新神戸からタクシーで30分。チェックインが30分遅くなるが、温泉がある。当時新神戸のホテルのルームチャージが21.000円だったので、タクシー代5.000円を引いた16.000円に部屋代を設定した。
2名で泊まれば1名8.000円。

夕食は6.000円、8.000円、10.000円。
朝食は2.000円と設定した。
1泊2食で言うと、1名16.000円~20.000円
1名で泊まれば24.000円~28.000円
当時あまり受け入れる所が少なかった1人旅も受けられるようにした。

花小宿は畳の上にベットの和風ツインとフローリングにベットの洋風ツインがある

当初は「温泉旅館で何故? ベットやねん!」というクレームもあったが、半年ほどすると、そのような声も聞かれなくなった。

「和室+ベット」の先駆けが、ホテル花小宿

花小宿はちょうど新神戸のツインルームと同じような大きさの小さい部屋で(20㎡ぐらい)、寝具をベットにした為に定員が決まり、泊食分離の設定がしやすかった。そして竈門を設けたオープンキッチンが好評で、泊食分離と言っても多くの人が1泊2食利用となった。現在でもほぼ80%の人が食事付きを希望されている。

花小宿で好評になり、竈門も日本のあちこちで見られるようになった。

客室100㎡の有馬山叢 御所別墅

2008年、有馬の自然豊かな場所で、全室離れの宿をオープンした。客室はアマンホテルのスタンダードの大きさの100㎡にした。

その時、客室の代金をいくらに設定したらよいか悩み、専門家の友人に問い合わせをした。その時友人は「東京のホテルでは1㎡いくらで設定していると言った。」当時、1.000円ぐらいだったので、100㎡あるので10万円。
アマンのスタンダードもほぼそのぐらいの料金だった。

御所別墅の客室はすべて100㎡

以来、僕は価格を決める時には1㎡いくらにするかで決めているし、地方のホテルや地域が流行っているかどうかは、現在は需要に応じて料金を変えているので、1㎡あたりいくらの料金で販売しているかで判断している。

インバンドを受け入れるか否か!?

オーベルジュという食事が付いた宿泊形態はあるが、諸外国では泊まるという事と食事は別だ。
だから外国人観光客を受け入れるには、素泊まりの予約が入るという事を考えておかなければいけない。
しかし「仲居がいるし、板場がいるから」とインバウンド受け入れに難色を示す宿が多かった。

旅館の宿泊代金を2名で泊まった場合の1名が1泊2食 30.000円とすれば、だいたい部屋代が50%、残りの15.000円で、夕食代12.000円、朝食代3.000円ぐらいの設定をしていたと思う。
これが食事なしだと2名利用で60.000円の売り上げが、部屋代だけだと30.000円しかならない!

しかし旅行者の視点に立って考えてみると、大阪のホテルの部屋と有馬の旅館の部屋はどう違うのか?

有馬の旅館の部屋はホテルよりも大きい。庭や温泉がある・・・
だったら大阪の部屋と同じように1㎡いくらで設定すればどうなるか!?

1名30.000円ぐらいの料金の部屋だと50㎡ぐらいはある。だったら㎡ 1.000円だと50.000円。
これで良いじゃないと考えた旅館はインバウンドの取り組みを始めた。

御所坊のスタンダードの客室 約50㎡

部屋代が50.000円、2名で泊まれば1名25.000円。夕食代12.000円と朝食代2.000円とすれば、40.000円になる。だから食事をする人は少し割り引いて1泊2食だと36.000円というようにしている所もある。
実質値上げかもしれない。が外国人旅行者が宿泊しているのを見ると、「インバウンドなんて」と言っていた、旅館も次々とインバンド対応をするようになり、結果、泊食分離の考え方をするようになった。

ニワトリが先か玉子が先か!?

有馬温泉に食事なしで宿泊予約をした人は夕食はどうしたら良いか?
宿は積極的に街中の飲食店の利用を進めるようにした。
紹介した飲食店の顧客満足度を上げる為に、多言語のメニュー作成に協力したりしている。
そうなると有馬の街の夜の賑わいも増してきている。
この辺が政府が積極的に進めているのと、自然発生的に増えてきている有馬との違いがあると思う。

コロナ後の人手不足

コロナ後、観光客が戻ってきたが人手不足が深刻になってきた。
特に料理を作る板場、サービスをする仲居に困る。
団体客はさらに少なくなってきたので、宴会場を個室食事処にして仲居が必要な客室での料理提供をやめたりするところが出てきた。

また思い切って、宿泊客の半分は食事なしで泊めるようにする宿も出てきた。全客室数にフルサービスの対応をしない方が効率が良いという考えだ。

人手不足対策は、単純に食事を出さないだけでなく、DX化や自動化など、色々な対策を各宿で講じている。

御所坊ではベルトコンベアー式の食洗器を導入した。朝夕の器を30分で洗う事が出来る。

それが現在の有馬温泉だと言える。

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金井啓修
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