SHIROは「古着」を始めます
「消費」で心は満たされない
世界一幸福な国・フィンランドを旅してみたら、人々が幸福に暮らすためのヒントがたくさん見つかりました。
森が身近だしまちも綺麗。宿の周辺を散策するだけで魅力を感じることができる素敵な国ですが、とりわけ印象的だったのが、“消費ではなく循環で心を満たす文化”です。
ほとんどの先進諸国で大量生産・大量消費が行われていて、たくさんの物が捨てられています。購買力の高いフィンランドにもそうした側面はあるのでしょうが、同時に循環を大切にする文化も根付いています。
まちを歩けば、たくさんの「セカンドハンドショップ」に出会います。直訳すると「中古品」ですが、単純な価格重視ではない意識の高さを感じました。セカンドハンドショップが多い背景には、「大切に使っていたモノを、自分以外の誰かにも使ってほしい」というカルチャーが関係しているように思うからです。
こうしたフィンランドの循環を大切にする暮らしは、私が実現したい未来と通じるものがあります。
SHIROは「捨てられてしまっていた素材を恵みに変えるブランド」です。用途がなく捨てられていた「がごめ昆布」が自然の恵みに見えたあの日から、ずっと「豊かな地球をつくりたい」という想いでブランドを運営してきました。
豊かな地球をつくるためのアプローチは、製品開発だけではありません。余ってしまった香料と容器から生まれる香水「ZERO COLLECTION FRAGRANCE」をリリースしたり、“「捨てない」そして「新たにつくらない」お店づくり”をしたりと、さまざまな取り組みにチャレンジしてきました。
常に新たな取り組みを模索する中で、フィンランドは大きな刺激になりました。「セカンドハンドショップ」の文化はもちろん、ちょっと食事に行くだけで瓶の底を使ったキャンドルの受け皿や、ワインボトルをそのまま再利用したお水の入れ物に出会います。
そうしたフィンランドの当たり前に触れていくうちに、「リユース」こそ、SHIROが取り組むべきテーマなのではないかと確信するようになりました。
「リサイクル」ではなく「リユース」
私は旅で感じたことや、現地で学んだことを、誰かに共有するのが好きです。誰かに話すことで学びが整理されたり、プロジェクトが動き出したりするので、機会があれば積極的に共有しています。
フィンランドでの学びを最初に共有したのは、オーダーメイドの結婚式、CRAZY WEDDINGを創業した山川咲さんでした。帰国した3日後、山川さんとLINEでメッセージのやり取りをしていたら、「一緒に化粧品の容器を回収しませんか?」と返事が返ってきました。
山川さんは現在、捨てない社会の実現を目指す循環商社、ECOMMITの取締役をされています。不用品・廃棄物を回収して再流通させる事業を展開していて、SHIROの容器もリユースしようと提案していただきました。
SHIROがリユースにこだわるのは、より小さなエネルギーで循環を実現できるからです。使用済みのものを回収して資源に戻して再び製品化するリサイクルは、「資源に戻す」「製品化する」という過程でエネルギーを消費してしまいます。
もちろん、捨てれしまうよりもリサイクルした方が良いのですが、そのまま何度も使えるリユースの方が資源としては効率的です。
しかし、リユースを実現するのは簡単ではありません。SHIROでもこれまで、容器の再利用については何度も考えてきました。ただ、瓶のリユースは世界的に見ても事例が少なく、香りや油をきれいに洗浄するのが難しくて、ハードルが高く踏み出せずにいました。
でも、悩んでいるだけでは前に進みません。時には、「やる」ことを決めてから、方法を考えることも必要です。フィンランドから刺激を受け、山川さんからのLINEに「やる!」と返事をしました。
すぐにECOMMITと何度もミーティングを繰り返し、瓶の回収スキームづくりや、瓶にどのように識別を与えるのか、実証試験をするにはどうしたらいいか、などを議論しました。そして、シロでは洗浄しやすい容器の開発に取り組み、リユースを前提とする容器開発にも舵を切っています。
