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NewsPicks元編集長が、世界の旅に出る理由

SHIROが誕生するうえで必要不可欠だった旅の記録をお届けする、旅をテーマにしたPodcast「TABI SHIRO 〜足を運んで、見て、聴いて〜」。皆さんに読んでいただいているnoteは、Podcastに連動する形で更新されています。

番組聴いていただいている方はご存知だと思いますが、TABI SHIROは、私が旅について一人で語っているわけではありません。経済メディア『NewsPicks』元編集長で、現在はノンフィクションライターとして活動されている泉秀一さんをMCにお迎えしています。

これまでの放送はすべて、泉さんが対話相手になってくれて、私が旅した世界の景色や、SHIROが歩んできた道のりを紐解いてもらっていました。ただ、今日は私が話を聞く番。なんと、泉さんがこれから世界の旅に出るというのです。

34歳で旅に出る理由って、なんだろう。世界を旅して、どんなお土産を持って帰る予定なんだろう。今日は私が、旅を愛する一人として、泉さんが計画する旅を聞いていきます。


自分の世界を広げる旅

今井:泉さんといえば、32歳という若さで『NewsPicks』の編集長に就任した敏腕記者ですよね。そもそも、どうして会社を辞めたんでしたっけ?

泉:敏腕なんて、やめてください(笑)。たしかに編集長に就任するまでのスピードは早くて、若いうちから権限をいただいて自由にやらせてもらっていましたが、いつからか「自分がつくりたいものを、つくりたい」という気持ちが抑えられなくなったんです。

『NewsPicks』でもつくりたいものをつくらせてもらっていましたが、編集長とはいえ会社のトップではなく、少なからず制約は存在します。かなり恵まれた環境だったのは間違いありませんが、制約と探究心の狭間でバランスを取るのではなく、一度くらい探究心だけを頼りにしたコンテンツづくりに挑戦してみたくて退職を決めました。

今井:じゃあ、旅がしたいから会社を辞めたわけではないんですね。

泉:会社を辞めるときは、「一旦、独立してみよう」ということしか決めていませんでした。バックパック旅は好きでしたが、世界を回ることになるとは想像もしていなかったです。独立したてのタイミングは不安も少なからずあるので、旅に出る余裕はありませんでした。

今井:少し余裕が出てきたってこと?

泉:まだバタバタした日々が続いていますが、もっといろいろな経験をしないと、つくりたいものをつくれないだろうな、と思うようになって。

ライターは書くことや提案することが仕事なのですが、世界を知らなければいつも同じような物の見方をすることになります。実際、僕も「過去と同じような切り口だな」「自分が見てきた世界から抜け出せていないな」と思うことは多くて。

個性を確立してきたとも言えますが、薄っぺらさにもつながります。もっと広い視点で世界を見て、オルタナティブを提案できないと、つくるものに納得感を持てなくなってきたんです。

今井:じゃあ、世界をもっと知るために、旅に出るのね?

泉:僕がつくりたいのは、ジャンルを絞らず、さまざまなテーマを越境したメディアです。メディアは基本的に、経済誌とか、ライフスタイル誌とか、ジャンル分けされていますよね。でも、わざわざ区分する必要はないと思うんです。「現代を心地よく生きていくのに必要な情報」は、ジャンル分けできるものではないなって。

ただ、そういうものをつくろうと思うと、経済畑にどっぷり浸かっていた僕は、まだまだ視点が狭い。日本のトレンドを追っていればいいわけでもないので、もっと世界を見て、リアルな情報に触れながら、自分の世界を広げていくフェーズだと思っています。

まずは「アルゼンチン」から

今井:もう旅のスケジュールは出ているの?

泉:詳細なスケジュールは決まっていませんが、最初に旅するのはアルゼンチンと決めています。1971年にノーベル経済学賞を獲得した、アメリカの学者であるサイモン・クズネッツは、過去に興味深い発言をしています。

「世界には、4つの国しかない。先進国と発展途上国、そして日本とアルゼンチンである」

当時、日本とアルゼンチンは対照的な国として比較されていました。日本は発展途上国から先進国へと変化した稀有な国であり、アルゼンチンは先進国から発展途上国へと変化した稀有な国だったのです。

日本は工業製品の輸入で成長しましたが、農業国として栄えていたアルゼンチンは工業化に遅れて衰退しました。なんだか今の日本って、かつてのアルゼンチンに似ているような気がしませんか。

アメリカの社会学者であるエズラ・ヴォーゲルに“Japan as No.1”と称えられた時代からIT化が遅れて世界に遅れを取り、GDPは世界4位に交代しています。あまりこんなことは言いたくありませんが、アルゼンチンは日本にとって、「衰退の先輩」とも言える存在なのかもしれません。

でも、決して裕福ではない国のアルゼンチンに暮らす人々が、自分たちを「貧しい」と感じているかは分かりません。衰退していく過程で、お金や時間の使い方、暮らしに対する考え方がきっと変化してきたはずです。そういった歴史に学べば、日本に持ち帰られる学びがきっとあるはず。ほとんど好奇心ですが、まずはアルゼンチンを旅して、現地の方々の暮らしに寄り添った取材をする予定です。

今井:現地の暮らしを取材するとなると、ある程度まとまった期間の滞在が必要になりそうですよね。

泉:少なくとも一ヶ月単位で滞在するつもりです。よく今井さんがおっしゃっていますが、観光名所や繁華街を巡ったところで、本当の暮らしはわからないですから。

今井:アポなしで突撃するわけじゃないよね?

