白木軽骨

シラキ ケイコツ この世にあって欲しい文章を書きます。 https://lit.link/karkarbone

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    一時創作小説置き場。

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    或る文士気取りの日々の記録。

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短編小説『繭糸と梔子』

 天国に咲く花と言われているそうですよ。  庭先に繁茂する梔子を一輪手折って匂いを嗅ぎながら彼女はそう言った。 「葬式の花とも言うそうで。嫁の口無し、ということで、貰い手が無くなるようで縁起が悪いらしいのです。けれど私の場合はどうなるのでしょう。あちらから来るのに、口無し、とは、これはむつかしいですわね」  そうして、ふふ、と笑う。私はせっかく綺麗な花だと愛でていたのにそんなことを言われてあまりよい心持ちではない。しゃがみ込んで、狂い咲きのように咲きまくる白い花どもの中に顔を

    • 短編小説『たとえば季節が廻ったら』

       会いませんか。  画面に現れたその言葉を見た瞬間、私は今までの人生(って言ってもたった十七年だけど)で一度も感じたことのない高まりを覚えた。椅子から立ち上がり部屋をぐるぐるしても落ち着かなくてベッドにダイブしごろごろと左右に転がる。それから仰向けになって天井を眺めながらぼんやり考えた。会いませんか、っていうのはつまり、会いませんか、私とどうですか、って……こと……だよな……。 「えええ……?」  ピコッ、という音がしたのでスマホを見ると、マッチングアプリ「ピタリカ」から通知

      • 短編小説『ギシギシ』

          冬の空気に混じるファストフードや牛丼の安い油の匂い。空き地に寝転んで泥が髪に服に染みていく気持ち悪さを感じていると段々なにも考えられなくなっていった。土に還るってこんな感じだろうかと少しだけ思った時、指が飛んできた。  比喩でも何でもなく人の、恐らく女性の、さらに恐らくは中指。 「あ、ゴメンそれ私の」  ヨロヨロと歩いてくる女性は血を滴らせていた。左手を押さえながら震えている。 「ごめんなさい、ごめんなさいね」  そそくさと拾って立ち去ろうとする様はさも忘れ物を取りに戻っ

        • 短編小説『Lifework』

           怯える捨て猫の首を絞めた。寒さに凍える彼女の細かい震えがいつまでも手のひらで消えない。橋の下から雪の舞う街を眺めてみた。白と黒が強調された世界では僕の分からない生活が数え切れない程繰り広げられていることを想像する。冷たくなった旧友を抱きしめようとして初めて彼女ではなく彼だったことを知った。どちらでも構わないと思った。  凍死に限りなく近いところにいた僕の眼を覚ましたのは、雷鳴みたいにいきなり飛び込んできた泣き叫ぶような声だった。「シュヴァイガー」という人を探しているらしい。

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        短編小説『繭糸と梔子』

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        記事

          短編小説『水溜りの月』

           鏡に問う。 「鏡よ鏡よ鏡さん、世界で一番美しいのは誰?」  ではなく、ニヤケ顔でこう訊く。 「お前は誰だ?」  繰り返す。リフレインするほど言葉は重みを増して、鏡はぼやけていく。 「お前は誰だ?」  この恐ろしい表情をした男は、逸らしてしまいたい目は、叫び出しそうな口は、今にも飛び出して襲いかかってきそうな、お前は、誰だ?  洗面台から男は呆けた顔で玄関へ向かう。何処へ行きたい訳でもないが、恐怖がこの場へ留まることを許さない。悲鳴を上げたくともそんなことをした瞬間に何かが自

          短編小説『水溜りの月』

          短編小説『唾棄』

           飼い殺しにされる犬の生涯について考えたりしているのは酔っ払って朦朧とした頭だからではない。どこからか聞こえ続ける遠吠えに耳を澄ましながら、地面から起き上がれない重すぎる身体を不自由に思った。もう今夜はここで寝てしまおう、笑いすら込み上げる諦念に包まれながら目を閉じた。しかしすぐに絶叫にも似た嬌声が私から眠気を奪う。どうにか上体を起こすと、地べたに座り込んではしゃぐ者等が見えた。雑居ビルの隙間、細く暗い路地に寝転ぶ私とは正反対の、街の灯りを吸収しながら何倍にもして光を振り撒い

          短編小説『唾棄』

          短編小説『地獄に堕ちたメイドども』

           可愛い、と僕に向かって言ってきたその人の頬を打っていた。自分でも気づかないうちに。高い破裂音がひとつ。それから、潮が引いていくみたいに教室から喧騒が消える。首を左右に動かして、誰もがこっちを呆然と眺めているのを見て、僕はその場を逃げ出した。  メイドの衣装を着て体育座りをすると、こんなに心許ない気持ちになるんだ、と初めて知った。出来ればそんなことは永遠に知らないでいたかった。体育館の裏、ここ最近晴れが続いていたのに何故だかじんわりと湿り気があるように思える日陰で、僕は小さく

          短編小説『地獄に堕ちたメイドども』

          短編小説『天使回路』

           あんまり遠くに行くなよ、って言ったその時に感じた気持ち。子供が出来たらこんな感じかな、というか、彼女ってものが出来たらこんな感じなのかな、というか、とにかくあの時に僕は生まれ、同時に死んだのだ。  夕日に染まるゴミ処理場、紛れもなく苦悩に満ちた現世の一部で、僕たちは生きながらにして死んでいた。 「おかえり」  真っ黒に全身汚して戻ってきた彼女の姿に、僕は救われる。彼女は天使なのだ。あまねく人々の苦痛を全てその身に受け止め、こんなにも汚れてしまう。実際のところはというと、ただ

