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《点光源 #1》 好きを形にして生きる人。

もぐらのもっくん。これがSNS上での彼の通称名だ。
お会いしたこともない。だが、ASKAファンという一点だけで彼と私はオンライン上で接点を持ち、深い会話を交わすことになった。

もっくんは、今年の夏に書籍の発行を控えている。
『We love...』というその本は、ASKAを愛する人たちが共同で作った非公式ファンブックだ。(7/16追記:本日より販売開始となりました!)

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非公式ファンブック!
私にはそんなしっかりしたものを作るガッツは無い。
そんな気合の入った企画の発起人である彼は、一体どんな人物なのだろうか。

彼の存在を知った時に、私はこの連載《点光源》の一人目を彼にお願いしようと決めた。
そんなガッツの持ち主ならば、並々ならぬASKA愛が聞き出せるのではないかと考えたからだ。

ところが話は思わぬ方向へと転がり続けた。

今日から始まる、ASKAの音楽を愛する人達へのインタビュー連載《点光源》こちらの記事で企画意図をお読み頂ければ、この記事をよりお楽しみ頂けます!)。
第一回目は「好きを形にして生きる人」。
それ以外に彼を形容する言葉が、今となっては見つからないのである。

●好きを形にできる時代だから


もっくんは鹿児島在住、今年36歳になる。

普段は会社員として働き、二人のお子さんを持つ父親でもいらっしゃるわけだが、PCの画面越しに挨拶を交わしたそのお姿はお年よりもずっと若々しいというか、抑えきれぬ自由人感が溢れ出ている。

背景には、ずらりと並んだ楽器類。
笑顔でご挨拶させて頂いた時の、私の心の中の声。

(おお、この音楽にガチな感じ…  私、会話できるのかな…)

こちらからインタビューをお願いしておきながら、大変失礼な本音である。
それでもなんと、驚くことにものの3分程で私達は打ち解け合っていた。
きっと彼も私も、初めての人に対するバリアが低いのか、もしくは人への興味が猛烈にあるのか。

まずは書籍の発行の動機について伺ってみた。この質問から、ASKAへの熱い想いが聞けるのではないかと。
ところが初っ端から、こちらの想像とは全く違った返答が返ってきたのだ。

いや実は僕、ASKAが好きだとは、リアルに関わる人達に公言してないんですよ。中学の頃からずっと大好きなんですが、なぜかASKAの話を人としたいとは思わなくて。
いつも、好きなものを尋ねられると「ジャッキー・チェン、渥美清、田村正和、氷室京介」って答えてるんですが、実はこの4人よりもASKAについての方が断然詳しいんですよね。それなのに、なぜか言う気にはなれないんです。


ーーえっ、そうなんですか? 
…と言いつつ、実は私も同じなんです。周囲の人に知られぬよう、なぜか隠れキリシタンのようにASKAさんを愛してきました(笑)。
思いが深すぎて、周りの人と軽く話す気になれないんですよね、不思議なことに。

わかりますよ、すごく。
僕は昨年、初めて一冊目のファンブックを作ってみたんですけど、これもASKAについて書きたいことが溜まってたのが動機というより、むしろ本を作ること自体に興味があったんですよね。読書が好きで、たくさん読むうちに『これどうやって作るんだろう?』と思い始めてしまって。
今は出版社に持ち込まなくても、自分でPCやスマホ一つで形にできる時代じゃないですか。そういう時代の面白さを感じて、あれこれ活動してるというのが正直なところです。


もっくんが言うように、確かに今は「好き」が形になる時代。
そして、こういう時代には揺るがない「好き」を持っている人が強いのかもしれない。

この私も同じような思いを持ちながらnoteというツールでASKAさんに関する記事を書き続けているわけだが、それを読んで下さり、「同じ音の人だ」と感じたと、もっくんは始めの挨拶がわりに話して下さった。


●好きをやめることは、自分を否定すること


それにしても彼の、「好き」を原動力とした今の活動はすごい。

中学からずっと続けているというギターで、バンドは3つの掛け持ち。
書籍の出版は3冊目。
ASKAファンと一緒にYouTube動画を作ってみたり、「大人の研究発表会」という好き語りイベントを開催してみたり。
個人的にできるものだけ挙げても、バスケ、将棋、読書、早朝サウナ、メンズネイル…
(このメンズネイルは、先日ネイリストの方から「男性でも、音楽やってる方とかにはよくいらっしゃいますよ」と聞いたばかりだったので、おお、ここにいたか! と嬉しくなって爪先を画面越しに見せて頂きテンションが上がった。)

とにかく彼は「好き」と思ったことにとことん没頭し、はたから聞けば目の回りそうな日々を送ってらっしゃるようだ。

一方の私といえば、趣味を尋ねられると答えに詰まってしまうようなタイプ。これだけの「好き」を乗り回せる人とは、一体どんな人物なのだろう、と俄然興味が湧いてくる。
私はまた尋ねてみた。これらの「好き」に、理由はあるのかと。

