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SHIROが「フィンランド」から学んだこと


幸福の理由を探しに、フィンランドへ

私たちが暮らす日本は、美しい自然に恵まれ、豊穣な文化が根付く国です。治安がよく、生活インフラも整っていて、機能的にも暮らしやすい。世界各国を旅してきましたが、「便利さ」でいえば世界トップクラスだと感じています。

しかし、国連の持続可能開発ソリューションネットワーク(SDSN)が発表する「世界幸福度ランキング」では、順位が低迷しています。2024年の結果は、143ヶ国中51位でした。

どうして幸福度について気になったのかというと、社外からSHIROをサポートしてくれていた女性スタッフが、突然「日本は生きづらいから、コペンハーゲンに移住する」と言い出したからです。突然の宣言でしたから、「え?」と驚きました。そもそも「生きやすさを手に入れる」という発想が、以前の私にはありませんでしたから。

コペンハーゲンを首都に持つ北欧の国・デンマークは、幸福度ランキングで世界第2位にランクインする国です。

たしかに北欧といえば、福祉が充実していたり、教育の自由度が高かったり、世界各国に先立つ社会制度があるとは聞きます。とはいえ、それらがいかに「生きやすさ」につながっているかが、私にはわかりませんでした。

だから、実際に北欧を旅することで、「生きやすさ」の正体を確かめることにしました。向かった先は、世界幸福度ランキングで第1位に選出されるフィンランドです。

これまで北欧の国を旅した経験はありませんでしたが、フィンランドはSHIROが出店しているロンドンから、そう遠くない距離にあります。行動派の私なので、思い立ったが吉日。現地現物の精神で、ロンドンへの出張に合わせて足を運んでみることにしました。

フィンランドを旅する目的はふたつ。ひとつはもちろん、フィンランドの「生きやすさ」を自分自身で確かめること。もうひとつは、以前から興味を持っていた「森」を知ることです。

フィンランドは国土面積の約73%が森林で、いたるところに神秘的な森が見られます。「自然と共存する暮らし」を国として掲げていることもあり、国民の多くが「森に入る」という行為を日常の習慣のようにしています。

自然と共存する暮らしが「生きやすさ」に影響しているかもしれないし、もしそうだとしたら、国土における森林の割合がフィンランドに次ぐ日本にも、幸福度の高い生き方をするチャンスがあるはず。

2023年の7月上旬、世界一幸福な国へと旅立ちました。

北欧の森で見つけた、本当の贅沢

フィンランドでは、森を歩く前から「自然と共生する人々」の生活が目に付きました。公園のベンチに腰掛け、街ゆく人の姿に目をやると、多くの人がトレッキングシューズを履いているのです。なるほど、「自然と共存する暮らし」は、フィンランドに暮らす人々にとって日常そのものなのだなと感じました。

衝撃的だったのは、森に入る時の「持ち物」。これから森を歩くというのに、ソーセージとマシュマロ、あとはパンだけあれば十分だというのです。フィンランドで「森歩き」といえばこの3つが定番で、それ以外に持ち物はほとんど必要ありません。

どうしてこれだけ軽装で森に入れるのかといえば、人々が歩く道は行政によって整備されていて、食材を調理するための薪火台はもちろん、薪そのものも用意されているから。

一部有料のものもありますが、「laavu」(ラーヴ)というキャンパーやハイカー向けのシェルターも各地にあり、とにかく「ふらっと森に入れる」仕組みが整備されています。

静かな森を歩き、薪で焼いたソーセージを頬張って、大自然に佇むサウナでととのう…。そうした時間を過ごすうちに、この国が「幸福度ナンバーワン」である理由が、少しだけわかったような気がしました。

森に入るという行為や、大自然に囲まれたサウナでととのう時間が贅沢だから、という理由ではありません。もちろん贅沢な体験ですが、国民の豊かで幸福な暮らしに、政府が全力で投資している。