泉:基本的には水先案内人を見つけることから始めるつもりです。ただ、リアルな暮らしが知りたいので、「家を見せてもらえませんか?」といった交渉はすると思います。トイレやお風呂を見せてもらって、リアルな暮らしや生活の知恵に触れてみたい。

なので、その辺は臨機応変に……と思っています。旅先ではいい意味でもアクシデントに見舞われるはずなので、今から楽しみです。

足を運んで、見て、聴いて

今井:アルゼンチンを出たら、次はどこを目指すの?

泉:まだ決まっていませんが、今まさに成長著しいタイやベトナムには行きたいです。

ベトナムは地理的、環境的に日本と近しいものがありますし、現にEV車を開発したりしていて、工業化が進んでいます。新しい産業に従事する人がどのような暮らしをしているのかは、シンプルに好奇心が湧きます。

アルゼンチンが未来の日本であれば、ベトナムは過去の日本かも知れない。両国の人々の暮らしや幸福感のギャップにも興味があります。これから日本がなっていくであろう国、そして、これから日本のようになる国の双方を自分の目で見て、日本の未来に対する提案をできたらと思っています。

今井:世界を旅するけれど、あくまで日本の未来を考えているのね。

泉:日本はとにかく住みやすく、大好きです。でも、このままでいいわけがないとも思う。成長がすべてだとは思いませんが、世界からヒントをかき集めればもっといい国になるはずなので、微力ながら貢献したいです。

今井:世界広しといえど、日本にもさまざまな文化がありますよね。日本国内を旅しようとは思わないの?

泉:もちろん、日本の地方も旅するつもりです。というのも、TABI SHIROを通じて地域の活動を聞いていくうちに、都市で生きている自分と、地方の暮らしに、大きな意識のズレを感じたんです。東京はすごく便利で、生活しているだけで情報が勝手に集まってくるような土地です。ただ、東京で起きていることと、地方で起きていることはまるで違うので、情報量はあっても単眼的になるというか…。

今井:すごくよくわかる。なんか、わかった気になっちゃうんだよね、何にも知らないくせに。

泉:世界を旅する理由とも重なりますが、そういったギャップは意識的に外していかないといけないので、日本の地方も自分の足で歩いてみたいと思っています。

何かを掴んで帰ってくる

今井:自分が旅をするわけじゃないのに、なんだかワクワクしてきました。
私も以前、世界一周の旅に出たいと思ったことがあるんですよ。そのとき、頼りになるメディアが無かったので、これからは泉さんの旅の過程を聞いていきます。

泉:たしかに、実用性がなかったりしますよね。メディアのオシャレな雰囲気が壊れるのを嫌って、手引書としては使いにくいものも多い気がします。世界の旅の様子もコンテンツにする予定です。リアルな準備や、現地の情報をリアルタイムで届けられればなと思っています。

今井:すごく楽しみです、期待しています。ちなみに、帰国後につくりたいメディアって、どんな感じなの?

泉:経済や金融、カルチャーやライフスタイルといったジャンルを越境したメディアで、紙をメインにしたいと思っています。デジタルだと、どうしても興味のある情報だけをピックアップしちゃうじゃないですか。

でも、紙媒体だと、なんとなく最初から最後まで目を通してしまいます。そこに置いてあるだけで、紙の媒体は意味を持ちます。家で親が読んでいた雑誌や本は、そこにあるだけで意味があるように感じるんです。

親が子どもに一冊手渡すだけでも、その瞬間には意味がわからなくても、じんわりと人生に効いてきたりする。その効果は、デジタルにはありません。

もちろん、今の時代に紙だけで届けるのは現実的ではなく、動画やデジタルコンテンツを組み合わせていくことになるとは思います。それでも、紙をつくることにはこだわりたい僕が紙で読むのが好きというのもあるんですけどね(笑)。

今井:紙って本当に伝わるよね。『SHIRO PAPER』をつくってみて感じたのだけど、手に取ってくれる人が受け取れる情報量が段違いだなって。広さはないかもしれないけど、深さがある気がする。

泉:紙で読んだ記憶って、いつまでも残り続けますよね。

今井:泉さんがつくったメディアを早く読みたいです、今から首を長くして待っています。

泉:TABI SHIROが始まったとき、今井さんは、旅行の目的は「その土地へ行くこと」で、旅の目的は「何かを掴んで帰ってくること」だとおっしゃっていました。世界への旅で、僕は何を掴んで帰ってこられるか。とてもワクワクしているし、これが旅の醍醐味なんだと思います。 

今井:これからもPodcastで、お互いの旅と学びをもっともっと語っていこうね。

(編集サポート:小原光史、バナーデザイン:3KG 佐々木信)

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