「TABI SHIRO」MC・泉さんの世界の旅の目的とは?
Podcastを聴いてくださっている皆さんはご存知だと思いますが、TABI SHIROは、私ひとりで語る番組ではありません。ノンフィクションライターとして活動されている泉秀一さんをお招きして、MC2人体制で番組をつくっています。
noteに泉さんが登場する機会は少ないのですが、2カ月ほど前に、初めて「泉さんの旅」についてお話を聞く機会がありました
34歳で「世界一周の旅に出る」というので、どうしても気になって、旅に出る理由や計画についていろいろ質問してみたのです。
今日は、その続編。旅の目的や計画が以前よりも明確になってきたそうなので、改めて深掘りしていきたいと思います。
体験しないと、見えない世界がある
今井:以前お話を聞いたとき、泉さんは「今まで見てきたことや、経験したことでしか、人はものをつくれない。 だから、世界一周するんだ」というようなことを言っていましたよね。
私はそれを聞いて、素直に「すごいな」って思いました。というのも、世界一周の旅に出る人は少なくないけど、「旅すること」が目的になっている人がほとんどだから。それは悪いことではないし、きっとうまく言葉にできていないだけで、ちゃんと理由を持っているとは思うけれど、泉さんくらい明確な理由を持っている人は少ない気がして。
泉:急に褒められると、くすぐったい気持ちになります(笑)。
普段はライターとして記事を書いているのですが、記事を書いているときに、「過去と同じような切り口だな」「自分が見てきた世界から抜け出せていないな」と思うことが多くて。
フリーになって以降、スポーツ関連の記事を書く機会が多いのですが、例えばオリンピック選手について考える時、自分の推測が入るんですね。時に選手本人も言葉にできていない複雑な感情を、見つけていく。「きっとこんな気持ちで挑んでいたのだろう」といった推測が大切なのですが、自分に経験が足りないと、解釈が一辺倒になりがちです。
もちろん、10代、20代の時だけに有している瑞々しい感覚のようなものもありますが、色々な人に会って、事象に対峙して物事を書き続けるには、それを解釈するための引き出しとなる体験の積み重ねは必要です。
自分なりの解釈があるということは、個性が確立してきたともいえるのですが、一方で多様な解釈ができなくなっているともいえます。つくるものに納得感を持てないのは嫌なので、世界を旅して、実際に暮らして、自分の世界を広げてみようと思ったのです。
今井:泉さんは読書家だから、きっとボキャブラリーも豊富だし、いろんな人の意見を取り入れていて、すでに多様な解釈ができる気がするんだよね。
泉:たしか、それっぽい表現はできるかもしれません。
例えば、笑顔の人を見て、どんな笑顔だったか、その様子をそれなりに描写することはできるように思います。ただ、どんな感情でその笑顔が生まれているかは、的確には捉えられません。いつまでも「的確」というものはないのかもしれませんが、少なくとも自分なりに「理解しようと尽くした」という姿勢は保っていたいと思っています。
そのためには、もっと世界を知り、経験する必要があるはずです。自分が多様な「喜怒哀楽」を味わうことで、人々が抱く感情の機微をより正確に感じて、言葉にしたいです。
今井:自分の殻を破るではないけど、もっと世界を広げるために旅をするってことですね。
泉:でも、あくまでこの話は旅をするきっかけです。
具体的には、僕は旅の中で「現地の暮らし」を体感しながら、それぞれの幸福感を知りたいなと思っています。世界の暮らしと日常から、固有の幸福感と他の地域や日本との共通点を見つけていくことに、いまもっとも興味があります。そうした様々な土地、人々の日常の感情の起伏から、自分の引き出しを増やしてみたいなって。
世界の「幸福感」を掴む旅
今井:どうして「幸福」を旅のテーマにしたの?
泉:突き詰めると、僕が最も興味のあるテーマが幸福だからです。
TABI SHIROでもよく幸福について考えますが、究極的にいえば、人間は自分の幸福のために生きていると思うんですね。有り余る富を得ることが幸福な人もいれば、世の中に貢献することに幸福を感じる人もいるはずで、価値観はさまざま。でも、幸福を求めて生きるというのは変わらない気がしていて。
そこで気になるのが、幸福の構造です。
もちろん、幸福感は土地や人によってさまざまだと思うのですが、それを感じる構造には共通のものがあるのではないか。状況は違えども、幸福を感じやすい精神状態や家族、友人との関係、日常生活の送り方などには共通点があると面白いなと思います。
それがわかれば、ある程度は「幸福を感じやすい状況」をつくり出せるかもしれない。僕は幸福に生きたい人間ですし、みんな幸福に生きられたほうがいいと信じているので、そのヒントが見つかるといいなって。
今井:前回は「現代を心地よく生きていくのに必要な情報」を伝えるメディアをつくりたいと言っていたけど、その情報が幸福ってこと?