もちろん「完璧」ではありませんが、森の整備だけではなく、社会の細かいところまで「幸福」を軸に設計していく意思が滲んでいました。

フィンランドの“足るを知る”空気

森を後にして、街に出かけてみても、フィンランドの暮らしぶりには驚くばかり。たとえば、道端にはゴミひとつ落ちておらず、とにかく美しい景観が保たれています。

調べてみると、これを実現している背景には、「Pantti(パンッティ)」というシステムの存在が関係していることがわかりました。空き瓶や空き缶、ペットボトルがお金に変わる仕組みです。

資源に変わるゴミを、スーパーマーケット等に設置されている専用の回収機に入れると、1本につき10〜30セントの金券が発行されます。回収機に入れさえすれば次の買い物がお得になるので、街の中でポイ捨てがあったとしても、誰かが自主的に拾ってくれる仕組みです。

お小遣いが欲しい子どもがゴミを拾って、その日のおやつ分を稼ぐ…なんてことも、日常茶飯事だと聞きました。

自然とサステナブルな選択をする仕組みづくりが進んでいて、国民がその恩恵をしっかりと受けているから、自ずと循環型の社会が形成されています。

サステナブルな国民性を象徴するものとして、「セカンドハンドショップ」の多さも目に付きます。いわゆるリユースショップなのですが、自分に似合わなくなってしまったり、持て余してしまったりしたアイテムを、誰かに譲るという意識がすごく強い。

日本だと、「お金に換わればいいな」という理由で中古市場にまわすことが多いと思うのですが、フィンランドは少し事情が違って、大切に使っていたモノを他の誰かにも使ってほしい、という想いが後押ししています。

以前紹介した、イタリアに暮らす人々の「バトンをつないでいく」という国民性に近いかもしれません。

レストランで食事をしていても、当たり前にサステナブルな選択をするフィンランドの空気が感じ取れます。

お水の入れ物はワインボトルを再利用したものだったり、キャンドルの受け皿が瓶の底だったりと、肩肘張らないクリエイティブが根付いているのです。

感動してしまうのは、これが当たり前になってきていること。ゼロウェストレストランであることを、わざわざコンセプトに掲げて集客しているわけではないのです。

たった3日間の滞在でしたが、「サステナブルな生活がスタンダードになっている国民の暮らし」に、ことごとく感心させられたのでした。

しあわせ大国・日本を目指して

短い期間でしたが、フィンランドで過ごした時間で、“世界で一番しあわせな国”といわれる理由の一端を垣間見た気がします。それは、「生きやすさ」とも通底するものです。

自然に触れるだけでも心が安らぎますし、森で採れるベリーやキノコでつくる食事は、どんな豪華な食事よりも贅沢です。大自然の中で食べるご飯って、とっても美味しいですよね。あの感動が、日常にあるというのは、本当にしあわせなことです。

そして、ごく自然にサステナブルな選択を促す仕組みもある。仕組みの中で暮らす…なんていうと無機質に感じるかもしれませんが、フィンランドの至るところにある仕組みは、豊かな社会を実現するために存在します。ゴミがない街で暮らせるのも、消費ではなく循環で心を満たせるのも、仕組みがあるからこそです。

そして、「政府と国民の信頼関係」。整備された森や「Pantti」が象徴するように、政府が国民の豊かな暮らしに投資し続けていることを全員が理解しているので、双方の間に信頼関係ができています。一緒に森を歩いたフィンランドの方からは、政府に対する信頼の言葉を直接聞くこともできました。

仕組みを変えるのは大変なことなので、日本がフィンランドのように幸福度の高い国になっていくのは長い道のりかもしれません。

でも、ひとりひとりが行動を変えることはできます。SHIROが廃棄物ゼロを目指す取り組みをしているのも、「みんな」が集える場所としての工場をつくったのも、利益を社会に還元して豊かな社会をつくっていくためです。

私たちにできることは限られているかもしれないけれど、みんなが行動を変えていけば、いずれ日本は世界を代表する“しあわせ大国”になれるかもしれません。

SHIROの企業理念は「世の中をしあわせにする」。

フィンランドの旅は、SHIROがSHIROであり続けるための原点、そして、これから進むべき未来を再認識させてくれたのでした。

(編集サポート:泉秀一、小原光史、バナーデザイン:3KG 佐々木信)

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