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Off Flavor入門〜㉗オニオン/ガーリック

前回からの続き
前回はホップの劣化臭として知られるイソ吉草酸でした。知ってるつもり的なトリビアとしては、ホップのフルーティアロマを強調するバックグラウンドアロマになりえることや実はブレタノマイセスの代謝でも生成されることがありました。
今回は同じくホップ由来のオフフレーバーであるオニオン/ガーリック(O/G)です。


化合物としての特徴

オニオン/ガーリックの原因物質: 有機硫黄化合物

オニオン/ガーリック(O/G)のオフフレーバーは単体の化合物からもたらされるのではなく、複数の有機硫黄化合物に由来します。代表的なものとしては硫化アリル(Diallyl Sulfide)、DMS(Dimethyl Sulfide)、三硫化メチル(Dimethyl Trisulfide)などのスルフィド(チオエーテル)類、3-メチルブタンチオ酸S-メチル(S-Methyl Thioisovalerate)などのチオエステル類、メタンスルフェン酸(Methanesulfenic Acid)、2M3MB(2-Mercapto-3-Methyl-1-Butanol)です。
これまでの投稿で触れた硫黄化合物の特徴の振り返りです。硫黄は原子半径が大きいので分極率が高く極性分子を形成するので硫黄化合物が水に溶けやすいこと、第三周期のため3中心4電子結合というモデルで超原子価化合物を形成することなどの特徴がありました。これらの硫黄化合物の特徴はO/Gの原因物質にも当てはまります。

スルフェン酸/スルフィン酸/スルホン酸

メタンスルフェン酸(結合の手2本)、メタンスルフィン酸(結合の手4本)、メタンスルホン酸(結合の手6本)は硫黄が形成する超原子価化合物の例として分かりやすいかと思い、上に掲載します。

臭い

O/Gオフフレーバーの原因物質を個別に見ていくと以下のような官能的特徴があります。硫化アリルはニンニク、三硫化メチルはタマネギ/オニオンフライ/オニオンスープと形容されます。DMSは単体ではクリームコーンや野菜と形容されますが、O/Gオフフレーバーの中ではタマネギ/ニンニク臭の構成要素になります。3-メチルブタンチオ酸S-メチルはややチーズっぽいネギ類の臭い、2M3MBはタマネギ臭です。メタンスルフェン酸は三硫化メチルの前駆体として知られています。
これまで紹介したオフフレーバーと違って、複数の臭いが複合的に組み合わさってO/Gとなります。化合物の比率によって、タマネギっぽさが強かったり、ニンニクっぽかったり、ネギっぽかったりします。
O/Gはホップの品種やビアスタイルによっては特徴香とされており、どこからがオフフレーバーなのか明確な定義がありません。アメリカンスタイルのホップフォワードなビールには一定レベルのO/Gは好ましいとされることが多いです。オフフレーバーかどうかの判定は、ビアスタイルと全体のバランスの中で突出しすぎて不快なフレーバーになっているかどうかという判断になります。
ちなみに最近流行りのダンク(Dank)というホップアロマの表現がありますが、O/Gもダンクの一構成要素と考えられます。ダンクはもともと「マリファナっぽい」から来た俗語で、ビール業界における正式定義はないですが、そのアロマにはグラッシー、松ヤニ、O/Gが含まれると考えられます。

閾値と分析方法

個々の化合物の官能閾値はありますが、O/Gは複合的な臭気なのでO/Gとしての閾値の定義がありません。ちなみに個々に見るとDMSは以前の投稿のとおり25-50ppbです。他も硫黄化合物なので全般的に閾値は非常に低いと思われます。
分析方法としては、ASBC Sensory Analysis Methodの15(Hop Tea方式)と16(Hop Grind)が推奨されています。いずれも製品(ビール)に対する分析ではなく、使用するホップ(特にドライホップ用)に対する分析です。詳細はASBCのサイトを見ていただきたいですが、ざっくり言うとホップを水で抽出するか、微粉砕したものを評価する方法です。

生成とコントロール

生成

O/Gは主にホップ由来とされます。Summit、Citra、Simcoe、Mosaicなどアメリカ品種で特徴香とされています。また、樹上で熟成が進むことことで含有量が増えます。ホップ収穫の時期が後半になればなるほどO/Gが多く含まれると考えられます。ホットサイドよりドライホップで多くのO/Gがビールに残ります。ホットサイドではO/Gは蒸散されてしますからです。つまり、ドライホップによってO/Gがビールにそのまま移行するというのがメインの生成経路です。

2M3MB

2M3MBについては反応経路があります。α酸がイソ化したイソα酸がさらに麦汁煮沸時に酸化され、EMB(2,3-epoxy-3-methylbutanal)が生成されます。これが発酵時に硫化水素などと反応することで2M3MBとなります。生成された2M3MBは酵母によって取り込まれ代謝に利用されますが、一部ビールに残存したものがO/Gの構成要素になるわけです。
O/Gは基本的にはホップ由来ですが、3-methylthiopropionaldehydeという麦芽由来の化合物も長いエイジング期間を経て三硫化メチルを生成することが知られています。

コントロール

ホップ由来でかつドライホップ時に移行するものが多いので、対策もそれに則ったものがメインです。ホップの品種の選択、遅い収穫のホップを避ける(ロット選択できる場合)、ホップを嗅いでみて強いO/Gを感じるものを避けるなどが有効なコントロールになります。また、EMBの生成を抑えるという意味で麦汁を酸化させないこともコントロールになります。

次回へと続く

O/G(オニオン/ガーリック)、いかがでしたでしょうか。一つの化合物による臭気ではなく、硫黄化合物が複合的に形成するオフフレーバーです。しかもアメリカンIPAが好きな人は特徴香として好ましく思うことが多いです。
さて、次回も硫黄化合物、H2S(硫化水素)です。お楽しみに。

お読みくださりありがとうございます。この記事を読んで面白かったと思った方、なんだか喉が乾いてビールが飲みたくなった方、よろしけばこちらへどうぞ。

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