なぜ好きなのか…いやぁ、理由なんて考えたことないな。
ただ、一度直感的に「好き」と思ったことからは離れられない、というのはあるかもしれないですね。
これは本当に昔からそうで、古い友達に聞いても「昔からそうだった」って言われますよ(笑)。好きだったらやってみよう、という気持ちが強くて。

バスケは物理的に肩を壊しちゃったので一度中断したけれど、また最近は10年ぶりに再開してるし。その間にも、もうバスケができないなら頭のスポーツを何かしようと思って、将棋を始めたらはまってしまって、今でもずっと好きですしね。


ーー生活スタイルとか好みが変わってやめる、ということが普通は多いですよね。もっくんは本当に、好きの気持ちが強いんでしょうね。

そうなのかな。ASKAさんに関しても、小学生の時に「モーニングムーン」がやたらと好きになったのが最初で。中学で「no doubt」のカッコよさにはまってそれ以来ずっと聴いてるけど、途中でやめるという風にはならなかったんですよね。

ーーそこから、C&Aを深く好きになっていったきっかけってあるんですか?

やっぱり中学時代なのかな。
ちょうどその頃、陸上の幅跳びで県大会に出ることになったんですが、当時『VERY BEST ROLL OVER 20TH』が発売されて。
母親と6位までの入賞で買ってもらうことを約束したら、なんと入賞したんですよ。二人で表彰台に登るのもそこそこに「よし、GEO行くぞ!」って小躍りしながら駆け込んだ思い出があるんですよね(笑)。

そこから「あれ、『HEART』ってチャゲアスなの?『You Are Free』も?! なんだ、全部チャゲアスの曲だったんだ…」と衝撃を受けまして。
思い返せば幼稚園の頃に光GENJIの曲が好きだったのも、葛城ユキさんの「ボヘミアン」に惹かれたのも、ここにつながっていくのかな、と。


ーーチャゲアスで言うと、’00年代はそれまでの勢いに比べると、活動にムラが出てくるじゃないですか。その時でもずっと好きが続いてたんですか?

もちろん。活動に間が空いたら、その隙に過去の作品を聴きまくってましたよね。
働き始めてからもずっと好きで、途切れたことがない。社会人になって最初に住むところに選んだのが、雑餉隈(ASKAさんのご出身地)でしたからね。僕は武田鉄矢さんも好きなので、自分のヒーロー達が幼少期を過ごした場所って、どんなところなんだろうと。


彼から次々と出てくるエピソードを聞いていると、幼少期の記憶にカラッとした明るい空気を感じることが多い。
言葉としてちゃんと伺ってはいないのだが、きっとおおらかで明るいご家庭に育ったからこそ、「好き」に目一杯チャレンジできる彼のバックボーンが作り上げられたんだろうな、と微笑ましく、そしてちょっと羨ましく思う。

僕は、一度好きになったものを絶対嫌いになれないんですよ。嫌いになったら、好きになった自分まで否定することになるじゃないですか。
だから、ASKAさんの事件があった時ももちろん変わらずに好きだった。僕のヒーローだから、何かが違うはずだと思って。
そんな感じだったから、数年ぶりに地元の放送で「FUKUOKA」を聴いた時には、泣きましたよね…。


ーーファンの気持ちとしては、そうですよね…。やっぱり事件前後で、ファンの気持ちや活動に変化って出て来たんでしょうか?
例えばもっくんのやってらっしゃるような、ファン同士が集まって何かやるというのは、事件前にも普通にあったんですか?

うーん、周りがどうかわからないけど、事件前にはあまり聞かなかった気がしますね。
僕自身もファン同士のつながりが生まれたり、何かを発信してみようという気になったのが、ここ2年くらいのことですしね。


ーーそうなんですか!それは意外です。


●好きならやってみる、が大事


これは意外なことだった。
C&Aファンは、やはり本家が活動停止している時期が長いからか、ファン同士で連携し、自ら応援企画を発案し盛り上げようという動きをよく見かける。
ASKAの事件、二人の行き違い、そして脱退という衝撃が大き過ぎたためか、じっと座って見ているわけにはいかない、受け取ってきた音楽への恩返しをしたい、という衝動に掻き立てられるファンが多いということか。

僕はずっとギターが好きで、ASKAさんだけでなく古川昌義さん(ASKAバンドの中核をなすギタリスト)のファンなんですよ。色んな音楽を聴いてきましたけど、ナンバーワン・ギタリストと言ったらやっぱり古川さん。
それで、「Made in ASKA」('19年に行われたライブツアー)の会場で、なんと目の前で古川さんのプレイを観ることができまして。
その感動を思うがままにファンクラブサイトの日記に書いたら、「Fellowsのひとりごと」(
会報誌の一コーナー)に載ったんですよね。その辺りから色んなつながりが出来始めて。

