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人口あたりの店舗数は日本一「バーの街、徳島」の『鴻』に敬意を表す(全国バー行脚⑦徳島)

 正面のバックバーを見ればたくさんのボトル、というのはよくありますが、天井にボトルが整列している光景はなかなか見られません。徳島県のバー『鴻(こうの)』です。

■バーの完成形…?『鴻』

 2019年の秋は僥倖に恵まれました。10月下旬に徳島で「全国自治体病院学会」が開かれ、その直後の日曜日に同じ徳島で「全国バーテンダー技能競技大会」があったのです(フレアバーテンダーの全国大会も同時開催で、富山の『白馬館』Uさんが出場)。仕事と遊び、二毛作の気分で徳島を楽しみました。

   徳島の繁華街は駅から少し離れた場所で、阿波踊りの「からくり時計」がある目抜き通りから一本入った小道にたくさんのバーが建つエリアがあります。数メートル歩けば一軒という林立ぶりで、鴻が構えているのもその一画でした。

看板からも抗い難い魅力

 カウンターに通されてすぐに「格好いいなー」という言葉がこぼれそうに。バックバーを二階建ての山型にし、さらに天井の梁(はり)の部分に細工をして、たくさんのボトルを飾っています。美しい。建築の美。空間をこのように立体的に使っているバーは初めて見ました。

建築の美を感じるバックバー

  主にいただいたのはカクテルです。徳島のバー各店が打ち出している「すだちジントニック」は、やっぱり飲むべき一杯。そしてマスターのKさんが作るオリジナルカクテル「べシート」は、先の競技大会(2006年)の創作部門で優勝したテキーラベースの逸品です。

色気も漂うべシート

 美味しい、楽しい、居心地がいい。全国大会開催時というタイミングで、全国からバーの関係者やバーファンが徳島に集まっていたのですが、店内の様子を見ていると、Kさんが、県内外の多くのバーテンダーから尊敬を集めているのがよくわかりました。

   接客も、親しみやすい柔らかな語り口に、抜群の距離感。お酒の質、マスターの人間的魅力、店構えの格好よさなど、全てがハイレベルで、バーの完成形のひとつなんじゃないかとすら思いました。生意気にも。

■こちらも全国屈指『ARCHE』

 鴻の近くにあるバー『ARCHE(アルシェ)』も素晴らしかった。女性のオーナーバーテンダーMさんは、徳島を訪れる3週間程前、東京で行われたサントリーのカクテルコンテストにゲスト出演しており、その際にちょっとお話しする機会に恵まれました。お店が徳島にあると聞き、今月下旬に伺うのでぜひぜひなんていう話をしていたので、実際に行けて嬉しかったです。

アルシェもバーの密集地帯にある

 伺うと、女性バーテンダーおふたりで営業中。Mさんは私を覚えてくださっていて、いろいろと徳島の話を聞かせてくれました。人口1人あたりのバーの数が日本一多い県であること、そこから徳島市のこの一画を中心に「バーの街」を打ち出していること。ここでもらった「バーマップ」は徳島にいる間、片時も手放しませんでした。

 このMさん、サントリーカクテルアワードを2009年に受賞しているバーテンダーで、開業前は先述の鴻で腕を磨いていた方です。そうなると、やはりカクテルが飲みたい。勧められるまま、まずは「徳島ハイボール」。これもすだちジントニックと同じように「ご当地カクテル」の1つでしょう。もちろん、すだちを使用。砂糖の「阿波和三盆」も使っているとのことで、ほんのりした甘みと爽やかさが仲良く同居しています。

 ほかにも種々のカクテルをいただいたのですが、写真や記録は残っておらず、ただ、美味しかったなーという記憶だけがあります。徳島にいる間、続けて通ってしまったので、とてもよかったんです、アルシェ。

■親子が共演、老舗『TOYOKAWA』

 もう一軒、忘れられないバーを。初めて鴻やアルシェに伺った翌日だったと思うのですが、さて今夜はどこで飲もうかとバー密集地帯を歩いていると、ふと小用を済ませたい気分に。しかし不慣れな土地で、なかなか手頃なトイレがない。バーが開店するには、まだ少し早い時間帯。

あそこ、ちょうど店開けたっぽい…。

 そうして入ったのが『TOYOKAWA(トヨカワ)』です(なんて失礼な)。

見た目からもう渋い

 このトヨカワさん、なんと徳島で最も老舗と言われているバーでした。親子でカウンターに立っており、オヤジさんは徳島の大ベテランバーテンダー。息子さんもバリバリに活躍している有名なバーテンダーでした。

 入店時はオヤジさんおひとりでしたので、いろいろとお話を。とても気さくで楽しい。また「ボトルキープはスナックのすること。バーはショットで売るのだ」という哲学をお持ちで、そうしたこだわりを語る際に、急にキリッとするところとか、凄くいい。こうしたバーに偶然出会えたのも、誠に恵まれていたと思います。

   最後の夜は全国大会終了日。この一帯は、選手や関係者など、バーテンダー協会のワッペンを付けた正装姿の男女であふれかえり、どの店も満席。せっかくバーテンダー同士で飲んでいるのだから、私は邪魔にならないように…と思っていたものの、関東代表のひとりとして大会に出た私の「推しバーテンダー」や、そのお仲間たちと一緒に楽しく過ごしました。これもまた、得難い経験です。

   そうそう。網走のバー『ジアス』のオーナーSさんに初めてお会いしたのも、この最終日の大会後に飲んでいたときです。振り返れば徳島には、学会の取材期間も入れると5泊も滞在。バーとお酒と人に出会った五日間でした。(了)

競技に臨む選手
結果発表を待つ選手たち
大会当日、会場の外では試飲ブースも賑わう


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