事業も会社もなくなる「後悔」から逃げないために。私がデザインスクールを立ち上げた理由と、今できること。
「みんな、話があるから集まって」
パソコンの前で、キーボードを打つ手がふと手が止まる。オフィスフロアに鳴り響くやけに落ち着いた同僚の声を聞いて、ゾクっとした感覚が胸を掠める。でも頭はやけに落ち着いていて、同時に心はものすごいざわめきで埋め尽くされる。そして私の想像と期待を裏切らない形で、その言葉がフロアに静かに響く。
「このサービスを、終了する判断に至りました。」
始まりと終わりの、その先を目指して
朝から晩まで身を粉にして、心を込めて作って作って作り続けたものがある日「終わり」を迎える。悔しさと虚しさと、もっと何か自分にもできたんじゃないかという後悔が沸き上がって、胸がいっぱいになる。フロアはなんだか鉛のような重さを纏っていて、身体は強張り、なんだかチームのみんなの顔も真っ直ぐに見れない。そんな息苦しい光景を、感覚を、幾度となく経験しているデザイナーは少なくないように思います。
新しいアイディアや仕組みを考え「社会が何か変わるのではないか」と思いながらサービスを届けることほど楽しいものは中々ないと思います。それはお客様の笑顔だったり、ありがとうの言葉だったり、チームメンバーの誇らしげな雰囲気だったりと様々ですが、それはどこか中毒性すらあるように思えるほどの魅惑があります。
私自身もデザインという畑に片足を突っ込んだときから、日増しにサービスやモノをチームで作り社会に届けるという魅力に取り憑かれています。どれほど社会が発達し技術が向上しても、やはり人の悩みや欲求は尽きることがありません。そんな無限に生まれくる課題や価値をさまざまな視点で切り込み、ビジネスに繋げながら社会を動かすサービスを見るたびに込み上げるような興奮が湧き出てきます。
でも実際は「ただただ静かに終わる」ことの方が圧倒的に多いのではないでしょうか。それを私自身が痛感したのは、自分の出向した子会社の資金が尽きてサービスを終了した時でした。
それまでの私は、ひどく無知で無頓着な人間でした。自分のサービスがどのような仕組みで運用され、新規顧客の獲得のためにいくらぐらいの広告費を捻出しているのか。今自分が座っている椅子やオフィスの地代がいくらで、そのお金がどこから湧いているのかも全くわからない状態で「今期の給料、バーンと上がんないかな〜!」とケラケラ笑いながら、安い居酒屋で炭酸の抜けたビールを腹に流し込んでいました。
でもサービスも会社も足元の何もかもがなくなると実感した時、腹の底からなんとも言えない後悔が襲ってきました。「私は、何をやったんだろうか」と。
ビジネスに正面から向き合う、デザインスクールを目指して。
この度、国内最大級のデザインカンファレンスとして実績を積んできた一般社団法人デザインシップから「Designship Do」というデザインスクールを提供することとなりました。元々カンファレンスの方でもブランドチームとして2018、2019年に関わらせていただいていましたが、代表理事の広野こと萌ちゃんの教育事業へのツイートを目にした時に「片棒を担がせてくれ」と半ば勢いで声をかけたのが最初のきっかけで、結果的にこの事業を担うこととなりました。
詳しい経緯はこちらのnoteで綴られているので、ぜひご覧ください。
これまでデザインを曲がりなりに続けてきて、幾度となくサービスの終わりとチームの解散を経験して気づくことがありました。
仮にデザインに全力で取り組んでも、サービスが終わってしまうことはあるということ。
当たり前だと思う方もいるかと思いますが、改めてデザイナーが日々触れるUIやUX、アイディアやビジュアルの外側には目に見えないたくさんの因子が存在します。市場と景気、融資と資金繰り、マーケティング、販管費や地代などの経費に加え、移ろいゆく組織。その中にいる人のスキルやモチベーション、育成、そして人件費。例を挙げればキリがありませんが、むしろデザイン以外の要素の方が圧倒的に多いといっても過言ではないほど、私たちが手を動かす目の前のモノ「以外」があって、初めてビジネスが成り立ってい る。
そしてビジネスが続くからこそ、デザインの力を発揮できる。
そんな当たり前のことに気づくのに、随分と時間がかかりました。そしてそれに気づいた時、私はどうにも悔しくて仕方ありませんでした。これまでどれだけPMやPO、組織の力になれただろうか、経営者の苦悩に寄り添えたことがあるだろうか。むしろ、自分がやってきたことは子供の駄々でしかなかったのではないか。
そんな生々しい悔しさともどかしさが、今回のデザインスクールを立ち上げる大きな原動力となりました。
ビジネスを前進させたいデザイナーの「葛藤」と「壁」を壊すために
「デザイナーだけど、ビジネスの周辺知識を学んだ方がいいのかもしれない。」
そう気づくデザイナーは、近年かなり増えてきているように思います。もちろん、グラフィックやパッケージ、言葉としての根源的な「美」を追求することはとても大切です。ブランドだけでなく様々なシーンでデザインの力が解決する課題は大いにありますし、間違いなく見た目や体験の美しさ、心地良さはものが溢れる現代において大きな競争力となっていることは間違いありません。
