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情けは人の為ならず

私が初めてひとりで海外に行ったのは、23歳の時だった。

私は自信をすっかり失っていた。こんな自分はもう生きていけないんじゃないかと思った。なにもする気にならない。自分を責める言葉しか思い浮かばない。そんな時、ふと小学校2年生の頃の夢を思い出した。小2で書いた作文に『世界一周したい』と書いたのだ。『なぜそう思うのかと言うと、行ってみなければわからないからです』と書いたのだ。

そして、小2の頃の夢を、大人になってゆく私がなぜ封印したのかと言うと、英語が話せないからだった。海外旅行は無理だと決めつけていた。

自信を失った時『自分が絶対出来ないと思っていることをしよう』と思った。自信を取り戻すにはそれしか残ってないと思った。自分には絶対出来ないこと。それはひとりで海外に行くことだった。

ひとり旅も初めてなら、海外も初めてのこと。予定も立てず最初に泊まる宿だけ決めて、パスポートとチケットを持ち、日本を旅立った。行先はインド、当時の格安航空券で、あちこちに寄りながらインドにたどり着いた。

インドのカルカッタ(コルタカ)の空港に着くと、出口から出ずに、入り口側に回ってタクシーを拾った。出口から出ると、旅行者を待ち構えている客引きにボッタクられるらしいからだった。確かに入り口側には客引きも居ず、英語もあまり上手でないタクシー運転手を捉まえて、行先を告げる。

空港からの道路には、車だけでなく、荷車や、バイクタクシーや、リキシャと言われる人力車や、牛!!が、溢れかえっている。人を牛を、バイクを、ぐんぐん追い抜いてバスがカーチェイスかと思うほどのスピードで走る。砂埃の舞う道に、腰に布だけ巻いた人が荷車を引き、肩から布を垂らしてリキシャを走らせる人。人、人、牛、人。

なんだか、見たこともない光景に、ワクワクがとまらない。

お腹の底の方から、笑いが込み上げてくる。『私はインドに居る!!!!』そうして着いた安宿に荷物を下ろすと、しみじみと思った『日本を出てよかった』と。そして、その当時日本のニュースを賑わせていた自死したアイドルや後追い自死をした若い人たちのことを思った。『連れてきてあげたかった』。

私は日本を遠く離れて、やっと息が出来た。

もう私は普通の人のふりをしなくてよいし、もう私は誰にどう思われるかなんて考えなくていい。どんな格好をしていてもよくて、お腹が減ったら何か食べ、眠くなったら眠るだけだ。

私にはしなければならないことはなにもなく、私を責める人も居ない。安宿のある通りには、道端で寝ている人もたくさん居たし、ベランダで寝ている人もたくさんい居た。たったそれだけのことなのに、ものすごい解放感だった。

私は、そうやって、なにも決めず、なにも考えず、自分の足で歩いて、自分の目で見て、自分の手で触って、自分の気の向く方へ旅を続けていった。

バラナシに行った時に、「ガンジス川で朝日を見ない?」と誘われて、早朝ボートに乗って朝日に向かった。すると朝日を浴びながら涙が止まらなくなった。感動の涙だった。『生まれてきてよかった!』生きているだけで嬉しいなんて、初めての経験だった。

IMGガンジス川の朝日

始めてのひとり旅を3か月で終え、その後は、アルバイトをしてお金をためては海外に行くようになった。私の心が満たされるまでの間、私は、通り過ぎるだけの土地の人々の生活を顧みることはなかった。私の心がその土地の人々の親切に癒され、心が満たされてくると、だんだん人々の暮らしが気になってきた。

小さな子どもが食べ物を求めれば、手持ちの食べ物を渡し、道端で子どもを抱えて物乞いしている人がいれば、小銭を差し出すようになっていった。そして、仲良くなったチベットの女性には、日本から子ども服を送るようにもなった。ネパールにあったチベット難民キャンプ宛てに。私は、目の前に居る人に、自分の出来るほんのちょっとのことをした。見過ごすと、自分が辛いということに気づいたからだ。

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時は流れ、20数年前からはケニアのスラムに暮らす子どもたちの為に何が出来るのだろう?と考えている。

そして、この世界の片隅で生きる人が、ひとりでも助かれば嬉しいと思ってこれを書いている。ケニアのスラムの子どもたちを応援するサイト「マゴソスクールを支える会」の早川千晶ブログもぜひ読んでほしい。

http://magoso.jp/hayakawa

いくら息苦しくても、日本を飛び出すどころか、家からさえ出られない今、ネットの向こうに広がる世界と繋がってもらえたら、嬉しい。

画像2010 ケニアスタディツアー 068

追記;私のこの記事のサポートは、手数料を除き全額を早川さんの食料配給に寄付します。







書くことで、喜ぶ人がいるのなら、書く人になりたかった。子どものころの夢でした。文章にサポートいただけると、励みになります。どうぞ、よろしくお願いします。