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スワンの日常【過去記事】あのオリエンタルホテル宿泊に成功!(中編w)


続きです。

「はいはいはいはーい」

何十年もここでおかみを呼んで、無視され続けてきた私だが、でっかい声の中国人らしき男性に呼ばれたおかみは、一発で難なく!はいはーいと出てきたのだ。

やられた。もうフロントでノックアウトである。って扉あいてた!そこ、あいてた!絶対聞こえてた!!w

 あの、泊まらせていただけますか2名です。

おかみはこぎれいな出立ちで、お化粧もばっちりしている。(顔白め。チークおかめ)宿泊したいという意思がわかるとニッコリと出迎えてくれた。
その後ろから白髪のおじいちゃんが。。。多分ご主人かと。十数年ぶりに見るはずだが変わっていない。時が歪んだ瞬間。不思議な感覚になる。

おかみが近づいてくる。そして、私たちの真正面に立ち、宿泊についての事前確認をされる。

「うち、きれいくないよ」

かまいません。

「お風呂もないよ。あるけど出ないの、お湯」

かまいません。

「テレビもないけど」

全く問題ありません。

終了。

では、とおかみにいざなわれて、はじめて念願の、これまで明かされてこなかったその内部へつづく階段をのぼる。どきどき。胸が高鳴る。

階段は奥行き20センチほど。時代を感じる。
でかい夫の足ははみでるどころか、体を横にしないと上がれない。技術が必要だ。

「気をつけてね、ときどきぬけるから」

注意も必要だ。


我々は3階に通された。通過した2階には、部屋が廊下両側でざっと4つはあっただろうが2つほど明かりがついていた。先客?誰か住んでいるのか?そういえばさきほどの中国人らしき男性は…。

暗闇の中なのでよく見えなかったけれど、ここはJAPANではない。空間も歪んだ。何やらぬいぐるみのようなものがあちこちにぎゅーぎゅーに置いてあった。

寒くて真っ暗な3階。他に宿泊客はいなそうだ。おかみが鍵を開ける。部屋のスイッチをおかみが入れると、白熱灯が「ヂっ、、、チッチチチ…」と時間をかけてやっと点灯した。歩くと木の床板がいちいちギシギシと鳴った。

部屋は冷蔵庫のように冷えきっており、吐く息が白かった。絶対バナナで釘が打てる。

「そのまま入って」

部屋へは西洋式に靴のまま、だ。

「今、お茶もってくるね。ほらおとうさんポット!」

ご主人がうしろからついてきていたのには、全く気づかなかったのでびくっとした。おかみの指示のもと、ポットを取りに、ゆっくり階段を降りてゆくご主人。

「お風呂あるんだけどお湯出ないから。1階にはあるけど、寒いし…入る?シャワー、いいよね、入らなくて。」

答えを待たずにおかみに風呂なしを決められた。はい、もう一日ぐらいどーってことないですはい、というしかない。

天井の蛍光灯。すごい音がする。

宿泊手帳をわたされ、住所などを書き込んだ。とても年季の入った手帳で、「船名」と書いてあった。きっとここもあの頃は船乗りさんたちのお宿だったのだろう。宿泊料は5,000円だった。一人でお泊まりになった同志のレポでは、一人3,500円ときいていたので、7,000円を用意していたが、意外な値段だった。現金で支払うと、鍵を渡された。

「あのね、帰りはドアんとこに鍵さしてって。てきとーに」

え、テキトー…あ、でもお声掛けは?

「しなくてイーヨ。てきとーに帰って」

テキトー…あ、これからごはん食べに出たいのですがフロントは何時までですか?

「2時、あやっぱり12時、じゃなくて11時、そんな遅くならないでしょ?」

23時までに帰ろうと決めた。

35ということはこの階に4部屋あるはずだ。
補強のセロテープがまぶしい。

ポットとお茶が運ばれてきた。かなり高齢ではないかと思われるご主人。この重いポットと、缶ジュース2本、割れ物が入ったおぼんをもって、あの奥行き20センチを上がってくるって、さすがの身体能力だ。

さて、オリエンタルホテルでいうところのウエルカムドリンクは、噂通り、乳酸菌飲料だった。

「うちね、おとうさんが好きなのよ。子どもみたいでしょう」

つまり、おとうさんのために買った乳酸菌飲料なのだ。ちゃんと2本くれた。ありがたいお裾分けウエルカムドリンクだ。そして、子どもみたいでしょうといったときの、おかみとご主人がラブラブカップルにみえたのだ。

ドアのすきまからギラリのぞく目。そんな噂とはうってかわって、おかみもおとうさんも、とっても気さくでやさしくて、ほっとしたのだ。次の話をするまでは。

ウエルカムドリンクです。

おかみは、だいぶ話好きらしく、座るところがあれば座り込んで話をする勢いだったし、私たちもウエルカムだったのだが、長い立ち話となった。(その理由はあとでわかる)

いつからこのホテルがあるのか。当時の中華街はどうだったか、馴染みのある港のヨーコ横浜ストーリーを聞き、ふんふんと頷いた。

おかみに、「中華街はだいぶ久しぶりなのですが、どこか飲茶食べ放題のおすすめのところありますか」と聞くと、おかみの形相が突然変わった。

「あーあーあーー食べ放題なんて行くモンじゃナイんだよ!!」

その理由はここには書けないが、とにかくおかみは腹から怒りだして止まらなくなったw ここすごく中華訛りになった。

わ、わかりました。では食べ放題はやめておきます。専門店探してみますね。そういって、取り急ぎソファーの上に荷物を置いて出ていこうとするとおかみが、

「あああ!そこ!立たないで!床ぬけるから!」

だから座らなかったのか!ちょっと笑い堪えるの限界に近づいてきた。

「あ、ちょっとまって寝巻きもってくるから」

あ、いいですよ~私たちこのままで・・・といったがおかみはもういなかった。

衝撃はつづく。
(2013年12月)

年季の入ったお盆。

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