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SHIRO流、「社会を良くする」仲間の集め方


「僕は会いたくありません」

人生は素敵な出会いの連続で彩られます。

専業主婦になるはずだった短大生の私は、就職活動の合同説明会で偶然、足を運んだブースでの出会いがきっかけで、SHIROの前身であるLAURELに入社しました。

社長になってからは、信頼できるスタッフたちと出会うことができ、さまざまな業務を任せられるようになりました。今は、自分が得意とするブランドプロデューサーに専念できています。

プロデューサーになってからは、社会課題の解決に本気で取り組む方々との出会いに恵まれました。出会いが重なったことで、今は一部店頭などで衣類を集め、回収した服でお店づくりに試行錯誤している真っ只中です。

私は、心から会いたいと思った人には必ず会うと決めています。出会いを逃すことは、その先にあったはずの選択肢を失うことと同義ですから。

今日は、私がどうしても会いたかった、苗目の代表・井上隆太郎さんのお話です。

苗目さんは、ハーブやエディブルフラワーを生産する千葉県鴨川市の農園です。インターネットでたまたま見つけると、第6感がビビッと反応し、「どうしても会いたい!」とすぐに連絡をしました。

ありがたいことに、SHIROを知ってくださる方は年々増えていて、今では自己紹介をすればお会いしていただける機会も増えました。

「きっと会ってくれるだろう」。今思うと失礼ですが、井上さんにそんな気持ちでアプローチしてみました。

すると「僕は会いたくありません」とのお返事。会いたくないと言われると、ますますお会いしたくなります。往生際が悪い私の心に火がついてしまい、「絶対に後悔させません」と再交渉。

難攻不落と思われましたが、井上さんのパートナーである裕美さんがSHIROを愛用していただいていたこともあり、なんとかお会いする機会をいただくことができました。

「自然の力」を信じてみる

苗目さんを訪れたのは、蒸し暑さが顔をのぞかせる5月の終わり。

アクアラインで東京湾を飛び越え、山道を走らせると、南国にワープしたかのような自然が広がっていました。目的地の鴨川に到着です。

車を降りると、井上さんは挨拶もそこそこに、栽培しているハーブを味見させてくれました。

マロウ、カモミール、レモンバーベナ…。正直、驚きました。口にしたことがないわけではないのに、初めて食べたように感じるほどの印象的な味と香りだったからです。

「話をするより食べてみなよ」というのは、職人としての矜持だったのかもしれません。

どんな農薬をつかっているのですか?
特別な栽培方法を実践しているのですか?

これまで口にしたことがないほど濃く深い味わいと、全身を突き抜けるような香りに圧倒されて、矢継ぎ早に質問をしてしまいました。

きっと、面倒なやつだと思われたはずです。「だから会いたくないと言ったのに」と呆れられたかもしれません。でも、ご丁寧に実践されている栽培方法を快く教えてくれました。

井上さんの答えは「何もやっていない」。苗目さんでは、無農薬・無化学肥料で、極力自然のままハーブや花を育てています。ビニールハウスの中に畑はありますが、機械による温度や湿度の調整もしていません。

うまく育たないハーブがあったとしても、繰り返し同じ場所で同じ品種を育て続けていれば、自然とたくましく枝葉を広げるようになるといいます。

そうはいっても、本当は何か特別なテクニックがあるような気もしたので、生えていた雑草を指差して「そのままでいいのですか?」と素人ながらに聞いてみましたが、こんな答えが返ってきました。

「雑草が栄養を奪うってよく言いますが、自然の森を想像してみてください。さまざまな植物が一緒に生えているじゃないですか。栄養を奪い合うなら森なんて存在しないですよ」

その答えを聞いて、私の直感は間違っていなかったと確信しました。

極力人間の手をくわえず、自然が本来持っているパワーを引き出そうとする彼の姿勢は、SHIROが大切にしている考え方そのものだったからです。

SHIROは、捨てられる素材を恵みに変えるブランドです。かけがえのない自然の力を享受し、その恵みを余すことなく大切に使うことを大切にしてきました。

井上さんと私たちの共通点は「自然という生態系への信頼」です。

市販されている多くのコスメティック製品は、説明欄にカタカナの成分名がたくさん書いてあります。それだけ、人工的な手が加わっているということです。肌への有効成分を素材から抽出して製品をつくるのは一般的ですし、人工的な製品をつくることを否定しているわけではありません。