ーーそうかぁ、私もちょうど2年前からASKAさんに関する記事を書き始めたので、共感します。動いてみると、色んなことが起こりますよね。

まさか憧れの人とこんなにもやり取りができるようになるとは思っていなかった。
やっぱり自分は凡人で、本当に普通の人なんです。ギターをやっていても文章を書いても、1番にはなれないと自分で思ってる。
100人いたら100位かもしれないけど、でも「やっている」ということで1/100にはなれるわけで。出来ないから我慢しよう、やらないまま生きていこう、とは思わないんですよね。


ーー今の時代は、普通の人が発信するものに共感を覚えるということもありますしね。

そう。ランキング上位のものだったり、売れたものが一番いいとは限らないわけで。
僕は、こう言うとおこがましいけれど、毎日がめちゃめちゃ楽しくて、もしかすると他の人より人生楽しんでるな、という実感がある。それって、結局は「やるかやらないか」の違いだけだと思うんです。
僕の場合は、「好きならやってみる」というのがとにかく大事。それを見た人が「自分もやってみよう」となるのが一番嬉しいことで、僕の全ての活動に通じるのはそういうことなのかな、と。


●好き、の背中を見せていきたい


おそらくもっくんという人物は、長年積み重ねてきた「好き」で出来上がってるのだと思う。
好きという想いだけでなく、「好きならばやってみよう」というアクションから、自らを作り上げていくタイプ。こういう人物の幸福度は、世の中を見回してみても概ね高い。

そこで、辛い話に傾く可能性を承知で聞いてみた。
好きだけで生きていこう、とは思わなかったのか。好きと本気とは別なのか、と。

うーん…いや、好きと本気は一緒ですよ。ただ、好きの度合いの差っていうのは、やっぱりある。
例えば僕はギターを好きで続けてるけど、古川さんの演奏を聴いたりすると、自分の好きはまだまだ追いつかないなと思うんですよ。ボーカルだって、ASKAさんには到底追いつかないわけで。

自分は自分なりの好きを積み重ねてきたけど、本当に一流の人っていうのは、好きの度合いが桁違いなんじゃないかと。その度合いの差がスキルに表れて、プロとの差を決めるんじゃないかと思うんですよね。


ーーそんな風に自分を冷静に見つめられるのがすごいです。そこで自分を否定したり、嫌いになったりするのも違いますしね。

自分は普段は会社員で、会社っていう組織はやっぱり「好き」の情熱が活かされない仕組みになっていて。
だからオフの時に好きなことをやってるけど、それだけで食べていける時代がもう来ると言われてるけど、自分達の世代はギリギリ来ないんじゃないかな、と思ってるんですよね。
でも、この背中を子供達に見せることがとても大事だ、ということは強く思う。
だって、今まで普通にあった仕事が、どんどん機械に取られて行く時代じゃないですか。そうなって、多くの時間を手にしてから「やれることが無い」とならないように、子供達にも好きを形にしていく姿勢を、ぜひ見せていきたい。


ーー頼もしいお父さんですね!「好き」への行動力は特にこれからの時代、とても大事だなぁ。

あと僕は、「好き」にお金を使うことも大事だと思っていて。
お金って溜め込むよりも、「好き」の表現に使った方がよっぽど生きますよね。
だからクラウドファンディングにはよく投資してますし、ファンクラブの会費が上がって払えないって人が出てきたら、その分まで自分の「好き」で、食事を抜いてでも払ってあげたくなっちゃう。
だって、悲しいじゃないですか。好きが表現できなくなるのは。


ここまで聞いて、私は静かに感動を覚えていた。
そして思った。この人の全身は、「好き」という気持ちで出来ているのだと。
好きという気持ちを抑え込まれたら、大げさでなくそれは彼の命に関わる一大事になるのだろうと。

なぜなら、初めて心震わせた幼少期の頃から、彼の心も身体も生きてきた道のりも、全てが「好きなことをやってみた」という体験で作り上げられているのだから。
好きの権化というものがこの世にいるならば、こんな姿形をしているのだ…ということを、私は彼へのインタビューで心に刻み付けられたのであった。

<完>

《点光源》第一回目は、ASKA非公式ファンブック『We love...』とのコラボレーションとさせて頂きました。
もっくんの許可を頂いて書籍内のインタビュー記事を一部修正し、この場に掲載させて頂いております。

書籍用に書かせて頂いた対談記事と、そしてお恥ずかしながらこの私へのインタビュー記事も掲載されております…。ご興味ある方はぜひ手に取ってご覧下さいませ!
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ASKAの音楽を愛する人たちへのインタビュー連載《点光源》。
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