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SHIROが考える、「本当の贅沢」のはなし


「暮らし」は誰かの仕事でつくられている

食卓に並べられたごはんとお味噌汁、仕事に出かけるときのワードローブ。退屈な日常を彩る素敵な音楽や、疲れたからだをいたわるボディケアグッズ…。私たちの毎日は、誰かの仕事でつくられています。

でも、製品が生まれるまでの過程、誰かの仕事に心を馳せる機会は、なかなかありません。店頭で購入するときだってそうなのですから、インターネットで製品を購入するとなるとなおさらです。

それが必ずしも悪いことだとは言いませんが、自分が普段使いしている製品の製造工程を知ることができたら、「もっと大切に使ってみよう」と思えるのではないでしょうか。もしくは、普段から愛用している製品を、もっと好きになれるかもしれません。

SHIROはものづくりのブランドなので、ものづくりの尊さを誰よりも理解しています。スタッフたちが想いを込めてつくった製品ですから、大切に使っていただきたいですし、生産者さんの仕事にも目を向けてほしい。

だから、私たちはこれまでも、製品が生まれるまでの過程や物語を、お客様に公開し続けてきました。ブランドの原点でもある「生産者の顔がわかる、良質で安心な素材をもとに、自分たちが毎日使いたいものをつくる」という哲学を、お客様に誠心誠意伝え続けてきたつもりです。

SHIROの生まれ故郷・砂川につくった「みんなの工場」にも、その姿勢が反映されています。来館者がくつろぐスペースと製造ラインはガラス一枚で仕切られているのですが、これはつまり、製品の製造過程が誰の目にも見えるということです。

製品開発の裏側を公開することは、強い覚悟がいります。それでも決断したのは、ものづくりの尊さを、皆さんに伝えていくためでした。

そして、製品が生まれるまでの過程に想いを馳せる機会をさらに増やしていこうと、新たな挑戦をすることにしました。それが、SHIROが手掛ける一棟貸しの宿泊施設「MAISON SHIRO(メゾンシロ)」です。

前回のTABI SHIROでは、「森の都合にあわせて建築する」というMAISON SHIROの裏テーマについて語りました。よろしければ、建築のプロセスについて語ったこちらのnoteを先に一読してみてください。

今回のnoteでは、「SHIROの暮らしを体感する」という、MAISON SHIROのコンセプトについてお伝えさせていただきます。

宿泊施設に蒸留設備がある理由

SHIROの製品は、スキンケアやコスメティック、フレグランスなど、皆さんの暮らしに寄り添うものです。ものづくりの背景には、いつも「暮らし」があるので、MAISON SHIROで過ごす時間を通じて、SHIROというブランドを感じていただきたいと思っています。

リビングルームやバスルームにはSHIROの製品をたくさんご用意していますが、ただ製品を使っていただくことだけが、私たちの目的ではありません。
SHIROの製品を使っていただきながら、それらがどのような想いで、どのような過程でつくられているかを感じていただけるよう、MAISON SHIROにはたくさんの創意工夫が凝らされています。

たとえば、製品の原料となる素材の蒸留設備「シロラボラトリー」。ここでは、近隣の森林を管理する過程で生まれる間伐材やその枝葉、森に自生する笹やヨモギなどの旬の素材を、馬追山の天然の湧水である「馬追(マオイ)の名水」を用いて蒸留し、実際に製品に使用しています。

SHIROにとってものづくりは、暮らしの延長線上にあります。生活者がほしいものは、会議室から生まれるわけではないからです。実際に働いてみたり、暮らしてみたりするからこそ、良い製品が生まれると信じています。

暮らしの延長線上にものづくりがあるということをどうしても伝えたかったので、みんなの工場の近くではなく、あえてMAISON SHIROに蒸留設備をつくりました。

ラベンダーを蒸留した翌日に宿泊すると、MAISON SHIROの周辺一帯には、ラベンダーの香りが漂います。ものづくりをする私たちにとっては日常的なことですが、きっと宿泊者の皆さんにとっては非日常のはずです。

こうした体験は製品が生まれる過程に想いを馳せるきっかけになるでしょうし、それによって暮らしに対する考え方に変化が生まれるかもしれません。「自然の香りって素敵だな」「もっと自然に目を向けてみよう」と思っていただけると嬉しいです。

SHIROの製品をご購入していただかなくても、そうして自然に対する見え方が変わるのであれば、とても嬉しいです。

私たちが知らない、本当の贅沢

実際に宿泊していただけると分かるのですが、MAISON SHIROは「至れり尽くせりの一棟貸し」ではありません。足りないものも多く、皆さんが想像する“贅沢”とは、かけ離れた宿泊施設です。