ECOMMITは、同社の「PASSTO」というサービスを利用して容器の回収を行っています。全国約50~100箇所の拠点で回収ができるので、ぜひチェックしてみてください。
SHIROは「衣類」も販売する
SHIROのリユースへの取り組みは、容器の回収では終わりません。コスメティックの領域を飛び出すことにしました。
きっかけは、ECOMMITの代表である川野輝之さんから溢れ出る熱意でした。川野さんは、17年前からリユース事業を立ち上げている業界の先駆者です。今のように循環やリユースが社会の重要課題として広く認識されていなかった頃から、ずっと取り組んでこられた“本物”の経営者でもあります。
当時は、政府から助成を受けて事業を運営したり、チャリティとして局所的に環境問題に取り組む事業者が多かったりしたのですが、川野さんは本気で環境問題に向き合い、社会全体を変えるスケールを模索されてきました。
たとえば、着なくなった服を集めて途上国に送るプロジェクトがありますが、そのほとんどはゴミになっていたのだそうです。この領域では、いいことをしたつもりでも、結局は誰のためにもなっていない、なんてことも少なくないようです。
それを解決したかった川野さんは、22歳で起業。誰かによく見られたいからではなく、地球をよくしたいという想いで突っ走ってきた彼の熱意に触れた時には、「私ももっとやらないと!」と背筋が伸びる思いでした。
本気で社会を良くしたいと思えば、一定のスケールが必要です。全てを自社で担う必要はありませんが、それでもなるべく多くの人に触れる、関係のある領域でなければ、局所的な取り組みで終わってしまいます。
SHIROにとっては新たなチャレンジですが、衣類のリユースに取り組むことにしました。8月8日から、使用済みガラス容器の回収を全国のSHIROの店舗でスタートし、同時に一部の店舗で衣類の回収も実施しています。
皆さんのクローゼットに眠っているまだ着られる服を回収して、年内には回収したアイテムを販売するPOP UP STOREを実験的にオープンする予定です。一過性の取り組みに終わらず、事業として成果を上げる方法を模索していきます。
また、SHIROだけが取り組んでいても社会の大きなうねりにはつながりません。地球環境に本気で向き合っている企業にも声をかけながら、活動を広げていきたいと思っています。
ものづくりのマインドを、変える
ものづくりをするときは、「こうすると使いやすい」「こうするとかわいらしい」という観点で開発されるものです。そこに、「こうすると回収しやすいよね」という視点が加わったら、きっと世の中からゴミが減るのではないでしょうか。
川野さんが実現したいのは、こうした視点を持つ会社を増やすことです。「ものづくりをする人たちのマインドを変える」ということです。SHIROは川野さんの考えに賛同しますし、そうした会社を増やしていくためのモデルケースでありたいとも思っています。昨年発表した、廃棄物ゼロを目指す「15年目の宣言」や、今回の「SHIRO リユースプロジェクト」は、その挑戦の始まりです。
現代社会には、消費を煽る仕組みはたくさんあるのに、廃棄を減らしたり、再利用したりするための仕組みはほとんどありません。
でも、それでいいわけがない。私は未来ある子どもたちに、今のままの地球を残したいとは思いません。環境が悪化し続けていく地球を残して去るのが嫌なのです。
私がフィンランドの文化から閃きを得たように、山川さんや川野さんから企業のあるべき姿勢を学んだように。「SHIRO リユースプロジェクト」が皆さんの新しい発見につながると嬉しいです。
私たちが豊かな地球に暮らせているのは、少し前の時代を生きてきた方々のおかげです。その恩恵を受けて終わりではなく、ちゃんと物語をつないでいきたい。
世代を超えてバトンをつないでいく一助になることが、SHIROというブランドの願いであり、使命でもあると思っています。
(編集サポート:泉秀一、小原光史、バナーデザイン:3KG 佐々木信)