Rana 4 Vivienne Westwood end.

 私はいつもあの濃密な半年間を思い出す。結局彼は銃で頭を撃って死んだ。警察が踏み込む数秒前に。微笑んでたんだ、私はあんなに儚くて美しい顔をほかに知らない。

 彼が初めてだった、愛してると私に執着してくれた。Vivienne Westwoodの服なんて着たこともなかった。いつも美味しい紅茶を、街で買ってきたお菓子をくれた。お伽話を聞かせてくれる人なんて私にはいなかった。うちに帰ってもいつも父と母は言い争っていた。居場所がなかったんだ。

 彼は私を椅子に縛りつけてはよく殴打した。ごめんね、と言いながら。鼓膜は破れ、いまでも片耳は音を失っている。鼻血も出た。私の父のように私を抱くことはなかった。ただ、ただ拘束して殴打した。私は何も言わなかった。悲鳴さえもあげなかった。なぜか甘い高揚が私を包んでいた。濡れていた。彼はそこに触ろうともしなかったけど。

「不能なんだ。僕は普通のものでは満足できないんだ。初恋はロザリア・ロンバルドなんだ。知ってる? 世界一美しい少女のミイラなんだ。イタリアの聖ロザリア礼拝堂に葬られている。君はロザリアにも似てる」

 私の本当の名前もロザリアだった。彼は知らないままに死んだけれど。いまは母の祖国のウェールズで暮らしている。日本だと何かと大変だった。事件はしばらく世間を賑わせた。でも15年経ったいまは風化してしまっただろう、このありきたりなストーリーは。

「ロザリア、紅茶をいれたけど飲む?」
「ありがとう」
「僕達の子どもの名前何にしようか。もう来月には生まれるね」
「そうね。亮……リョウがいい」
「リョウ? 日本の名前かな」
「明るい、とかまこと、って意味なの」
「まこと、ね。truthってことかな。いい名前だね」


end.

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