【夜学のジャン・ヴァルジャン(4)】 教員生活2年目の4月当初、初任者としてこの学校に赴任してきた去年と同様の生活スタイルであった。 まだ薄暗く、街が眠っているころ家を出発して、6時30分に学校へ到着する。 部活動の朝練習の準備を始めるためだ。 朝練習の途中、登校する生徒たちの服装と頭髪をチェックするために校門へ移動し、8時20分になると職員室で朝会がある。 そのままHR → 午前の授業 →(義務教育なら給食指導)→ 午後の授業 → 放課後の部活動or会議 → 残業
【夜学のジャン・ヴァルジャン(3)】 『教職員の人事評価システム』の表向きの説明は、いわゆる一般企業と同じように、教職員の意欲や能力、実績を評価し給料に反映させることである。 都道府県によって段階は異なるが、「優秀・良好(標準)・努力が必要・かなりの努力が必要」、「A・B・C(標準)・D・E」など4〜5段階ほどである。 これだけを聞くとなんら違和感がないように思えるが、『教職員の人事評価システム』の真の狙いは、教育公務員全体の給料を下げることだ。 県にもよるが、決めら
【夜学のジャン・ヴァルジャン(2)】 〜2年前〜 「魔法がとけたか‥‥」 今日もお決まりのセリフを職員室で1人呟き、ため息をつく。 教頭直筆の「近隣住民に配慮、19時以降は電気最小限!」と書かれた大きなポスターに睨まれて、ひっそりと暗く沈んだ職員室であったが、その隣の大きな壁掛け時計だけは、大小2つの手を1番高く挙げ、気分上々なようだった。 「今日はもう疲れたな…」 帰り支度をした後、教員の働き方改革の調査のために東京都の真似をして設置された、形だけのタイムカード
【夜学のジャン・ヴァルジャン(1)】 遅咲きの桜が月明かりに照らされて映えている。 首都圏では、3月で見頃を終えてしまう桜も今年は特別寒かったためか、4月上旬の今日もまだ美しく咲き誇っている。 もうすっかり日も暮れて、巨大なベッドタウンであるこの街には、仕事や学校を終え、家路を急ぐ人々が忙しなく行き交う。 僕も、そんな普通の集団の1人になりたいと思っていた。 贅沢な願いじゃないはずだろう。 しかし、僕が今いるのは、誰もいないはずの夜の学校だ。 県からの予算はしれ
【prologue】 「学校は社会の縮図である」とはよくいったものだ。 あるアメリカの哲学者が著書の中に残したこの言葉に対し、教員となってしまった私には、その言葉の真意よりも、学校というものが良くも悪くもその国の「社会を写す小さな鏡」になっているという意味で、この言葉を捉え直す機会が増えた。 特に、僕がこの4月から赴任することになった、普通の学校とは異なる定時制高校という暗く小さな社会は、世の中から見向きもされないが、この国の社会が抱える巨大な問題を、時に極端であるも
人から聞いた話を膨らませて、自分なりにお話にするのが好きです。 自分のペースで、ゆったりお話を書いていきます。 お時間のある方は、ぜひ一度目を通してください。