知床ガイドの落語・・・子は鎹
酒癖が悪く女に入れあげた挙句、女房と大喧嘩をしてしまったガイドの熊五郎。
愛想を尽かせた女房のおみつは息子の亀吉を連れて家を出て行ってしまいます。
それから三年の月日が流れ、女とも別れてしまった熊五郎は心を入れ替えてガイドの仕事に精を出しました。元々腕のいいガイドだったため、仕事は順調そのもの。となると出て行ったおみつと亀吉のことが気になってしかたがないのですが、自分の蒔いた種なのでどうすることもできません。
ある日、付き合いのある仲間の依頼で網走で仕事をすることに。その仕事帰り、偶然にも亀吉との再会を果たします。大きくなった亀吉にこの三年のことを熊五郎は色々と尋ねました。
熊五郎:今、おっかさんは何してるんだ?体を悪くしたりしてねぇか?
亀吉:おっかさんは第一旅館っていう大きな宿屋さんでお掃除の仕事と、熊の家さんていうめし屋さんで飯炊きのお仕事やってるよ。夜は遅くまで針仕事をやってるよ。おいらも手伝っているんだよ。
熊:苦労かけてすまねぇなぁ。おっかさんはおとっつぁんのことを悪く言ってるだろう?
亀:そんなことないよ。おとっつぁんが悪いんじゃない。悪いのはお酒だって言ってるよ。お酒にそそのかされただけなんだって。
酒におぼれ大事な家族を失ったことを後悔している熊五郎。
熊:そうだ、いくら丼が好きだったな。食べてえか。
亀:うん、食べてぇ。
熊:そうか、じゃあ、明日の昼にまたここで待ち合わせだ。それからお前に小遣いをやる。その代わり、おとっつぁんと会ったことと小遣いのことは内緒だぞ。
と元気に走って行く亀吉を後ろから見送りました。
ところが亀吉は家に帰ると熊五郎から貰った小遣いをおみつに見つけられてしまいます。
おみつ:おまえ、このお金どうしたんだい!
亀:貰ったんだい。
み:誰にだい。
亀:・・・知らない人だよ。
み:知らない人がこんな大金をくださるわけないだろ!お前盗んできたんだね。人様のお金を盗むなんて情けない。正直にお言い!ここにあるのはね、おとっつぁんと別れるときにお前が掴んできたリュックだよ。正直に言わないと、このリュックに石を詰めて背負わせて立たせるよ!これはおとっつぁんがおまえをせっかんするのと同じだよ!
亀:盗んだんじゃない!盗んだんじゃない!おとっつぁんから貰ったんだ。
泣きながら昼間に熊五郎に会ったこと、おみつのことを心配していること、明日いくら丼を食べる約束をしたことを亀吉は打ち明けました。
翌日、おみつは亀吉に晴れ着を着せて送り出しますが、心配で心配で海鮮丼屋の入り口までついてきてしまいます。亀吉がそのことを熊五郎に言うと、
熊:今まで苦労を掛けて本当にすまねぇ。それからこの子をこれまで立派に育ててくれてありがとう。こっちから言えた義理じゃねぇが、また昔三人で一緒に暮らしちゃもらえねぇか。
み:お前さん、それはこっちからお願いすることだよ。亀ちゃん良かったね。また昔みたいに三人で暮らせるよ。
こうして元通りやり直せるのはこの子のおかげ。私も肩の荷が下りるよ。
亀:え?そりゃぁ、おかしいなぁ。だってリュックを背負わされそうになったのはおいらだよ。