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地域の絆によって集団リンチが起こる。かも。という世界の話

絆、ってなんだかいいですよね。

いきなりゆるふわな書き出しをしてしまった。けれども絆というのは大切だなと思う。過去を振り返っても「これが絆か!!!!」と心酔するような体験自体はとても少ないが、自分の人生において大事な場面ではやっぱり他人とのつながりが欠かせなかったような気がする。

地域社会においても、つながりはある程度あってもいいと思う。「全員他人、だから気楽さ東京は」という気持ちもすごくわかる。けど小学生の頃、実家の隣の家で何回かトイレを借りたり、そこに住むおじいちゃんからメダカをプレゼントしてもらったりした経験を振り返ると、ちょうどよい距離感のお隣さんも素敵だなと思う。

地域社会の絆はいろんな場面で話題になっている。子育てにおける連携、騒音問題、田舎への移住者に対する地域の反応、PTA問題。ポジティブなものもネガティブなものもあるけど、基本的に「いい感じのつながりって大切じゃない?」というのがざっくりした意見だ。

そんな中、なんと地域の連帯感が強い地域は集団リンチが起こりやすいみたいだゾという論文を見つけてしまった。

地域の絆が……?集団リンチ……??どういうことだろう。


関係ないけどサラリーマンがこんな喧嘩することってあるんだろうか

研究の対象は「トルコ」

ちなみに研究の対象として選ばれたのは、メキシコ。日本ではない(ちょっとホッとした)。

日本において、集団リンチはあまり馴染みがない。僕は「ヤンキーが空き地でやるやつ」みたいな雑なイメージを持っている。

でもメキシコの場合、集団リンチはもっと一般的。その背景には「自分たちの身は自分たちで守ろう」精神がある、と著者は述べている。

メキシコの一部地域、特に中央部と南部においては、犯罪者を裁く司法制度が長い間あまり機能していなかった。そのため、悪いことをした人への制裁として、集団リンチが社会的にも容認されてきた。

つまり「日本における110番=メキシコの集団リンチ」みたいな側面があるとのこと。日本における集団リンチとは少し違う気がするものの、「SNSで特定の人物を叩きまくる心理」とどこか似ている部分もありそうだな〜と感じた。

リンチと「社会的つながり」の関連

とはいえSNSとは違い、メキシコの集団リンチは物理的にボコボコにする行為である。もし僕がその場にいたとしても、リンチに参加するのはハードルが高すぎる

大抵、傍観しているのがいちばん楽だ。著者もそのように考えたうえで、じゃあなんでそんなにみんな集団リンチに参加したがるのか?と疑問に感じたらしい。

テロリストのような武装組織の場合、

  • 参加することによる物質的報酬

  • 参加しない場合の見返り

  • イデオロギーやアイデンティティへの訴えかけ

によってそのようなハードルをぶっ壊している。でも集団リンチにはそんなものはない。みんな自分の意志で参加しているように見える。

そこで、著者は「地域の絆」に目をつけた。地域の結束が強いほど、リンチが加速するのでは?という仮説を立てたそう。

中でも「連帯感」と「仲間からの圧力」が鍵だと述べている。

連帯感……同じコミュニティのメンバーを互いに結びつける一体感。繰り返し接触し、相互依存度が高い、結びつきの強いコミュニティにおいて、より強くなる。集団リンチで犯罪者をボコボコにすることで地域のみんなを守るんや!という動機が発生すると考えられている。

仲間からの圧力……「仲間だったらやるよな?」みたいな圧力。集団リンチに参加しなかったら「あれ?お前仲間じゃないのか?」と孤立してしまうかもしれない。そのような圧力によって協調的な行動がさらに増加する。

上記の仮説を検証するために、著者はメキシコで調査を開始。まずはメキシコシティに住む人に対し、同じ地域に住む人の名前をどれだけ知っているかを調査し、地域とのつながりの強さを測定。

その後メキシコシティだけでなく、メキシコ全土でも同様の調査を行った。そしてメディアで報道されたリンチ事件の発生場所&発生率をまとめる。これで「地域とのつながりが強い場所」で「リンチがどれぐらい発生しやすいか」を可視化したみたい。

その結果、地域とのつながりが強い地域ではリンチ事件が比較的多く発生していたそう。様々な規模で調査を行ったが、どれも結果は一貫していたみたい。ほげえ〜〜〜。

司法が強ければこうはならなかった??

とはいえ、地域のつながりの強さと集団リンチの関係は、メキシコのさまざまな事情が絡んでいる可能性が高い。

先述したように、メキシコにおいては司法が弱い期間が長かった。2022年においても、殺人事件の95.7%が未解決のまま。さらに犯罪全体の約93%が報告されていない。そもそも、警察や司法システムを国民が信用していない

なので日本においても地域とのつながりが強ければ集団リンチが起こるのかと言われると、それはまた話が違うだろう。実際、「悪い人をきちんと懲らしめるシステム」が国によって作られていれば、集団リンチするよりも警察に突き出したほうが早い。きっと犯罪報告数もぐんと上がるだろう。

ただ、これはあくまで僕が感じたことだが、「地域と集団リンチ」だけでなく他の場面でも似たような場面はありそうな気がする。いじめ、移住者問題、戦争。いろいろな場面で「人間の社会性」が裏目に出ている事例が見つかりそう。

メキシコの場合は「司法の改善」が必要かもしれないと著者は述べている。では他の場面ではどうだろう?絶対的な正解は無いし、なんなら神様だって世界中で何人いるかわからない。


……人間は複雑ですねえ。ぱっとしない結論になってしまったけれど、そんな感じの話でした。

<<注記>>
※リンチ事件データがニュース報道に基づいているため、報道バイアスが結果に大きな影響を与えている可能性も高い。また、コミュニティのつながりを測る指標が間接的であり、実際のつながりを正確に反映しているか疑問。
※メキシコという特定の文脈に限定された話であるため、他の国や文化、シチュエーションに一般化するのは難しい
※コミュニティのつながりがもたらす多くの肯定的な側面も忘れてはいけない
※あくまで相関関係であり、地域のつながりが強いから集団リンチにつながるという因果関係を特定したわけではない。別の大きな要因がまだ隠れている可能性もある。

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