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抜歯しました。

紆余曲折あり、亀裂の入った奥歯を抜歯することになってしまった。
抜歯をするなんて何年振りだろう。

抜歯に関してはひどい思い出がある。
まだ、ワンレンボディコン舘ひろしの頃、とある怪しい歯科で酷い目にあった。とにかく広告出版業界は激しく忙しい日々を送っており、ましてや毎晩のように踊り狂って飲み明かすという日頃の不摂生もたたってか、

歯痛が仕事中にどうしようもなくなって、たまたま会社の並びにあった歯科医院に情報もなく駆け込んだ。

痛みがひどいというのに、麻酔が効いてないうちから歯を砕いてぬかれて、痛すぎて気が遠くなりながら、診療台で空白の3時間の格闘。後でわかったが、歯茎は裂けたまま帰されて、ガーゼはすぐに血だらけとなり、その日は仕事もままならず、タクシーで帰宅。痛み止めも効かず血も止まらず、発熱嘔吐し救急病院へ。

私はかなり我慢強い方だったのだが、この日を境に歯科恐怖になり、痛みに対して妙に敏感になってしまった。

そんな話をすると、素敵クレバーな歯科医から笑気ガスをすすめられた。保険は効かないけど~ということだったがお願いをした。

笑気ガスって、笑う気って書くよな。なんかご陽気になるのかな。と期待しつつ、まずガスマスク的な鼻マスクをつけられた。例えば、先生に何か聞かれたことが、しごく面白おかしく聞こえる期待をしたが、どうもそういうわけではなかった。

ところが、4、5分おいて治療を始める前に、笑気ガスが効いているかの確認をされるのだが、まだ自覚はないと伝えると、「たとえば指先などがじんじんするような感覚はありませんか」と聞かれた言葉でスイッチオン。診察台に竹本孝之が降臨してしまった。

 ♪照れてじんじーん ♪照れてじんじーん 

脳内で鳴り止まない。まずい、面白い。やばい、笑ってしまう。

 ぶっ 

こらえきれず吹き出してしまった。これは笑気ガスのせいなのか、それとも私のいつものアレなのか。そこから、はいあけてください~といわれても、しばし笑いでまともに口を開けていられなくなってしまった。

 治療ができません。中断。落ち着いて再開。

そんなことをしていたので、麻酔が切れるのが早くて、♪切れてじんじーん ああもうやめてーえ!

麻酔を増量しますね、と言われるたびに、脳裏に増位山の歌う姿が思い起こされ、そこから増位山というあだ名をつけらていた当時のお客様が、酔っ払って「おれ、どひゃー」といいながら、階段おちして、絶対笑っちゃいけなくて、大丈夫ですかと同僚のMちゃんと必死に笑いをこらえて巨体を抱え上げたことを思い出してしまう。

増位山、おにぎり山、山本山、ああもうあかん!耐えろ、だめだ、頬がワナワナする。ニヤニヤじゃ終わらない。ぬふぶぶぶぶっ ぶっ

 治療が続けられません。中断。

申し訳ありません。いろいろ思い出しちゃって・・・と、この時、我が夫が「体のどこかを、どうにかコントロールしなくてはならない窮地のときは、とにかくお尻の穴をぎゅっと強く引き締めると大概のことはやってのけられる」と言っていたことを思い出した。

このエピソード自体もおかしくて、思い出したら絶対また吹き出すことになるので、とにかく尻の穴を引き締めろ!これ以上ないぐらい全身全霊で引き締めろ!ということだけに集中した。

引き締める、、、引き締める、、、これ以上ないぐらいお尻の穴をぎゅっと引き締める!すると、なんと革張りの診察台をズルっと滑ってしまって、固定されていた鼻マスクがずれて、鼻フック状態に。その状況にまた自分で笑ってしまう始末。

 もう、ほんとにずびません・・・

「大丈夫ですよ。落ち着いたらまた再開しましょう。」

私の息子といっても過言ではない、若く落ち着いたクレバー医師になだめられ、私は笑気マスクの鼻からさらに深呼吸して気を落ち着かせた。


いかん、笑気ガスのせいだ。すべてこやつのせいだ。落ち着け。ぼーっとしろ、ぼーっと。私はなるべく無になるように心掛けた。

私は無。空間に身を投げ出してみよう。私を銀河へ~私は今宇宙にいま~す

落ち着いたとみなされ治療が再開された。そして、ご迷惑をかけた末、やっとの事で私の歯が私から離れた。

「はい、きれいに抜けましたよ。」

抜いた歯をつまんで見せられた。まるで出産のようだった。

その後に、レントゲン写真で映し出されている、まだ私の中にあった歯。もうここにいなくなったんだ。今日までありがとう。悔しい時、つらい時、歯をくいしばってきたよね。ごめんね、割れるまでくいしばってしまって。あなたが全部それを一身に受け止めてくれていたんだね。ありがとうありがとう私の6歳臼歯。ずっとがんばってきたね。ごくろうさま。

笑いを堪えていたら、今度はなぜかじーんとしてしまい、感動の涙。なんだこれ、我ながら振れ幅がすごい!爆

「あ、痛かったですか!」

ノンノンと手で合図し、私は医師に深く感謝し、その歯を持ち帰りたいと申し出た。クレバー医師は、静かに快くその準備をしてくれた。


そんなわけで、スムーズではなかったにしろ、痛みを感じることなく、コントのように抜歯を行うことができた。笑気ガスと竹本孝之と増井さんのおかげである。先生にはごめんなさいだが。

抜いた歯はひび割れてはいるものの、標本のように立派で、夫にあげることにした。


クレバー先生に歯をくれというBBA。くれ歯~。
うん、まだ効いている。


家に戻り、笑気麻酔と検索すると”リラックス効果はあり脱力により笑ったような表情になるだけで、笑いをひき思い起こすようなものではない”と書いてあった。

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