泉:つくりたいメディアの拠り所になるのは、幸福だと思います。
そのために、どんな提案をするか。自分なりに幸福を解釈した上で、それに関連するような具体的な情報を、日常生活のノウハウやニュースの伝え方などを工夫して落とし込んでいく。例えば、生活の中に、自分で何かを「つくる」ことを取り入れるのは、幸福に近づくひとつのヒントかもしれません。であれば、料理や裁縫など具体的な情報を掲載するのが良いかもしれない。もちろんメディア上で「幸福のために」などとは言いませんが、それを提案する背後に、つくり手の確かな信念を持っていたいと思います。
今井:そのために、ただ旅するのではじゃなくて、現地で生活をするってことか。
泉:生活に触れないと分からないと思うのです。
外から見ると経済が停滞している国も、現地の人たちはすごく幸福かもしれません。マクロ的な経済と庶民の生活、幸福感に関連はないかもしれない。一方で、経済的な停滞が国民生活を直撃するケースもあり得る。単にイメージで語るのではなく、実際に現場を見て感覚を掴まないと、一般論でものをつくることになってしまいます。世界のさまざまな国の人々の生活から幸福観を知り、それを日本に持ち帰る。それこそが、旅のテーマであり一番の目的です。
準備しすぎると、つまらない
今井:旅の計画や準備は順調に進んでる?
泉:まずは来年の1月にケニアに行く予定です。
ケニアだけは旅の趣旨がちょっとだけ違って、ケニア人ランナーについて取材する予定です。駅伝を見たことがある人はご存知だと思いますが、大学や高校などの強豪校にはケニア人留学生が在学しているケースがよくあります。どうやって有望なランナーを探しているのか気になっていたのですが、調べてみると深く、とても面白い事実がたくさんあります。
ケニアで取材をした後は、アルゼンチンから旅を始める予定です。
計画は立てていますが、どのくらい準備をするかは迷っています。準備しすぎると、おもしろくない旅になる気がしていて。今井さんの言葉を借りると、「無計画な行動へのギフト」がなくなるはもったいないなって。幸福観を探る旅に出るのに、今のうちから想像できるものを頼りにすると、頭の中が制限されますよね。TABI SHIROで最も出てくるワードですが、可能な限り「現地現物」にしたくて。
今井:行く場所や会う人を決めちゃうと、それが目的になっちゃうよね。「何かを掴んで帰ってくる」という旅の醍醐味がなくなると、たしかにつまらなくなると思います。
泉:材料なしで取材に望む不安はありますが、本当に何も決まっていないほうが旅の純度が上がって、きっとおもしろくなると思っています。
今井:「だからこそ見える景色」が、きっとあるよ。
アポなしで現地に立つことで、旅で一番見つけたかったことに気づけるかもしれないしね。
泉:どれだけその土地の感覚に浸れるかが、旅のポイントになると思っています。衛生状態が悪くても、ちゃんと現地式で食事をとるとか、トイレをするとか、そうやって体験しないと、現地の感覚に近づけないと思うので。
今井:私も発展途上国を旅したときは、虫がついているご飯も食べたし、雨水が入っている飲み物も飲みました。「ここがトイレだよ」と言われたらそこで用を足すし、「ここで寝てね」と言われたら寝る。そうじゃないと、分からないことだらけだよね。
視聴者と出会う旅にしたい
今井:話を聞いているうちに、数日は合流したくなってきちゃった。南米の国に興味があって、ペルーとかに行ってみたいかも。
泉:日本から遠いですし、数日の旅だと、満喫するには時間が足りない気もします。
今井:満喫とはいかないかもしれないけど、せっかくだから、泉さんと一緒の景色を見てみたいな。
泉:もしかすると、「TABI SHIROの第50回は、ブエノスアイレスからお届けします」なんてことがあるかもしれないですね。
今井:それもおもしろいね。
泉:そういえば、TABI SHIROの視聴者の方から、ご連絡をいただきました。ベトナムに住まれている方で、「現地に来たらぜひご一緒しましょう」と。
今井:そういう出会いが増えていくのも、旅の醍醐味だよね。出会わなかったはずの人が、友だちになったりするわけだからさ。
泉:シンプルに友だちが増えていく旅はいいですよね。今からすごく楽しみです。
今井:韓国やアルゼンチンにも行くそうなので、現地に住まれている方は、ぜひ泉さんに連絡してあげてください!
泉:今回も、皆さんの貴重な時間を頂戴して、僕の旅について触れていただきありがとうございました。旅の情報はリアルタイム発信する予定なので、ぜひ楽しみにしていてください。
(編集サポート:小原光史、バナーデザイン:3KG 佐々木信)