          短編小説『天使回路』

          短編小説『減法混色』

           ドアノブをつかんだ手に静電気が走った。季節外れのその感触を煩わしく思いながら資料室の中に入る。いつ来てもここは埃だらけだ。業務上沢山の人間が毎日出入りしているはずなのにまるで長いこと放ったらかしにされている物置のよう。誰か掃除しろよ、と恐らく会社の誰もが思っている。でも誰もやらない。そうやって長年降り積もった埃たちは今朝もこうしてちょっとずつ僕も吸い込むことになってしまう。  取ってこいと指示されたのは、昨日の終業間際に届いたSxS(エスバイエス)だった。SxSというのは板

          短編小説『減法混色』

          短編小説『12ストリングスチューニングレスハイパーパーフェクション』

           Show A Person A Clean Pair Of Heels.  尻尾巻いて逃げ出す、という意味の慣用句。それがあたしたちのバンド名だった。そのバンドはたった今、解散した。  なんの前触れも無く突然ボーカルの男と連絡が取れなくなってから一ヶ月が経った頃、ベースが「バンドを抜けたい」と申し出た。良い機会だから音楽から離れて真面目に就職しようと決めたらしい。ドラムと一緒にいくら説得しても決意は揺るがず、それどころかやがて感化されてドラムまで就職したがった。あっという間

          短編小説『12ストリングスチューニングレスハイパーパーフェクション』

          短編小説『レトロニムに惑う』

           黒沢楓が好きだ。長く艶やかな黒髪が、少し見上げる形でなければ目を合わせられないほどの背の高さが、いつも私と一緒に帰ってくれることが、低めながら甘い響きを持つ声が、好きだ。もうこれは、ここまで育ってしまった思いは、隠してなどおけない。だから告白することに決めた。放っておいたらダラダラと最悪な形で漏れ出してしまいそうだから、そうなる前に自分で伝えたい。 「ツナ缶よりは絶対まぐろフレークのほうが美味しいのにさ。値段も全然変わんないんだよ? でもいっつもツナ缶なんだよ。ありえなくな

          短編小説『レトロニムに惑う』

          偽病六尺 #3 「2023年の総括」

           人の時間は早いね。これ多分一年を振り返る系文章の今年における最多登場フレーズだと思う。そんなことはさておき。もう今にも2023年が終わってしまう。これといって印象的なことも無いなと思っていたら年末に立て続けに大変なことが起こってしまって未だ少し呆気に取られたままで、軽いショック状態からギリギリ立ち直れていない可能性がある。しかしひとまず色々脇にどけておいて、例年通り個人的ベストムービーやら何やら振り返っていこうと思う。 映画今年観た映画のベスト5は以下の通り。 1位 フ

          偽病六尺 #3 「2023年の総括」

          偽病六尺 #2 「Glare」

           わが子が巣立っていくのを見届けるというのはこういう感覚なのかしらとひたに思うのであった。ヤマシタトモコ『違国日記』最終十一巻を先程読み終えての現在の心情。田汲朝という少女に対してであるとともに『違国日記』という作品そのものに対してでもある、われとわが手を離れていってしまうものへのさびしさにひしゃげている。恐らくこのままいくと私は今生では子供を持つということは無いだろうから、どこか擬似的に貴重な体験をさせてもらえたような気分でもある。槙生ちゃんは「育ててない」けれど。それで言

          偽病六尺 #2 「Glare」

          偽病六尺 #1 「そろそろ名前を変えないと」

          この日記とは名ばかりの月報と呼ぶにもサボってしまいがちなこれを始めた頃は今ほど「Z世代」ってものの知名度が高くなかったからこいつはいいやとタイトルに使ったんだけど最近巷でよくこの言葉を耳にするようになってしかも大抵良くない文脈の中に入れ込まれているし一応生まれ年的にちゃんとその世代に自分は該当するんだけど今や世間一般のイメージは「今の十代の子達」みたいになっているのでアラサーのこんな私が自らをそう呼ぶのは恥ずかしい気がしてきたからタイトルを変えたいと思う日々です。オタク早口。

          偽病六尺 #1 「そろそろ名前を変えないと」

          暗黒日記Z #40 「来世は人外がいい」

           リアクション動画を見るのに数年前からハマっている。特に海外の方の動画。アニメやニコニコ動画が好きな人なら一度は目にしたことがあるであろう「海外の反応」とかあの手のやつだ。沢山の外国の方々の顔がワイプのように映し出されていて、中央にはかなりボカされていたりフィルターがかけられていたりして音声も極限まで絞られたアニメ本編が載っているやつ。あのスタイルの動画に使用されていた内の一人である「伯爵ニキ」「お茶ニキ」といった呼ばれ方で知られるTeeaboo氏が気になって元動画を見に行っ

          暗黒日記Z #40 「来世は人外がいい」

          暗黒日記Z #39 「ローソンの月見とろろそばが食べられないこんな世界なんか一緒にヒャッハーしちゃおっか」

          全部全部めちゃくちゃになっちゃえ〜、と思いながら温玉の消えたそばと半熟ゆで卵を買って上手くすればあの味を再現出来るのではなかろうかと挑戦したところ無事失敗に至る。後日ファミマでとろろそばと温泉たまごを買って組み合わせてみたけどやっぱり私が愛したあの味にはならなかった。まるで知らなかったが鳥インフルの影響で卵が今かなり高騰しているようなので、それが収まるまでの一時的な措置であることに期待を寄せておきたい。そうじゃなかったとしたら最早完全自炊であの味を超えることを目指してみるしか

          暗黒日記Z #39 「ローソンの月見とろろそばが食べられないこんな世界なんか一緒にヒャッハーしちゃおっか」