利益よりも、大切なこと
北海道から2,200キロの旅路
「なるほど昔の人って、自然をうまく生活に取り入れていたんだ」
素材探しの旅をしていると、さまざまな学びが蓄積されます。その一つは、素材がかつてどのように使われてきたかという先人たちの知恵に触れた時の、畏怖にも似た驚きです。
今は技術の発展によって、素材の成分を分析し、しようと思えばその効果効能を科学的に明らかにできる時代になりました。
でも、そうした実証を経なくても、昔の人たちは自然に、天然の素材を「正しく」使っていたケースが多いのです。
SHIROが使用しているタマヌオイルもそのひとつ。沖縄県で採れる、貴重な素材です。
タマヌの木は沖縄のほかに、南太平洋に浮かぶソシエテ諸島や東南アジア、インド、オーストラリアなどに原産しています。日本での正式名称は「テリハボク」で、「タマヌ」はソシエテ諸島のひとつであるタヒチ島の言葉です。
古来より生育しており、太平洋の島々では「神聖な木」と言い伝えられてきたようです。こうした日差しの強い島々で暮らす人たちは、昔からタマヌのオイルを、肌を保護するための美容品として使用していました。
具体的には、紫外線防止に加えて、エイジングケアなどの美容効果が高い天然オイルとして使われてきました。日本でいえばアロエのような存在で、まさに「万能薬」という表現がぴったりな植物です。
そうした先人たちの知恵をより現代に落とし込もうと、SHIROもこのタマヌオイルの効果には注目して製品開発をしてきました。
かつては、インドネシアの素材を使って製品にしていたのですが、できれば国産のものを使いたい。そんな想いを胸に抱えている中で、沖縄県で良質なタマヌオイルを扱う生産者さんがいると聞いて、すぐに現地に向かいました。
タマヌは沖縄で古くから、防風林として植樹されていました。根が深く直根性のテリハボクは、台風時に枝は折れますが、倒木することはほとんどありません。そのため、台風が多い沖縄で、暴風から人々を守ってくれているそうです。街路樹としても植えられていて、沖縄の人にとっては身近な植物でもあります。
一方で、「近すぎるとその価値を見失う」ことが日常でも少なくないように、沖縄の人たちにとって当たり前の存在であるため、少し迷惑がられることもあるようです。
春と秋になると、タマヌは実を落とします。3〜4センチの固い実は道に転がると危険で、滑って転ぶ原因になることもあるようです。あるいは、あたりに実が転がっている様子は景観を乱すという意見もあり、必ずしも喜ばれる存在ではないのが悲しいところ。
そんなタマヌに価値を見出したのが、株式会社すまエコの宇佐美徹さんです。
もともと、関東で再生エネルギー関係の仕事をしていた宇佐美さんは、タマヌが秘める可能性を信じて、沖縄に移住して会社を立ち上げたのでした。
目には見えない物語がある
タマヌオイルを使った製品は、世界的に珍しいものではありません。ハワイなど日差しが強い国では、ドラッグストアでもタマヌオイル100%の製品が販売されています。
100%オイルなら、どこで購入しても同じなのでは?同じなら、安価なものを購入した方が良いのでは?
そう思われるかもしれません。でも実は、同じ100%オイルの製品でも、製品化の過程でいかに手間暇を惜しまないかで品質は変わります。
タマヌオイルの場合、海外のドラッグストアなどで購入できるものは、強い香りがついているものがほとんどです。
というのも、タマヌオイルは製品化する過程で、どうしても嫌な匂いが出てしまうのです。そのため多くのブランドでは、ハイビスカスやプルメリアの香りを混ぜることで、タマヌの独特な匂いを消して製品化しています。
しかし、そうすると当然、ハイビスカスやプルメリアの香りが強くなってしまいます。強い香水が浸透している海外では違和感なく使えるかもしれませんが、都市部の人口密度が高く満員電車などで人が密集する日本では、どうしても使いにくくなってしまうのです。
SHIROのタマヌオイルは、香料を使わなくても嫌な匂いがしません。ナッツに似た、自然由来の香りがします。
その秘密が、生産者であるすまエコさんにあります。タマヌオイルをいただいているすまエコさんは、効率性よりも、とにかく丁寧に製造することを大切にされています。
道に落ちているタマヌの実を早朝に拾って、人の目で選別し、乾燥させて、圧搾する。工程を書くとシンプルですが、一連の作業をすべて手作業で丁寧に行っているから、独特の匂いが出ず、オイル本来の香りがするのです。
製造過程を見せてもらいましたが、とにかく手間がかかっていました。加熱すればもっと楽に抽出できるのに、それをしない。もちろん化学薬品も使いません。
だから、タマヌ本来の栄養が失われることもなく、酸化安定性が高くて、高い抗酸化作用や紫外線防止作用を実現できるのです。
種1粒から搾ることができるタマヌオイルは0.3gに満たない量で、10mlのオイルを絞るのに33粒の種が必要です。
さらに、すまエコさんに惹かれるのは、実を拾っているのは地元のシルバー人材センターに所属する年配の方々という点です。自然に優しいだけではなく、地元の雇用創出にも貢献しています。
そうした方々が、タマヌの実を拾ってくださいます。早朝に行うのは、虫が食べてしまったり、汚れていない実を拾ったりするためなのでしょう。
自然に優しいだけでなく、幅広い世代に雇用を生んでいる。事業の裏にたくさんの物語がある、とても優しい会社なのです。
これからも、誠実なものづくりを
SHIROの製品のほとんどは、捨てられてしまう素材からつくられています。そういう意味では、すでに製品として確立されていたタマヌオイルは例外的です。
それでも製品をつくり続けているのは、すまエコさんという、素晴らしい生産者さんとお仕事ができているから。
SHIROは、こんな価値観を掲げて経営しています。
出会った当初から、彼らの仕事に触れるたび、きっとすまエコさんも同じ想いで経営をされているのだろうなと共感しました。売り上げや利益よりも、製品を使ってくださる人や、地球や社会のことを考えているはずです。
すまエコさんとお取引をするまでは、こちらから「捨てられている素材を分けてください」とお願いしにいき、信頼をいただけるまで、長い時間をかけて関係を育んできました。
宇佐美さんは、出会う前から同じ想いで会社を経営されていました。そんな人に出会えたことが、私はとっても嬉しくて。これからも私たちは、宇佐美さん以外と取引をするつもりはありません。
タマヌに限らず、がこめ昆布も、ラワンぶきも、酒かすも、米ぬかも、すべて同じです。これまでお取引のある生産者さんで、途中で関係が途絶えてしまった方は、ほとんどいません。
みなさんの口からは、「社会をよくしたいね」「後世に美しい地球を残したいね」という言葉が自然に出てきます。利益のことだけを考えて経営していませんし、根底にある想いが一緒だから、ずっといい関係を続けられているのです。
信頼できる生産者さんと出会えないのであれば、その素材を使わなければいい。成分としてどれだけ優秀でも、生産者さんと共感できなければ、製品にはしません。
SHIROは、「これからもずっと、この人とやっていこう」と思える方としかお取引をしません。一時的な経済重視の関係性ではなく、ものづくりの想いに共感したら、ずっとずっとご一緒させていただく。
そうした関係性を築いて製品を開発していくことが、お客様に対する誠実な製品提供であり、SHIROがSHIROであり続けるための条件だと思っています。
(編集サポート:泉秀一、小原光史、バナーデザイン:3KG 佐々木信)