どうしてわざわざ、「至れり尽くせり」からかけ離れた宿泊施設をつくったのか。もちろん、理由があります。私のモットーである「現地現物」という考えを伝えたかったからです。

現地現物とは、自分の足で行って、自分の目で見ないと、大事なことは分からないという考え方。東京に暮らしていると、なんでも欲しいものが手に入るし、文句の付けようがないくらい生活インフラが整っています。だから、不便な地域に行くと、とてももどかしく感じるものです。

でも、そうした不便さの中に、本当の意味での贅沢があるように思います。眩しい朝日で目が覚め、鳥の囁きで気分が軽やかになり、目の前で採れた新鮮な野菜にオリーブオイルをかけて食べる。自然と共生するということだけで、私たちは十分しあわせになれるもの。

欲しいものがなんでも揃うのは、たしかに便利なことだと思います。だけど、それが本当にしあわせかはわからない。仮にしあわせだったとしても、便利さが当たり前になると、そのありがたさに気付くのは簡単ではありません。

翻って、東京に比べたら不便な場所でも、そこでしか体験できないことに触れたり、日常を改めて見つめ直したりすることは、本当のしあわせを感じたり、いかに自分がしあわせであったかを見つめ直す機会になります。

いろいろな意見があると思いますが、私は「天然由来の素材に敵うものはない!」と信じています。

化粧水にしても、肌への有効成分を素材から抽出してつくる手法もありますが、抽出するには人間の肌に合わない溶剤を使う必要が生じます。であれば、わざわざ有効成分を抽出せずに、天然由来の素材をそのまま使ってしまう方がいいはずです。

天然の素材は、私たちの都合に合わせて、本来持っていたはずの価値を失ってしまったり、姿を変えたりして提供されているのが現状です。それによって、自然に暮らす私たちの生活が脅かされるという、本末転倒な事態にもなっています。

こうした状況を変えていくには、私たちひとりひとりが考えを改めていかないといけません。「足るを知る」という言葉があるように、MAISON SHIROでの暮らしを通じて、SHIROの考えを少しでも多くの人に届けていきたいと思っています。

ものづくりの“気配”を届けたい

MAISON SHIROは、新千歳空港から車で25分、札幌から車で1時間という、決してアクセスがいいとはいえない場所にあります。一棟貸しですし、毎日営業をしているわけではないので、多くの方をお招きできるわけでもありません。

「もっと便利な場所にもつくったら?」「いくつかあったほうがコンセプトを伝えられるんじゃない?」という声もいただきます。でも、長沼以外の場所に、新しく宿泊施設をつくる予定はありません。というのも、アクセスが悪い場所に、わざわざ足を運んでいただけるからこそ、伝えられることがあると信じているからです。

ものづくりの気配を感じてもらうには、それくらいしないとダメなんです。「私たちが伝えたい想いを、80%の濃度でたくさんの人に伝える」という器用なことは、できません。

そもそも、「MAISON SHIROで商売をしよう」と思っていないので、これからも長沼という場所で、想いを持って営業を続けていきます。維持するだけでなく、濃くしていこうと思っているので、新しいアクティビティもつくっていくつもりです。

たとえば、「きくらげってこんな場所で採れるんだ」「採れたてのきのこってこんなに美味しいんだ」と知っていただけたら、それが森に足を運ぶきっかけになるかもしれません。そうすると、前回お伝えしたように、建築に対する考え方が変わるかもしれませんよね。

ちなみに、私は月に一度はMAISON SHIROに泊まるようにしています。ご宿泊していただいた方は気付いているかもしれませんが、まだ発売していない新製品のサンプルをさりげなく置くこともあります。使っていただいたサンプルを見て、「気に入っていただけたかな」「もっと改良が必要かな」ということを一人で黙々と考えています。

会ったこともないし、話したこともないけれど、宿泊を通じてお客様と会話をしているような感覚です。実は、MAISON SHIROにあるまな板や包丁、カトラリーや置き物は、私が実際に使っているものです。自分で使ってみて、本当にいいと思ったものをご提供したいからです。

そうやって選んだアイテムや、SHIROの製品の使われ具合を見るのが、私は本当に楽しみです。暮らしを通じて、皆さんの声が聞けることが、とても楽しみです。

メゾンのお庭で仕事をすることも

*MAISON SHIRO

(編集サポート:泉秀一、小原光史、バナーデザイン:3KG 佐々木信)


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