サ行変格活用絶対しないマン
先日、急に熱が上がり、39.0度を超えた。ただの風邪だと診断は受けたが意識は朦朧としていた。
そんな中で、アルロンさんが中二病について記事を募集していたことを思い出し、布団の中で妄想してみた。熱がある中の妄想なので、おかしなところもあると思うが、せっかく考えたので文章にしてみた。読んでいただけると嬉しい。
◇
私はフランスで育った。産まれた場所は不明である。父と母は私の産まれた場所については、頑なに口を割ろうとしなかった。
フランスで育ったが私はバスク人としてのナショナルアイデンティティを植え付けられて育った。
父と母そして私は典型的な東アジア人特有の顔付きをしているのだが、父や母は私をあくまでもバスク人として扱い、そして育てたので私はバスク人であるということに疑いもしなかった。
父と母には「あなただけはこの家で唯一のバスク人なんだからね」とよく教え諭された。
じゃあ父と母は何人なんだろうと思わなくもなかったが、何となく聞けない雰囲気があった。
父と母は二人で話すときは、いい加減な英語と適当なフランス語を用いていたようだ。
ただ私がいる時は、バスク語を使い、常に私のバスク人としての自覚をもたせようとしていた。
父と母はかなり変だったが、私への愛情はたっぷりあった。
母とはよくセーヌ川に行き、川べりを散歩した。母は私との散歩が大好きで、セーヌ川のほとりを歩きながら、ヨハン・シュトラウスの「美しき青きドナウ」のメロディーを口ずさんでくれた。
父はバスク人のソウルフードはお寿司だと私に教えてくれて、毎日家では、握り寿司、手まり寿司、押し寿司、ちらし寿司、サバの炙り寿司、鱒寿司、鮒寿司、カリフォルニアロール、すし太郎などいろんなバリエーションの寿司を作ってくれた。
だから私はバスク地方の名物料理は寿司だと長い間、疑いもしていなかった。
ただ学校では辛いこともあった。私はソルボンヌ第五小学校に通っていたのだが、そこではみんなフランス語を話しているのだ。
フランス語とバスク語はわりと似ているので、意志の疎通はできる。ただフランス語とバスク語の違いはサ行変格活用があるかないかだ。
私はバスク語で育てられているので、サ行変格活用がうまくできない。それで随分と、クラスメートから、からかわれたものである。「サ行変格活用を親の仇のように憎む男」、「サ行変格活用絶対しないマン」、「サ行変格活用の神から見放された悲しき人類」などと酷い言葉を随分と投げつけられたものだ。
また、私が寿司ばかり食べているがばれて「寿司ボンバー」というあだ名もつけられた。寿司ボンバーの元祖は高原ではなくこの私なのだ。
ただある日、ネット検索をしているうちに寿司は日本の名物料理だと気が付いた。
そして父と母に思い切って聞いてみたのである。「寿司って日本のじゃないの?バスク関係ないよね。あとたぶんだけど自分はバスク人じゃないよね?」と。
それを聞くや否や父と母は涙をこぼし始めた。そして「やっと気づいてくれたね。嬉しい。ボケ続けたかいがあったよ。いつ、つっこんでくれるかなって思ってたよ」と言うのである。
私がバスク人だとかバスク人のソウルフードは寿司だというのは、私のナショナルアイデンティティをも犠牲にしたボケであり、大いなるフリだったのである。
私が、「バスクの名物がお寿司なわけあるかーい!そもそもわしはバスク人ちゃうわい!」とつっこんでくるのを両親は心待ちにしていたらしいのだ。
父は「お前を一流のつっこみ戦士にするために、たくさんボケておいた。今日それに気づいてくれた。あなたがつっこんでくれたから今日はつっこみ記念日だね」と言う。
私はここでいろんな違和感に答えが出たような思いがした。「じゃあセーヌ川のほとりで、美しき青きドナウを口ずさみ続けていたのもボケなんかい!よくお母さんも根気よく、川違いのボケ続けたな、もっと生産的なところに根気をみせろ!」とつっこんだ。