しかし、狭義のデザインだけではビジネスは成り立たない。
もしかするとこれはデザインだけでなく、様々な職種に通ずるもどかしさなのかもしれません。しかし、戸惑いながらも自分にできることを見つけ、小さな行動を起こしている人も多いと思います。
まず小難しい経営の本を読んでみたり、自社のサービスKPIを思い返して、徐にダッシュボードを開いて数字の羅列に頭を悩ませてみたり。まずは自分の環境でどうにかできること、変えられることをモヤモヤとしながらも手を付け始める人は多いのではないでしょうか。
でも、その殆どは孤独で手探りの時間です。
変わりたい、変わるべきなのはわかっている。でもリサーチやマーケティング、マネジメントやビジネスと一口に言っても一体どこから手を付けていけばいいのかさっぱり分からない。試しにちょっとかじってみても、そこからどうやって目の前のサービスや業務に落とし込んだり、専任チームへ踏み込んでいいのかわからない。新しいフレームワークやリサーチを実践しようと思っても、チームを目の前にすると「やろう」というそのひと声がどうしても出せない。
思い切ってビジネススクールやMBA、社会人向けの大学院に飛び込むことも頭をよぎるけれど、今の仕事は離れたくない。それに普段あまり接しないタイプの人達に囲まれて、ついていけるのか少し杞憂になる。ただただ途方に暮れて、必死に目の前の仕事を片付けていると気づいたらいつもの週末になっている。
そしてそんな葛藤と戦っている、第一線で懸命に活躍するデザイナーがたくさんいる。
加えて世間では「これからのビジネスにはデザインの力が必要だ」という流れが生まれ、一方の現場では「ビジネスに踏み込んでくる、事業の右腕を担うようなデザイナーが欲しい」という要望が痛いほど聞こえてきます。良いデザイナーはどこにいるのか問題は酒のつまみになるほどあちこちで話尽くされていて、需要に対して供給も育成も中々追いつかない現場は火を見るより明らかです。
そして何より、デザイナー自身がそこに飛び込みたいと思っている。
それでも、そこに立つための仕組みや知識体系が中々どうにも出来上がっていない。キャリアは進めようにも不透明で、ロールモデルもまだまだ少なく、1人で立ち向かうにはあまりに孤独でタフなスタンスが求められます。しかしそれではそれはあまりに心許ないし、組織や社会を加速させるには燃料不足のように感じられました。
じゃあ、作ろうじゃないか。
これ以上、サービスを終わらせたくないと願うデザイナーや開発者のために。暗闇を突き進む経営者や事業責任者の手を取るために。正しさと新しさと美しさを兼ね備えた、モノやコトを次の社会に届けるために。
そしてその道を志すデザイナーを勇気づけ、後押しし、共に社会を前に進めるために。
Designship Do開校に向けて
このような思想を経て、私たちはデザインスクール「Designship Do」を立ち上げることとなりました。また今回のカリキュラムは経済産業省が提唱する高度デザイン人材をの思想ベースにしつつも実際の現場の声を聞き、今この瞬間もデザイナー自身と事業、引いては組織が直面している課題に真っ向から向き合うために必要なコトを凝縮しました。そのためにも今回、強力な講師陣の「知見」と「経験」をお借りしながら試行錯誤を重ね、本当に自信を持ってご提供できるものとなりました。
今回、忙しい現場デザイナーがデザイン・ビジネス・リーダーシップを効率よく網羅的に学び、実践の機会を提供するべく完全オンラインと短期集中の仕組みをご用意しました。
各カリキュラムの見所はこちらのnoteもぜひチェックしてみてください。
実はリリース直前まで「デザインスクール」と謳うか、デザイナーのための「ビジネススクール」と謳うかを本当に悩みました。それほどデザインとビジネスが混ざり合い、線引きが難しく融合し始めている昨今ですが、私たちはどんどんこの境界を融かし合うような取り組みを続けて行きたいと思っています。そして今回提供する講義と実践の経験が、デザイナーが今現場で戦うための足掛かりとなる最初の「地図」と「武器」となれば幸いです。
記念すべき第一期の開校に伴い、悔しさともどかしさを共に乗り越え、事業や社会を前進させていくデザイナーの皆様のご応募をお待ちしています。
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2021年4月4日(日)23:59
エントリー〆切
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第一期エントリーはこちらから👇
https://do.design-ship.jp/
読んでいただいただけで十分なのですが、いただいたサポートでまた誰かのnoteをサポートしようと思います。 言葉にする楽しさ、気持ちよさがもっと広まりますように🙃