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『ショートショート』さよなら、逢いたい菜

野菜売り場には、早くもあれが並ぶ。
春はまだ先だというのに、一体どうなっているのやら。

20xx年に、注目を浴びだした、
『逢いたい菜』は、野生では春の菜だ。

しかし、ブームに乗り、これは稼げると、
農家さんが手を出したのだろう。

今まで、なぜ人が、食べなかったかというと、
これを主食にする、珍しい蝶がいたからだ。

逢いたい菜が芽吹きはじめると、
その蝶が群がり、食いつくす。

人間様の分など、残っていない。

しかし、この珍しい蝶は、だんだんと個体が減り、
ついに絶滅してしまった。

それでやっと、人間が食べられるようになった。
今では、栽培にも成功している。


逢いたい菜は、寂しかった。
今までのように、蝶は来ない。
静かな山の、豊かな土で、そっと生きていたかった。

ビニール袋につめられ、スーパーに並ぶ日々。
勝手についた値段。
しかも、たまに値引きシールを貼られたりする。
最悪だ。

ここでは、絶対に蝶は来てくれないだろう。
せめて山に帰りたい。

20yz年。
逢いたい菜は、どの株も花を咲かせなかった。
日本中でだ。
種が採れないので、次の栽培が出来ない。
市場から突然、姿を消した。

逢いたい菜には、もうあえない。





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白雪『君の心の話し相手』
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