いのちの賞味期限 【コラム】

人の身体が壊れる瞬間は、突然やってくる。
私が2年前、2ヶ月も経たないうちに会社を辞めたのが、
ちょうどこの時期だった。

本当に一瞬のようで、密度の濃い時間の中だった。憧れていた広告業界、デザイン事務所に入社した私は、その時はまだ希望の中にいた。

入社初日に終電帰り、入社2日目にして始発帰り、それでも、それが当たり前だと思った。企業研究をすれば、広告業界がどれだけ重労働か調べられるし、それを覚悟の上だった。

入社して1週間、ありがたいことに私は雑誌の数ページのデザイン編集を任せてもらい、ただただ仕事にのめり込んだ。2週間くらいして、自分が編集した雑誌が本屋さんで並んでいるのを見たときは嬉しさだけがこみ上げ、やはりこの仕事を選んで良かったと思った。

身体に異変が起き始めたのが、働き始めて1ヶ月経った頃だった。土日は泥のように眠り、ガラクタのようにボーッと過ごしていたが、平日の平均睡眠時間は2〜3時間。ある日、駅から自分のアパートまでの帰り道にふらつく感覚があり、初めて「歩く」ことを意識して、10分もかからない距離を必死に歩いて帰った。右足の次は左足、左足の次は右足、まっすぐ歩いているつもりでも、ふらつく感覚が取れなかった。

そしてゴールデンウィーク。一般的には、ゴールデンウィーク明けは仕事が手につかなかったり、休みが続くことで仕事への意欲が削がれると聞くが、私は逆だった。何より仕事が楽しかったし、3、4日も寝れば体調も戻るだろう、それよりも早く仕事がしたいと思い、ゴールデンウィーク明け、足早に職場へ向かった。

それから更に1週間経って、それは突然起こった。金曜日の夜をまたいで、すでに土曜の朝。職場に残っていた最後の社員さんを見送って、自分もそろそろ帰ろうかと、誰もいない職場を見渡した時だった。突然、涙が出てきて自分しかいない職場で、ひたすら涙をこぼしたとき、初めて、この会社を辞めようと思った。

不思議なことに涙が出るその瞬間まで、会社を辞めたいなんて思わなかった私だが、すでに心と身体は限界だった。

最後の気力で、土日、もらった仕事だけはすべて家で片付け、辞表を書き、月曜日の朝、職場の掃除をした後、社長の机に辞表を置いて、逃げるように、私は会社を辞めた。

一つだけありがたかったことは、仲の良かった上司のおっちゃん2人が、逃げるように会社を2ヶ月足らずで辞めた私なんかに、「夜野くん身体大丈夫か？ 送別会やってあげるから、飯に行くぞ！」と言ってご飯に誘っていただき、悩みを聞いてくれたことだ。そしてそのおっちゃん2人は、会社を辞めて2年経った今でも、たまに連絡をくれて、ご飯をご馳走して頂いている。

このコラムで、私が言いたいことは一つだけだ。

逃げる選択肢を、心に必ず持っていてほしい。

広告業界を批判する訳でもないし、その時の会社を否定する訳でもない。きっとどこの業界でも、同じような環境が少なからずあるから。

幸いにも、私が今、心の病気も持たず、元気に働いていられるのは、あのとき会社を辞める決断ができたからだと思う。

あのときにもし、無理をして働き続けていれば、完全に身体を壊していただろうから。

2年前は本当に会う友達、会う知り合い全員に顔色が悪いと言われ、それでも必死だったし、会社を辞めた後、お金がなくて、お笑い芸人や俳優、ミュージシャンの下積み時代の話でよくあるような、家賃3万、風呂無しボロアパートに１年半ほど住んだけど、そこまでしても、私は生きる方を選んでここまでずっと来た。

ということは、悲しいけど、逆の道を選ぶ人も世の中にはいて、私の知り合いも、同じく仕事で身体を壊して、アパートの2階から飛び降りた人もいた。幸いだったのが、飛び降りた所が植え込みで、顔や腕に打撲はしたものの、命に別状はなく、東北にある実家で無事に暮らしている。

