アクアリウム
胸を張って凛として歩けば大抵の人は振り返る。高い宝石を身につけて、高級なカバンを振って歩けばね。
髪もきれいでしょ?指だって細長いし、目だってぱっちりしてる。「あなたを見つめるためにあるの」のなんて社交辞令は言い飽きたくらいに
歩道橋から飛び降りそうな人。そのまま背中を押してしまいたい。困るのは下を通った車の運転手くらい。
昔ならそっち側の人間だったかもね。
飛び降りたって何もない。転がる体をみて皆笑うはず。
冷たさに媚びたんじゃないから笑ってくれてありがたいけど。そっち側にはもう行かないと思ってこうなった。
だけどどうして?
息を吐いても出るのは気泡ばかり。まるで水中で呼吸してるみたいに。辛うじて上がっても何かがまた水中に引き戻すの。
周りはキラキラしているはず。皆こっちをみてるもの。だって、こっちをみて言葉を発しているもの。
でも水中じゃ皆なんて言ってるか分からない。周りはキラキラしているもの、きっと「綺麗」って言ってくれてるに違いない
もう転がって笑われるのは嫌。
でも水中では聞こえない。まるでアクアリウムの熱帯魚。
何を言っているか分からないまま時折浮かぶ気泡と一緒に泳ぎ続けないといけないの?なんでこんなに分厚いガラスに囲まれているの?
望んでこの水槽に入った訳じゃないのに何でまた皆こっちをみて冷たくするの?笑うの?
苦しそうに泳ぐ姿がそんなに滑稽?でも周りはキラキラしているのよ?それでもダメなの?昔とは違う。裸足で転がって雨にうたれてる昔とは違う。
なのに何で何で何で
いっそ誰か水槽を床に倒して。割れるガラスなんて怖くないここから出て息苦しさから解放されたいの。そしてまた凛として歩きだすの。
このままじゃダメ。もう限界。目の前が白くなってくる、しろくなってくる
あの時歩道橋から落ちていればこうはならなかったのかな?何で誰も背中を押してくれなかったの?何で何で
泡が気泡が増えてきた。次の一息でさよなら、分かるさよならが
さよならして水面に力無く浮かぶからそしたらまた冷たい目で笑ってよね。
さよなら
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