また母は「あなたの苗字は鈴木で名前は伊藤よね。フランスの学校に行ってたから、よく分からなかったと思うけど、実は伊藤っていうのは日本では一般的に苗字に使われる言葉なの」と言い、父と母は「鈴木伊藤って苗字苗字しすぎ。クスクス。病院で鈴木伊藤さんて呼ばれたら、伊藤さんまで立ちあがっちゃうじゃない。あー笑っちゃいそう。もうだめ。ハハハ」」と笑いが止まらなくなってしまった。
私は「お前ら悪魔ちゃんて名前をつけようとした親より、たちが悪いわ!今すぐ法務局に連れて行け!秒で改名してやる」とつっこんだ。
それを聞いた父と母は「これで安心しました。立派にあなたもつっこめるようになったね。ずっとフリ続けてきた甲斐がありました。これで安心して私たちも帰れます。迎えの者を呼ぶわね」と言うと呪文を唱え始めた。
「334 暗黒エース藪。334 暗黒四番濱中。334 ラーメンにもやしを入れるとスープの味が薄まる気がするんだ。334 矢野の色紙。334 奈々チュッチュッ。334 Vやねん」と謎の呪文を父と母が唱えると、空から大きな円盤が降りてきた。なんと父と母は二筋の光に吸い込まれて、円盤の中に入っていってしまったのだ。
私は途方にくれるとともに「何でやUFOと阪神関係ないやろ」と思わずつっこんでいた。
両親が見込んだ通り、私はつっこみ戦士の素質があったのだ。
数日後、父と母は突然、自宅に帰ってきたのであるが、明らかにおかしな様子になっていた。
二人とも口を開くと怪光線しかでなくなり、喋れなくなっていたのだ。
これもボケかなと思って「両親が怪光線をだす家庭。これぞ修羅の住む家」と言ってみたが、何の効果もなかった。
ただいろいろ私が喋っているうちに両親の様子が変わった。「サ行変格活用シテ、サ行変格活用シテ…」と呟くのである。私はここで気が付いた。この両親の形をした怪光線を吐く化け物は、サ行変格活用しないことに弱いのだ。
ここぞとばかりに、フランス語ではサ行変格活用が必要な言葉を、バスク流にサ行変格活用せず、畳み掛けてみた。
そうすると憑き物が落ちたように、もとの両親の姿に戻った。そして母は「私たちがUFOを呼んでしまったばっかりに、フランスの多くの人が、口から怪光線を吐く化け物になっているわ。化け物の唯一の弱点はサ行変格活用しないことよ。伊藤、あなたのサ行変格活用しない能力が必要なの。光のつっこみサ行変格活用しない伊藤マン戦士、今こそ立ち上がるのよ!」と言う。
父は「それにしても苗字じゃなくて名前が伊藤って、くくく」と笑っている。
私は「お前らのせいでフランスが危機になってるのに、人の名前のこといじっている場合じゃないぞ」と捨て台詞を吐きつつ街に出た。
両親の言う通り、そこには怪光線を吐くフランス人の形をした、怪物がたくさんいた。私はちぎっては投げちぎっては投げというように、サ行変格活用をすべきところで、変格活用をしないことを至るところで繰り返し、フランス全土を安定に導いていったのだ。
おかげでフランスの英雄となり、マイヨ・ジョーヌ、マイヨ・ベール、マイヨ・ブラン・ア・ポワ・ルージュの称号を与えられたのである。
今までは悪口を言っていたソルボンヌ第五小学校のみんなも「サ行変格活用をしないことで世界を救う伊藤」と呼んでくれるようになった。
この世の春である。
こーして俺はサ行変格活用をしないことを堪能したのであった。
また俺、世界とか救っちゃいましたか?
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フランス語やバスク語がサ行変格活用するとかしないとか、全部妄想なので事実とは異なります。そもそも外国語にどんな活用系があるかも知りませんので、フィクションとして読んで下さい。
あと阪神のことはカープの次に好きなのでネタにしてしまいました。愛があってこそのいじりだと阪神ファンの方には暖かくご理解いただけると嬉しいです。
おわり