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頼りない(最新)ベトナム映画紹介/『シクロ/ Cyclo』(1995)

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映画館はまだ閉まったままです。ベトナム人は上映中でもよく喋るので、再開は時期尚早ってことでしょう。電話にでて喋りもするから。
でもって前回に続きDVDでこれを観ました。
一時期、ベトナム映画のDVDを買い集めたことがあって、今、役に立っています。

Trần Anh Hùng/チャン・アィン・ユン監督のベネツィア映画祭金獅子賞受賞作。
すっごい重苦しい映画です。暴力流血変態満載。途中で、何がおもしろくてこんなの観てるんだろうと、自問自答したくなります。
ひとことで言えばゲイジュツ映画です。

舞台はホーチミン。昔のサイゴンです。
南は戦争に負けて、元首都の名前を勝った側の指導者の名前に変えさせられた。凄いことする。
今でも南の人はサイゴンって言葉を使います。サイゴンから来ました、みたいに。何か言いたいんだろうと。

Cycloは自転車を改造した人力タクシーで、ハノイでは今でも観光用として細々と営業が続いている乗り物ですが、それの運転手をやって生計を立てている若者=呼び名もCycloが、Cyclo会社の縄張り争いに巻き込まれて、その若者の姉の愛人と敵の隠れ家みたいなところに連れて行かれ、痛い目に合ったり、クスリでイっちゃったりして、最後は何事もなかったかのように元の生活に戻ったけれど、セカイの何かが変わってしまったのを感じる、みたいな話。

姉の愛人はかなりのイケ麺で、多くのイケ麺がそうであるように相当なダメ人間で、姉をカネ持ち変態オヤヂの遊び相手にすることでカネを取って生きている。ここじゃ書けないようなこと。
で変態が姉相手に遊んでいるのをバルコニーを伝って覗きに行って、思わず鼻血出す、みたいな。どうしようもない。

酷いシーンの連続。こんな目には絶対会いたくないとしか思わない。生活の一部に血とナイフ、みたいな。
それが合間合間に織り込まれる通りの風景や、古い建物のディテールや、雑然とした背景と強いコントラストを見せる姉と愛人の御美しいお顔によって、何か由緒ある儀式のように見えてくる。
宗教的な儀式って時々凄いグロテスクだから。

結末はよくわかりません。
そもそもストーリーというか、物語と呼ぶべきモノがハッキリあるわけじゃなく、人物の設定そのものがドラマで、あとはその人物が日常のできごとの中で動いていくという類の映画です。
いかにもな感動的ストーリーで最後は微かな希望を感じさせる、みたいなよくある映画とは違い、ワタシとしては嫌いじゃありません。

シャカイの醜い部分に光を当てた、みたいな見方もできますが、ほかのゲイジュツでもこういう傾向の作品は、醜いものこそウツクシイ、影こそ光、狂気こそ正気で、本当の醜悪な狂気は現実の中でシレっとした顔して普通に生きているってことを言いたいワケです。そういう歪みを浮かび上がらせている。
今のセカイ、実際そうだから。

主演のCycloはレ・ヴァン・ロック。純朴な表情の中にじわじわと狂気が滲み出てきて素敵。
姉が前回の『夏至』のも出てた監督夫人のチャン・ヌー・イェン・ケー。市場で天秤棒を担ぐ姿が美しい。
変態相手にキワどいことをする時のいやいや感に切迫感がある。本当にやらされてたとしたらスゴイ夫婦魂。
その愛人のダメなイケ麺は香港映画界のスター、トニー・レオン。ヤクザの詩人って本当にいそうな役。
同じくベネツィアで金獅子賞を獲った過激S●Xシーン満載の香港映画『ラスト・コーション』でも主演しています。
ニッポンに占領された上海で、若くてとにかく美人の工作員に騙されそうになる役人役で、そこまでやるかと、思わず叫びたくなるハゲシイ演技。今、どうしているでしょう。

蛇足ながら、変態オヤヂが見るからに変態なのはちょっと違うんじゃないかと思いました。

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