ただ、成分を抽出するには人間の肌にあわない溶剤を使う必要が生じるので、「わざわざ有効成分を抽出せずに、天然由来の素材をそのまま使ってしまう方が良いはず」というのが私たちの考え方。

苗目さんの考えも一緒で、自然というたくましい生態系の可能性を信じているのです。

井上さんの「そもそも、どうして除草剤を撒いて雑草をなくす必要があるの?」という発言は、自然が本来持つパワーを自分の目で観察しているからこそ出るもの。

ハーブやエディブルフラワーを口にしながら井上さんの話を直接聞いていると、同じ考えを持つ同志として、豊かな地球をつくっていくための取り組みにチャレンジしていきたいと思うようになりました。

社会を良くすること以外、やらない

素敵な素材に出会ったとき、いつもの私なら、すぐにものづくりがしたくなります。がごめ昆布やラワンぶきで化粧水をつくったのも、直感と好奇心が私の背中をぐいぐいと押したからでした。

でも、苗目さんとの関係は少し違いました。考え方や実践している活動に限りなく近いものを感じたので、まずは井上さんのことをもっと知ろうと思ったのです。

それからというもの、なんだかんだと理由をつけて、苗目さんにお邪魔しました。SHIROから定期的に発行している自社メディア『SHIRO PAPER』にも登場してもらいました。

とにかく苗目のことを皆さんに知ってもらいたかったし、私自身、もっと苗目さんのことを知りたかったからです。

そんな関係性を続けて1年。ようやく、私たちが手を取るべきアクションにたどり着きました。答えはやはり、製品の開発ではなく、社会課題の解決でした。

2024年4月から、苗目さんは「SOIL to SOUL FARM」というプロジェクトを始動しています。耕作放棄地を公園兼農園にすることで、子どもたちの憩いの場をつくりながら、自然の景観や景色を守ることを目的とするものです。

収穫した農作物を飲食店に提供することで、子どもに社会的な価値をつくる成功体験を届けたいという想いもあるのだそう。なんて素敵なプロジェクトでしょうか。

井上さんは、農園を無料開放すると決めていました。しかし、それを実現するにはお金がかかります。その方法を模索している姿を見て、私たちにも何かできることはないかと考え、SHIROとしてのアクションにたどり着きました。この場所で育ったハーブを、すべて購入すると約束させていただいたのです。

そのような決断をしたのは、「SOIL to SOUL FARM」は社会が絶対に良くなるプロジェクトだと確信できたから。

いくら「社会を良くする」と大きな目標を掲げても、自分たちでできることには限界があります。でも、生み出した利益を誰かに託すことでならば、もっともっと豊かな地球を後世に残していくことに貢献できる。

もちろん、ハーブは購入させていただくだけではありません。SHIRO CAFEで、オリジナルドリンクとして提供しています。購入させていただくと決めた時点でメニュー開発まで考えられていたわけではありませんが、価値ある循環をつくっていける確信があったので、迷いは一切ありませんでした。

「自分にうんざり」した過去

苗目さんとSHIROには、「自分たちにうんざりした過去」という共通点があります。私たちの過去については、これまでのnoteでお伝えしてきた通り、かつて手がけたビジネスに疑問を持ち、SHIROを始めることになりました。

井上さんも同様に、自分の過去にうんざりした経験をお持ちでした。イベントフラワーアーティストとして活動されていた頃、せっかく育てられた花たちが、たった1日のパーティーを装飾するために摘まれ、すぐ捨てられてしまう事実に嫌気が差したといいます。

その反動もあって、里山を再生し、動植物の多様性を復活させて、豊かな自然を守る農園をつくられた。私たちの現在の価値観が似ているのは、似たような過去を持っているからなのかもしれません。

苗目さんとSHIROは今、身近に潜む社会課題をどんどん掘り起こしている最中です。掘れば掘るほど課題が出てくるので、衣類のリユースや廃棄物ゼロを目指す取り組みなど、プロジェクトの数はどんどん増えていきます。

プロジェクトが増えていくのに応じて、旅する機会も増えました。国内を旅しても解決策に出会えないことが多いので、最近は、ヒントを求めて海外にも訪れています。

実際、イタリアやフィンランドで見つけたアイデアが課題解決に生かされていますし、これからも国内と海外を飛び回る予定です。

願わくば、旅をする過程で、井上さんのような同志に出会えたら。想いの輪が広がることで、耕していける未来の数が、ぐんと増えていくと嬉しいです。

(編集サポート:泉秀一、小原光史、バナーデザイン:3KG 佐々木信)

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