神田・紺屋町で開業1年、私の“かかりつけバー”『ディンプル』(全国バー行脚⑯東京・神田)
医療関係の報道を仕事にしているため、「かかりつけ医」や「かかりつけ薬剤師」という言葉を頻繁に見聞きし、記事にしています。とはいえ、私自身はかかりつけの医師も薬剤師も見つけられていません。それより先に“かかりつけバー”を持ちました。昨年1月に神田駅から徒歩数分の場所で開業した『Dimples(ディンプル)』です。
■ディンプル=「えくぼ」
店内には、L字型のカウンターがゆったりで6席。そのほか、4人掛けのテーブルを2卓設置した空間があります。10人くらいの団体にも対応できそうな広さで、このお店の特徴的な空間になっています。単身でも、仲間と来ても楽しめる設計ですね。
オーナーバーテンダーは女性のIさん。銀座での仕事歴が長く、開業前は「バー行脚⑭東京・銀座 ︎」で紹介した『シェイク』で勤務していました。独立後、2023年1月にディンプルを開業。他に女性スタッフのTさんがいます。
ところで、ディンプルといえばこれ。丸っとした形が目を引くブレンデッドウイスキーですね。もちろん、このお店のマスコットボトルでもあります。
しかし店名の『Dimples(ディンプル)』は、このウイスキーから命名されたわけではなく、その言葉が持つ意味「えくぼ」から。Iさんは笑うとえくぼが特徴的なのです。両頬にできるので、店名の『Dimples』にも複数形の「s」がついています。ウイスキーの名前には「s」はないですね。豆知識。
■カクテルアワード受賞作「玉響」
お店には各種ウイスキー、ジン、リキュールなどなどありますが、基本はカクテルバーだと思います。最も有名なのはIさんオリジナルのカクテル「玉響(たまゆら)」でしょう。
ウイスキーの「響」をベースにしたクリーム系のショートカクテルで、サントリーのカクテルアワードを受賞した逸品。これを飲みに来るお客さんも多いようです。さわやかだけどコクのある甘さが、響と一緒に体に滲み込んでくるような味わいです。
■「ヒグマール」を巡る考察
私はというと、ディンプルをボトルで入れているので、そのソーダ割りや水割りをよく飲みます。加えて身近なバーですから、ジントニックやダイキリ、ウンダーベルグのソーダ割りなど、ベーシックに好きなものを飲むのがお決まりです。ただひとつ変わり種として、おそらくここでしか飲めない、むしろ私しか飲まないカクテル「ヒグマール」を紹介します。
いや、正確にはそんな名前のカクテルはないのです。余市をソーダで割ってペルノーを少量入れ軽くステアするのですが、これ元々は「ヒグマハイボール」あるいは「ヒグマ」という名前だったと聞きます。けど判然としません。北海道のご当地カクテルだと言われているのですが、札幌や網走の有名なバーで聞いても、ヒグマを知るバーテンダーにひとりも会えないのです。
味わいは癖が強めで、好き嫌いは分かれると思います。私は香りも味も好きで、よく頼んでいるうちに、勝手に名前を「ヒグマ」から「ヒグマール」に変えてしまいました。意味はありません。このお店でしか言いませんので、よそのバーで「ヒグマールお願いします」と言っても確実に通用しません。そして誰か、「ヒグマ」や「ヒグマハイボール」の真実を教えてください。
■しっとりも、和気あいあいも
店内の照明は明るめで、しっとり飲むことも、和気あいあいでいくことも可能。つまみも、オイルサーディンやチーズなどの鉄板系から、ここでハマったよそでは見ない干し肉「ビルトン」や、お腹が空いた時のパスタや餃子まで、なかなかバラエティーに富みます。何より楽しい。今、自分にとって最も身近なバーであり、バーテンダーです。
かかりつけ医は、「なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師(日本医師会より)」と位置づけられます。
これを“かかりつけバー”に置き換えると、「なんでも相談できる上、最新のお酒に関する情報を熟知して、必要な時には各地のバーやバーテンダーを紹介でき、身近で頼りになるウイスキーやカクテルの提供を担う総合的な能力を有するバーあるいはバーテンダー」ということでしょうか。ほぼそのまま、ディンプルやIさんに当てはまります。
中野に暮らしていた十数年前は、そうしたバーが近所にあったのですが、そちらはもうなくなってしまったので、久しぶりの感覚ですね。
「かかりつけ医を持とう!」は国策とも言えますが、酒を飲む人間として、かかりつけバーを持てた私は幸せなのかもしれません。(了)
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