SHIROが「マーケティング」をしない理由
「ニーズ調査」をしない理由
製品をつくるとき、まず何から始めるかーー。この質問は単純なようで、企業それぞれの価値観が表れる本質的な問いかけだと思います。
SHIROは、「自分たちが毎日使いたいもの」をつくることを追求してきたブランドです。がごめ昆布美容液も、ラワンぶき化粧水も、タマヌオイルUVも。SHIROの製品はもともと、私がこんなものがあったら使いたいなと、ずっと探していたアイテムばかりです。
製品をつくるときのポイントは、自分たちが毎日使いたいかどうか。いま世の中で何が流行しているか、トレンドなのかは関係ありません。
そもそも、すでに世の中に自分が使いたい製品があれば、つくる必要もありません。そのため、市場で人気の成分を調べる必要も、売れているブランドを真似することもしない。SHIROはコスメティックの業界で一般的なニーズ調査、顕在化したマーケットニーズに合わせることをしないブランドです。
表面化しているニーズに合わせたり、売れている商品と似たものを販売したりすると、短期的に売り上げや利益は上がるかもしれません。でも、同じようなものが増えることが社会にとっていいことだとは思えません。
もちろん、類似商品が増えることで価格競争が起き、消費者がお安く化粧品を手に入れられる、という現象は起きるかもしれません。産業によっては独占企業が正常な程度を超えて不当な利益を得ることもあるため、競争は必要です。
しかし、少なくとも化粧品は独占的な企業が君臨している業界ではありませんし、ブランド数もたくさんあります。その中で、各社が似た商品を販売することが、社会から求められているのかどうか。
少なくとも私たちは、何か別の付加価値を提供していきたい。「たくさん売りたい」「利益を上げたい」という企業の事情を起点にするのではなく、素材を提供してくれている地球の循環を起点に、人々の暮らしとの接着点を見出して、製品に落とし込んでみたいのです。
SHIROが目指しているのは、そうした私たちにとって必要だけれど、まだどこにもない製品をつくることです。
「選ぶ責任」より、「つくる責任」
SHIROは、広告費を過剰に使って消費を促すこともしません。
コスメティック業界はマーケティング費用をたくさんに使うことで知られています。それゆえ、マーケターは花形の職種のひとつです。一方で、大量の広告によって消費を促している事実は、「そうしないと手に取ってもらえない」ことの裏返であるとも言えます。商品そのものの差別化よりも、広告によるイメージで消費を刺激している側面があります。
しかし、それは本当に社会にとって良いことなのか。過剰な広告を浴びせられて商品を購入するサイクルの繰り返しが生活者のしあわせにつながるとは、私にはどうしても思えないのです。
市場で売れているものに似た商品をつくり、それを売り上げるため、広告で消費をより促していく。SHIROはこうしたスタイルのマーケティングをしないと決めています。
もちろん、きれいごとを言うつもりはありません。以前、Podcastやnoteでお伝えしたように、私たちもすでに市場に存在する「似たような製品」をつくっていた時期がありました。自社ブランドを持たず、企業の依頼を受けて代わりに製造するOEM事業を運営していたときのことです。かわいいパッケージで、いい香りで、トレンドを取り入れて…と“売れそうな製品”を企画していました。
しかし、長男が生まれたことをきっかけに「自分にとって必要なもの」が変わりました。トレンドやイメージで購入するのではなく、自分の大切な子どもに使いたいと思える、確かな素材からつくられた製品が欲しいと思いました。そして、そうした理想的なブランドを見つけられなかったため、自分たちでつくることにした。それがSHIROの原点です。
以降、ブランドの立ち上げに試行錯誤しますが、従来のコスメティック業界のやり方で成功する企業を横目に見ても、「うらやましい」とは思いませんでした。たとえブランドが認知されたとしても、自分がやりたいことはそこにはない、と立ち上げたときの信念は変わりませんでした。
企業は社会に対して大きな責任を負っています。SDGsの文脈で、消費者サイドにも地球や環境に良い商品を選ぶ「眼」を求める雰囲気がありますが、そもそも良い商品しか世の中に存在しなければ、誤った選択をすることはありません。商品を購入して使う消費者側のせいにしない、つくる企業側の責任が問われていると思います。
「何を良いものとするか」は企業によって異なりますが、すべての生産者が「これは自分たち考えるベストな製品だ」、と胸を張れるようになると良いなと思います。心の奥底で「良くない」と思っているものを、企業や経済の論理で生産し続けることほど、メーカーで働く人にとって悲しいことはありませんから。
世の中をしあわせにする、ただそれだけ
市場で売れているものに似た商品をつくり、それを売り上げるために広告で消費をより促していく。そうしたマーケティングをしないSHIROでは、製品ごとにコンセプトやターゲットを決めていません。
そのため最初から販売価格が設定されることはなく、すべては素材ありきで決まっていきます。ターゲット、販売価格、原価、成分(素材)という順番に決まる一般的なコスメティック製品の開発とは真逆の工程でつくられています。
「この素材を無駄にしたくない」「こんな製品がほしい」という想いからものづくりが始まるので、製品開発に数年、長ければ10年近くかかったこともありました。もちろん、それだけ試行錯誤すれば人件費も材料代も嵩みます。
SHIROの姿勢に対して、そういったお声をいただくことがあります。これまで自然と続けてきたことなので改めて質問をいただくと戸惑うものですが、「目的」がシンプルだからなのかもしれません。
私たちの原点は、「自分たちが毎日使いたいものをつくる」こと。その使いたいものが、より多くの人に届くと嬉しいなと思っています。
「自分たちが毎日使いたいものをつくる」ことがSHIROの存在意義なので、信念を曲げる理由がありません。もし、その根幹が揺らぐのであれば、それはブランドをやめるときなのだと思います。ブランドを続けることや、それによってお金を稼ぐことが目的ではありませんから。
そうした「自分たちが毎日使いたいものをつくる」というSHIROの信念は、言葉のチョイスからエゴのように感じられてしまうかもしれません。「自分たちが」と、まるでお客さまのことを一切考えていないかのように受け取られることもあるでしょう。
でも、この言葉には、「自分が使うことを想定した誠心誠意のものづくりだからこそ、妥協が生まれず、結果的に誰かのためになる」という想いが込められています。「自分たちが毎日使いたいものをつくる」ということは、自分や家族と同じくらいお客さまを大切にしたいという決意でもあります。
誰かのために頑張って役に立ち、社会に喜んでもらえたとき、生きている意味をより実感できます。私は、誰かのために働いた方が頑張れるタイプなので、そうありたいと思っています。
今日はそんな、マーケティングを通した私の経営に対する想いについて綴ってみました。
(編集サポート:泉秀一、小原光史、バナーデザイン:3KG 佐々木信)