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ホテル絵日記/The Sukhothai Bangkok

去年の8月に亡くなったホテル設計界の巨匠Kerry Hillが残した傑作の一つです。バンコクのビジネス街Sathon Road沿いにあります。隣のカチッとした高級サービスアパートも同じ設計者ですが対照的です。
Kerryさんが設計したホテルはほかに、チェンマイのThe Chedi(現Anantara Chiang Mai)や台湾のThe Lalu、インドやブータンのいくつかのAman Resort、それと最晩年のシゴトとしてニッポンの伊勢志摩と東京のAmanなどです。
直線的な壁の組み合わせで空間を閉じたり開いたりして連続させていくのが特徴です。って言ってもわからないと思いますが。ひとことで言えば平面図がウツクしい建築家です。
あとは素材の色と質感のコントラストとか、光の透かし方とか、水の動きとか反射とか、感覚でしかわからない部分で勝負した人でもあります。アタマよりカラダ。

このホテルは高層ビル街の中に埋もれるような低い建物の組み合わせでできています。建物自体は寄棟屋根の単純な形です。
建物で囲まれた庭が広過ぎず狭過ぎず、素材も壁面と開口のバランスも色も、すべてがキモチよく整っています。
これだけの一等地でこういう低密度で、料金が特別高いわけでもなく、どうして経営的に成り立っているのか分かりませんが、経済的な効率性だけでありとあらゆるものが決まるワケではないセカイが地上にはまだあるということです。おそらくたくさん。
東南アジアで今一番売れているホテルデザイナーはここでも何度か名前を出したBill Bensleyですが、あの無国籍系派手派手建築も非日常性だけを味わうなら悪くはないとしても、こういうオーソドックスでキモチのいい空間に身を置くと、やっぱりこっちのほうがいいなあと思います。

客室も凝っています。ドアのある側にベッドのアタマを持ってくるのはキワメテ異例ですが、小壁一つでそれもオッケーというワケで、まったく違和感なく納まっています。
それで何がしたかったのかと言えば、ドアからベッドまでの動線をわざと曲げて、文字通りロングアンドワインディングロードにしたかったのか、ベッドからバスルームへの移動を最短距離でスムーズにできるようにしたかったのか。
ホテルの客室デザインは結局はベッドとバスルームの関係性の構築に収斂するのです。
テレビの位置がベッドの中心から外れていて、こういうのは達人だから許されるんだろうなあとは思いますが、もはや自在の域に達していたのでしょう。それでいて何一つ破綻していないのはミゴトとしか言いようがありません、って興味のないヒトにはどうでもいいことでしょうけど。

窓際のカーテンがシングルで、その前に木でできた引き戸が付いています。
こういうのもなんというかタダじゃ済まさないぞっていうか、考えてみたらあのダラっとしたカーテンってどんな高い生地使っても何百年前から進歩のないモノだし、ニッポンのホテルで障子みたいなのはあるけれど、変な異国趣味を出さないでサラッとやりましたっていうところが、思わず唸るしかないですね。

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