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辰 国立劇場 初春歌舞伎 2

『葛の葉子別れ』『勢獅子』 <白梅の芝居見物記>

 芦屋道満大内鑑 葛の葉子別れ

 いい芝居だな、と改めて思わせていただける舞台でした。
 間口の広さが、大芝居としての格や大きさなどを要求する必要がなく、この芝居の本来の面白さに目を向けさせていただけたからかもしれません。
 作品世界を身近に感じながら見物出来たことが、より深くその世界に入っていくことの出来る要因だったのかもしれません。

 中村梅枝丈の若さと美しさ、そしてケレンを生かした演出が、丁度よく効果を発揮する芝居空間であったことが、この芝居の面白さを再認識する上で、大きい要因になっていたように思われます。

 作者は人形浄瑠璃の芝居小屋である、竹本座の座元、初代竹田出雲。
 ”竹”は、日本(大和)を表すトーテムです。
 人形浄瑠璃は、”語り”と”傀儡(くぐつ)”という、どちらも古来からの伝承の影響を色濃くもった芸能をあわせ、そこに当時としては最先端の楽器である三味線を加えて発展した芸能であり、演劇です。
 さらに、素朴な大衆芸能が、近世において、さらに歴史的知見を深めながら文学としても発展していきます。

 古風なつくりの芝居に感じられるのは、中世の巷間に流布していた庶民の芸能の色合いを引継いでいるからでしょう。
 ただ、改めてこの作品を読むと、上演数を重ねてきた作品だけあって、古典作品としての奥深さが、上演されていない部分も含め、作品そのものにあることに気づかされます。
 時代時代の世相を越えて見直され、解釈され得るテーマを有している作品であることは、間違いないようです。

 ここでは、作品論に踏み込むことはひかえますが‥。
 国立劇場の強みとして、全段の通し上演が試みられるべき作品のように思われます。
 もしそれが叶わなくとも、保名、葛の葉姫が登場する道行きまでの上演は、試みられるべきもののように思います(早変わりでは無理があるかもしれませんが‥)
 そうすることにより、親子の情だけに拘泥しない、葛の葉狐に託された、”狐”の真の<人物像>が出てくるように思います。”道行き”の詞章の中に、作者の深い歴史意識が反映されていると思うからです。

 梅枝丈の葛の葉狐は、渡辺保氏がおっしゃっておられるように、所謂、この作に一般的に求められるような、恩愛の情というのが前面に出てくるような芝居にはなってはいないように、私にも思われました。

 梅枝丈の芸質、または女性に対しての捉え方と言えるかもしれませんが、いわゆる女性としてのかわいらしさとか、恩愛の情とかには、あまり今までは興味がなかったのではないか、と勝手に推測などしています。
 まだお若いですし、それが一概に悪いことだとは決して言えない、とも思っています。
 言い悪いの問題ではなく、その芸質が、一つの梅枝丈なりの女方を作り上げていく上での方向性をさし示しているようにも思われます。

 様々な役柄に挑戦していきながら経験を重ねていくことにより、情に厚く、または女形としての見た目の美しさや華やかさだけに終わらない女方に成長されていくのではないか。かえってその芸質が、かわいらしさや美しさだけにとどまらない女方として成長される可能性につながるのではないか、と私には思えます。
 芯が通り肚の座った立女方としての強さや重厚性が加わっていく、そうした可能性のある芸質を梅枝丈は持っていらっしゃるのではないか、と私には思われます。

 もし立女方として大成することを志すのであれば、あまり今時の女性が求めるような、納得するような女性像を追い求めるのではなく、一歩一歩、焦らず芸の研鑽を積んでいかれることが、肝要のように思われます。

 勢獅子門出初台

 歌舞伎の芝居小屋に向いているとはいえない新国立劇場中劇場での芝居見物も、この一幕によって、誠に正月らしく、福々しい気持ちで、芝居見物ができたと充足感を得ながら劇場を後にすることが出来ました。

  やはりなんと言っても、尾上菊五郎丈の大きく華があるいなせな鳶頭。
 若い者の踊りに楽しそうに目をやるお姿に、見ている私たちも幸せいっぱいの気分になれました。
 その前で、お小さい4人のお子様がたが、一生懸命「かっこよく」踊ってみせるのは微笑ましい限りです。

 中村時蔵丈の芸者も大きく艶があり安定感抜群で大舞台の風格。
 菊之助丈も安定した踊りですが、今回印象に残ったのは、坂東彦三郎丈の踊りがとても大きく味わい深くなったところです。
 また、市村萬次郎丈の芸者も、素晴らしく、歌舞伎役者の芸の年輪は絶対嘘をつかないという、魅力的な踊りを見せていただきました。

 菊五郎劇団らしく、粒ぞろいの役者が賑々しく揃った祭りの風景は、ホームグランドを離れても、それを感じさせない、目出度い舞台となっていたことが、見物としても大変うれしく思われました。
                       2024.1.26


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