その知らせを当時、ボロアパートで電話で聞いた時は、ただ悲しくて、悔しかった。

だからこそ、私は言いたい。

仕事を辞めたら職場の人に迷惑がかかると思う人がいるかもしれないが、大丈夫。きみがビル・ゲイツでなければ、明日、仕事を放棄したとしても、世界が動揺することはない。

仕事を辞めたら収入が０になるかもしれないが、大丈夫。友達や家族、周りが動いてくれるし、一時的なものだと考えた方がいい。もしそこで無理をして身体を完全に壊したら、一時的どころか、長期的に働くことが困難になる可能性がある。
休んでも働きたい気持ちがあるかもしれないが、休む時は休んだ方がいい。実際に私も、会社を辞めた後、一週間もしないうちにコンビニでバイトを始めたが、身体が付いていかずさらに体調を崩し、周りに迷惑をかけることになった。私はそこから２、３週間ほど完全に休んで、徐々にまた働き始めたけど、仲のいい上司の人は、若い頃身体を壊した時に３ヶ月ほど会社を休んだと言っていたから、回復にかかる時間は人それぞれだと思う。

だからね、全力でやって無理だと思ったら、一旦立ち止まって休むことも必要だと私は思います。

だって今日まで一緒に笑っていた人が、明日突然いなくなるなんて、許せないし、許さないから。
きみの感情を無視して動く世界なら、壊した方がマシだって言いたいし、
きみのためにやってくる季節に意味を見つけたくもなるよ。
生きる方をずっと選んで来た私だからこそ、文章を書く時はブルーハーツ並みに頑張れって言いたいし、エレカシ並みに頑張ろうぜって言いたいさ。

きみは今日まで、何度も涙を重ねて生きてきたのだろうけど、私も同じくらい涙を重ねて生きてきた人間だから、伝わってほしいと思うよ。

今はデザインも文章も全く関係ない仕事をしながら、それでも文章を書くのは、単純に好きだからっていうのと、私が落ち込んだ時に、いつも私を救ってくれたのが、本であり、絵であり、映画であり音楽である、芸術だったから。だからいつか、私は今まで関わった人に、芸術に、恩返しをしたい。

「なぜ人は芸術に興味を持つのか？ー この世に残せる唯一の足跡だからだ」ー 2011年公開のフランス映画「最強のふたり」より

2011年にフランスで公開されて、日本でも大ヒットした映画、「最強のふたり」の中で出てきた言葉です。実話を元にした感動的な映画で、いい言葉だよね。

ありがたいことに、「いつも楽しみにしてます」とか、「素敵な言葉ですね」というコメントをくださる方がいますが、それは少し違うなと、私は思う。

私はきみの歩幅に合わせて、思ったことを書いただけで、素敵だと思えるのはきみの感性がもともと綺麗なだけだ。私はまだ始まっていないし、これから始まるとこなんだ。

だから、また時間がある時に、きみの素敵な足跡を、フォロワーさんのノートにある、素敵な足跡を拾いにいくよ。

でも少しでもいいなって思ってくれたら、noteのフォロー、スキ、Twitterもやっているので、気軽にフォローとリツイート、お願いします。お金もかからないし、単純に私のモチベーションが上がるから。笑

私もいつか、みんなのような足跡を残せるといいな。

こんなクソ長い文章、最後まで読む人いるかわからないし、役に立つのかわからないけど、ありがとう。笑

えーと、、それで今日はなんの話をしてたんだっけ？
あー、そうそう、今日は星が綺麗だねって話。みずがめ座流星群が近づくそうなので、観測条件が良い方はぜひ、今夜見てみてください。東京の空はおそらく、見えないでしょう。笑

明日から多くの人が仕事を始めると思いますが、本当に身体に気をつけてね。

それではまた、次回の作品でお会いしましょう。バイバイ

中央線の窓辺から愛を込めて
夜野

Twitter: https://twitter.com/yoruno_namida